第56話 ローナの奴隷パーティー
ー 冒険者ギルド ローナ支部 ー
ローナの冒険者ギルドが広はいな。バスクの4〜5倍はある。吹き抜けで2階も解放されているのか。
冒険者ギルドではある不文律が存在する。荒くれ者が集う冒険者ギルドでは喧嘩が絶えない。肩がぶつかっただの、睨んできただの、その程度のことで喧嘩になる。いつしか、冒険者は自身のランクを示すタグを付けるようになった。一目でランクが分かれば、低ランク冒険者が知らずに高ランク冒険者に喧嘩を売ることがなくなる。自然発生的に始まったプレートを見えるところに付けるという行為は、今では常識となりギルド側も冒険者登録する際、ギルドカードとプレートを発行している。
そして奴隷にも決まりがある。街では奴隷の首輪を隠してはいけない。奴隷が入れない施設や、奴隷お断りの店があるからだ。
そんなわけで、オレたちがDランクの奴隷パーティーということは一目で分かる状態となっている。
まずはギルド転属の手続きのためニーナが受付の列に並ぶ。奴隷のレイラとキャロルを連れているから目立つ。そして、何人か何かを企んでいそうな連中がいる…と思ったら、そいつらが一箇所に集まった?・・・ジャンケン始めたぞ、おい。何を決めるジャンケンなのか、容易に想像できる。
順番が回ってきたのでニーナに転属手続きをしてもらう。
『分かり易すぎて呆れたわ』
「ああ、あそこまでいくと一周回って、逆に清々しい」
手続きが終わり、受付けを離れるとさっきジャンケンに勝ったと思われる連中が立ちはだかる。
『オレはCランクパーティー、ボンバーヘッドのリーダー、ダニエルだ。
Dランクごときが奴隷パーティーとは随分調子乗ってるじゃねぇか。お前の奴隷、俺達にも味あわせてくれよ』
「断る。じゃぁな」
速攻で立ち去ろうとするが回り込まれた。
『てめえ、俺達を舐めてるのか!!奴隷を飼ってるようなクズは俺達が性根を叩き直してやるって言ってんだよ!』
「へー、アンタは奴隷を飼ってる奴はクズだと言うんだな。オレの記憶が確かなら、ローナにも奴隷パーティーがいたはずだが、そいつらも含めてクズってことでいいよな?」
『いやいやいやいやいや、ち、違うそうじゃねぇ!そんな事は微塵も思っちゃいねぇ!!
そう、オレはお前らが低ランクにも関わらず奴隷を囲って調子乗ってやがるから先輩冒険者として性根を叩き直してやると言ったんだ。言わばこれは教育だ』
ジャンケンに負けた連中から野次が飛ぶ。
『ダニエル、情けねぇぞw』
『なんだその苦しい言い訳は!』
『低ランクに言い負かされるな、頑張れ』
好き勝手言ってやがるなぁ。
でもダニエルとか言う奴の焦りっぷりを見ると、ローナの奴隷パーティーは相当ヤバい奴なのか…と思った次の瞬間、
パァァァン!!
と、乾いた音が響き渡り、辺りが静まり返る。音が鳴った方向を見る・・・鞭か?
鞭を持った妖艶な女性がゆっくりとコチラに歩いてくる。Aランクのプレートを首に付けている。よく見ると相当鍛えられた筋肉だ。かといってゴリゴリのマッチョというわけでは無い。女性として美しさを極めながらも強さを兼ね備えた雰囲気を纏っている。
そして何より、周りの奴隷5人がクッッッソやべえ。全員男、全員マッチョ、そして全員パン一!
黒のパンツ一丁かよ。景観を損ねるなんてレベルじゃねーぞコレ。
静まり返る中、妖艶な女性が口を開く
『何やら私のことをクズ呼ばわりした奴がいるみたいだけど、どこのどいつかしら?』
ダニエルが完全に怯えた状態で言い訳する。
『ち、ち、違うんだミレーヌさん。言葉のアヤだ。ちょっと生意気な後輩を教育してやろうと思っただけなんっ、ぐぇぇ!』
『よく回る口だねぇ』
なぁ!?一瞬でダニエルの首に鞭が巻きついた状態で引き寄せられていた…いつ鞭を振るった?見えなかったぞ。
『まぁいい、とっとと失せな』
ダニエルは助かったと言って去っていく。さーて、オレも失せようかね。
パァァァン!
オレの前で鞭が跳ねる!
『どこに行く気だい?』
「失せろと言われたので失せようかと」
『面白いやつだねぇ。だが逃さないよ。ダニエルとかいうやつはクズだ。だが、やつの言い訳は、一応言い訳としては成り立っていた。だから大目にみてやった。
アンタはさっきの一言で私を巻き込むことになった。勝手に巻き込まれた側としては面白くない話だ。そうだろう?』
くっ、何が勝手に巻き込まれただ。面白そうだから首を突っ込んできたの間違いだろう。
しかし、困ったな。オレが想定していたトラブルはダニエルとかいうクズの方だ。恐らくあのまま、ダニエルとの言い争いが続いていたら、決闘を申し込まれると予想していた。そして決闘の条件は奴隷解放あたりに落ち着くと思ってた。つまり決闘→戦わずに負けを宣言→奴隷解放→レイラとキャロルが自分の意思で再びオレの奴隷になるというシナリオを描いていたのに、まさかローナのAランク奴隷パーティーが首を突っ込んてくるとはとは思わなかった。
どうしたものか?予想とは全く違う展開で困っているんだが…聞いちゃうか。
「そうですね…どうしたら許してくれますか?」
『私は最初から事の成り行きを見ていたが、アンタは最初から自分よりランクが高い冒険者に絡まれることを予想していた。そしてそれに対する対応策を用意していた。違うかい?』
「その通りです。オレの態度はそんなに分かりやすかったですか?」
『まぁね。全く困った顔をしてなかったわ。あれは戦いに挑む前の顔だった。そのまま見てても良かったけど、興味が湧いたから出しゃばらせてもらったよ。
さて、どうしようかねぇ、さっきのクズ連中に絡まれたとき、アンタがどうやって切り抜けようとしてたか言葉で説明されるのは興ざめだわ。ここは一つ、私がアンタに決闘を申し込むから、準備してた対策を私にブチかましなさい。私が満足する攻撃だったら許してあげるわ』
脳筋の発想だな。そもそも戦わないつもりだった…とは言い難い状況になっちまったか。
こうなったらあまり見せたくないけど、ヤエの魔法陣で本気で殺しにかかろうか?
すると横から別のパーティーが話しかけてきた。
『ミレーヌさん、その辺で許してあげてくれませんか。どうせ暇つぶしなんでしょう?』
そこには爽やかな1人の青年が立っていた。付けているプレートを見るとAランクだ。
ミレーヌと呼ばれた女性が楽しそうに返事をする
『カズヤじゃないか。万事に対して事なかれ主義のアンタがしゃしゃり出てくるなんて珍しいね』
カズヤ?もしかしてサクヤ言ってたのって…
『神託を授かりまして、彼ー、ガレスと言うのですが、ガレス君を助けなさいと言われたので、ミレーヌさんに楯突く気はありませんが、止めに入らせてもらいました。あ、ちなみにガレス君も転生者ですよ』
ミレーヌさんの肩の力が抜ける。戦闘態勢が解除されたらしい。
『なんだい、それを先に言いなよ。転生者には恩があるからねぇ、私は転生者に優しいのさ』
ふーっ、カズヤさんのおかげで事なきを得た。お礼を言っておこう。
『はじめましてカズヤさん。ガレスと言います。神託で転生者パーティーが助けてくれるとは聞いていましたが、今回は本当に助かりました』
『どういたしまして。僕はほとんど何もしてないけどね。最初のダニエルたちを追っ払ったのはミレーヌさんだし』
一応、ミレーヌさんにも礼を言っておくか。
「ミレーヌさん、ダニエルを追っ払ってもらってありがとうございました」
『構わないよ、転生者は時として文明の発展に大きく貢献することがあるからね、私は可能な限り助けるようしてるのさ』
「文明の発展?過去に転生者が持ち込んだ技術によってミレーヌさんが助けられたってことですか?」
『それはもう、毎日助けられてるわよ。スキンケア製品にね。昔は肌荒れが酷いうえに、冒険者稼業で生活が安定しなかったのよ。そのせいでとても女性の肌と思えない状態だったの。
転生者が開発したスキンケアを使うようになってから劇的に改善されて今の状態になったのよね。もしかしたら、またそういうことが有るかも知れないから転生者は極力助けるようにしてるのよ』
なるほどと思い、オレは無意識に次の言葉をボソッと言ってしまった。
「肌のことならオレのスキルでも助けられるな」
!!!
『今なんつった?お?』
鬼の形相のミレーヌさんに詰め寄られる。
「い、いやこんな公衆の面前では話しにくいのですけど」
次の瞬間、景色がブレた。ミレーヌさんに抱えられて高速移動してると気付いたのは数秒後だ。わけのわからぬ間に個室に放り込まれた。
『さあ、洗いざらい喋りなさい
!』
オレは夜の帝王に肌を綺麗するスキル効果があることを含め全てを吐いた…
その後、こっちの世界で初めて、いや、前世も含めて初めて女に犯された。




