第57話 初のダンジョンアタック
朝、隣にはミレーヌさんがスヤスヤと寝息を立てて寝ている。
昨晩は夜の帝王を持ってしても敵わぬ相手がいると知った…いや、単に抵抗しようとしなかっただけだが。主導権を握ろうと思えばできたけど、オレの上で気持ち良さそうに腰を振るミレーヌさんを見てその気が失せた。しかし、夜が明ける直前まで元気いっぱいだったな。流石前衛。ん?鞭って前衛か?後で聞いてみよう。
あ、起きた。うぉ!!
布団を吹っ飛ばして、鏡の前に行く。肌のチェックをしているようだ。
『あぁ、信じられない、これよこれ。転生者の化粧品を持ってしても実現できなかった肌のハリ、潤い、凄い!シミも消えてるわ』
喜んでもらえて何よりだが、今の内に自分の立ち位置をはっきりさせておこう。
「ミレーヌさん、はっきりさせておきたいのですが、オレは貴女の奴隷にはなりませんよ。この夜の帝王を使って冒険者として生きていくつもりです」
折角の異世界だ。誰かに従うのではなく自由に生きたいからな…あと、あの黒パンは勘弁して欲しいし。
『そうね、アナタのスキルを十全に活用するには女性の奴隷でパーティーメンバーを固めるのが理想だものねぇ。
となると、私がアナタの奴隷になるという手も無くはないのだけど、ローナのAランクパーティーという肩書きが自由にさせてくれないのよね〜実はSランク昇格の話もギルドマスターから来てるしねぇ』
「え?マジっすか?」
『そう、マジよ。
私もうローナのダンジョン踏破済で、10回くらい周回してるの。他の国にもっと深いダンジョンかあるのは分かってるけど、環境の変化はストレスが溜まるって言うじゃない?美容に悪影響がありそうで、引っ越しとか旅とか、ここ数年間しないようにしてたの。で、やることなくてダンジョン周回してたってワケなのよぉ。
そしたら、ギルドマスターからSランク昇格の話がきたの。多分ここに定住しろって意味も含まれてると思うわ。』
『オレのパーティはしばらくローナにいるから、声かけてくれればお相手しますよ』
『分かった。肌の状態が気になったり、ウチの奴隷たちが疲れてるときはお願いするわぁ。
・・・ところで、一応忠告しておくけど、ダンジョンの中は無法地帯よ。場合によっては逃げ場もない。気を付けることね』
「ええ、理解しているつもりです。ダンジョンの中は助けてもらわなくてもいいですよ。何せ今回ミレーヌさんとまぐわったことでかなり強くなりましたから」
ミレーヌさんはオレの奴隷ではないのでステータスは確認できない。だか、補正値を見ると力が150上がっていた。ミレーヌさん力が1500以上あるということだ。
気が向いたらダンジョンの外で助けてください」
『フフッ、善処するわ』
・・・・・・
住処に無事戻ってきた。ニーナたちは、オレが昨日ミレーヌさんに拉致られて心配してたらしい。何ともなくはなかったが、昨晩も今後も問題ないことを伝えた。
そして丸一日休んで、今、初のダンジョンに挑もうとしている。
「さて、行くか」
レイラとキャロルを連れてダンジョンに入る。
ダンジョンは難易度にも寄るが低階層はかなり安全だ。モンスターも弱く、マップも変わらない。ローナの場合10階層まではマップは変わらない。ギルドに地図も売っているので購入済みだ。そして俺たちの目的地にすぐ着いた。
第1階層の行き止まり。ここに来た理由は一つだ。
着いて3分も経たない内に別のパーティが来た。ダニエルのパーティだ。
『てめえ、わざわざ人気のないところにおびき寄せてどういうつもりだ?』
「ダニエルさんがオレに話がありそうだったから話しやすいようにしただけだ。で、何か用か?」
『けっ、用なんざぁ最初から変わらねぇよ。てめぇをぶっ殺して奴隷を犯す。それだけだ。』
「そうかい、お仲間もダニエルと一緒の考えか?」
ダニエルが当たり前だろという顔をしてるが、ダニエル以外が顔を合わせてから発した言葉は全く逆だった。
『ダニエル、悪が俺たちは手を引くぜ。こいつはミレーヌさん気に入られたようだから、こいつを殺ったらどんな報復があるかわからねぇ。
いや、それ以前にこの状況だ。自分より高いランクのパーティに行き止まりに追い詰められていいるにも関わらず、勝つ気でいる。奴隷パーティは異常な奴が多い。ダニエル、止めたほうが賢明だ』
へぇ、お仲間は冷静なんだな。ダニエルの決断は?
『たかが弓士ごときに恥をかかされたんだぞ!こいつらを殺して、奴隷を犯さないと気が済まねぇんだよ!』
そう叫んで単騎で突っ込んでくる。そして通路の半ば辺りでボンッ!という音と共にダニエルの動きが止まる。ヤエの糸を材料にキャロルが作った罠が発動した。
『な、何だこりゃぁ!』
「見ての通り、蜘蛛の糸だよ。本来お前のパーティ全員を拘束する予定だったから広範囲な罠になってる。お前1人じゃ抜け出せないだろ?」
『くそっ、お前ら何してる助けろ!』
仲間は止めたのに助けを求めるとか勝手過ぎるだろ。一応、牽制はしておくか。
「悪いが助けようとしたらまとめて攻撃する」
『ああ、助けやしねえよ。今のでほとほと愛想が尽きた。お前がダニエルを殺しても黙ってる。それで俺たちは今まで通り生活ができるんだろ?』
口約束になるな…ちょっと脅しておくか。
「ああ、その認識で問題ないが、もし、オレがダニエルを殺した事が広まった場合どうなるか、ちょっとだけ見せてやるよ。ダニエルを使ってな」
キャロルに合図を送ると闇魔法を唱える。
『ダークネス』
ダークネスは範囲によって濃さが変わる。今、キャロルはオレにダークネスをかけた。オレの周りは闇に包まれたからヤエの魔法陣は隠せる。当然オレの視界はゼロだが、蜘蛛の巣にかかって動けない的だ。外すわけない。クリスティーナから出来るだけ秘匿しろと言われたからな。可能な限り守ってやるさ。
ヤエがオレにしがみつき、4つの魔法陣を描く。6つにすると威力がありすぎてダニエル以外を巻き込みかねない。
『待て!助けてくれ!』
ダニエルの必死の懇願は流す。
「悪いな、オレは聖人君子じゃねーんだ。殺意を向けた奴にはキッチリ報復させてもらう。死ね、ウィンドボム」
放たれた矢はダニエルに命中。次の瞬間、ダニエルも蜘蛛の罠もズタズタ切り裂いた。断末魔さえ掻き消すほどに。さらにダンジョンという空間では風魔法が壁に当たって終わりではなく、空間のある方に向かいやすくなっている。
威力上げた魔弓に込めた風魔法はダニエルの仲間の数メートル手前で何とか止まった。あっぶねぇ。一応、謝っておこう。罠も壊しちゃったし、今襲われたヤバいからな。
「すまん、手加減したんだか、風魔法、当たりそうだったか?」
顔を真っ青にして口々につぶやく
『あ、あれで手加減してたのか?』
『頑丈なダンジョンの壁が傷ついてるぞ』
『ダニエル見捨てて良かったわ〜』
あら?謝った事より手加減した方に驚かれたな。
『ガレスとか言ったな。俺たちはお前に関わらない。ダニエルもダンジョンのモンスターに殺された。それでいいんだろ?』
「ああ、それで問題ない」
ダニエルの仲間はそそくさと去って行った。
レイラが安心したのか気が抜けたような口調で話しかけてくる『はぁ~、上手くいって良かったよ。これでローナのギルドで喧嘩を売ってくるやつはいなくなるかね』
「そう願いたいね」
この世界初のダンジョンアタックは人殺しで幕を開けた。今後は平和にダンジョン攻略できることを祈るばかりである。
ん?キャロル?
『マスタ、お腹すいた』
…うん、平和だな。




