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閑話 クリスティーナ王都に帰還する

私は王都に戻ってきた。先程、王都の城門で貴族用の門を通ったのだけど、衛兵や偶然居合わせた下級貴族、少し離れた門で手続きをしている平民たちまで、私を祝福してくれた。

大精霊の加護を授かったことは順調に広まっているようね。

もうすぐ家だけど加護の効果を改めて見る。


大精霊の加護(水)


効果1

水魔法の威力3倍


効果2

水魔法の被ダメージ80%カット


効果3

水場(海、川、湖など)でのステータス10%アップ


効果4

水場で精霊との交信可能


効果5

水の浄化スキル習得


効果6

水属性の魔物の好感度50%アップ


一応、1人でも上位魔法が使えるようになるとアクア様に誓った身としては今後も修行はするつもり。その意味で加護の効果はありがたいわ。

ただ気を付けなければいけないのは魔法の出力が上がっている分、消費魔力も上がっていることね。肝心なところでガス欠にならないようにしないといけないわ。


しばらくすると侯爵邸に着く。

家に入ると、中央にお父様とお母様、お兄様がおり、その周りに使用人総出で出迎えてくれた。


『『『クリスティーナお嬢様、おめでとうございます!!』』』


「皆ありがとう。でも大袈裟ではなくて?」


お父様とお母様がそれを否定する。

『大袈裟なものか。大精霊の加護を授かったのだぞ。長い王国の歴史の中でも、大精霊の加護を授かった者は数えるほどしかおらんのだ。存分に誇るといい』


『そうね、クリスは昔から控え目なところがあるから、こんなときくらい目一杯自慢しなさい』

そう言って私を抱きしめる。


「お父様、お母様、ありがとうございます」


『流石、我が妹だ。次期当主の座を譲った僕の目に狂いはなかったね』


「ラウルお兄様…」

フェアリーテール侯爵家の当主の決め方は特殊といえる。

優先されるのは精霊や妖精とのつながりだ。いくら優秀な人物であっても、弟や妹に精霊や妖精のつながりがあった場合、そちらが優先される。

全ての後継者候補が成人になった時、誰もつながりがなければ長兄が当主となる。

兄はある時から自信をなくし、早々に精霊や妖精とのつながりを求めることを諦めた。

まぁ、自信をなくさせる原因となったのは私なんだけど…


『そんな顔をしないでおくれ、我が妹よ。僕は今回の結果にとても満足しているし、心から祝福しているのだよ。

さぁ、クリス、君の活躍を詳しく聞かせてくれないか』


「ええ、わかりました」


部屋を移し、使用人がお茶の用意をし終わったところで、人払いをする。家族以外で部屋にいるのはオットーだけだ。

その様子を見てお兄様が質問してくる。

『今回、クリスに付いて行ったオットーしか部屋にいないということは、何か秘密にしなければいけない事象が発生したのかな?』


「ええ、お父様には先触れという形で概要はお伝えしましたが、今から詳細をお伝えしますわ」


・・・・・・


今回の旅の詳細を全て話し終えた。お父様が私の頭を撫でながら優しく語る。

『クリス、お前は今回とても内容の濃い旅してきたのだね。

宰相閣下への面会は既に申請してある。近日中に連絡があるだろう』


『…父上、そのガレスという冒険者、フェアリーテール家で囲う必要はございませんか?』


『その男は転生者なのだろう。ならば過度な接触は避けるべきだ。彼等転生者は自由を重んじる傾向にある。恐らく、彼もそうなのだろう。なぁ、クリス?』


「はい、お父様の仰る通りです。蜂の巣の件にしても、蜘蛛の進化条件にしても、私に押し付けようとしていましたからね。国家権力と関わるのは面倒だそうですよ。

ガレスは出世欲のようなものは全くありませんでした。物欲は多少ありましたが、自身の冒険者としての成功を信じていて、金は自分で稼げると考えているようでしたね。ただ性欲は異常でしたよ。奴隷を雇ってましたけど、彼女は夜の相手が1人では体が持たないと言ってましたし」


『クリス、はしたないですよ。結婚前の女性が話す内容ではありません』


『明日は学校に行くのかい?』


「いいえ、1日休んでから登校しようと思います」


『うむ、それがいいだろう。

十分に休みなさい』


『はい、お父様』


・・・・・・


翌日、宰相閣下から呼び出しがかかった。なんと、陛下も一緒に話を聞くという。下手な格好では行けないのでメイドたちが一生懸命おめかしをしている。


「宰相閣下への報告だけでも気が重いのに陛下もご一緒されるなんて、私の精神がもつか心配だわ」


側に控えているナターシャが鼻で笑う

『フフッ、なに普通のご令嬢みたいなこと言ってるのよ。貴方はそんなタマではないでしょう。楽しんできなさいよ』


「普通の令嬢でないことは認めるけど、気が重いのは確かよ。報告以外にな〜んか言われそうじゃない?」


『それはあり得るかもね。大精霊の加護だもの。国家の一員として何らかの役割を課せられる可能性はあるわ』


「はぁ、憂鬱だわ。でも行くしかないのよね…」


・・・・・・


王城に着くと驚くことに陛下の執務室に通された。謁見の間でも応接室でもない。完全に非公式としての扱いなのだろう。

部屋に入ると国王陛下と宰相閣下がお茶を飲んで談笑している。陛下が気付いて私に挨拶をする。


『おお、来たか。久しいなクリスティーナ』


我が国の国王陛下シルベスト・リンドブルム。いつもニコニコしてる好々爺だ。


「お久しゅうございます、陛下。クリスティーナ・フェアリーテール。御前に參上いたしました」


『非公式の場だ。堅苦しい挨拶は要らぬよ、のう宰相。』


『ええ、堅苦しい挨拶も、言葉遣いも抜きで構いませんよ』


こちらは我が国の宰相閣下ルイス・カリオン。陛下より一回り若い。初老の男性といったところか。


「…かしこまりました。では、宰相閣下もお久しぶりございます」


『久しぶりですね。今回の旅については侯爵から聞き及んでいますが、色々と有益な情報を得られたようですね。詳しく話を聞かせたもらえますか』


『承知いたしました。まず ー』


・・・・・・


一通り話をし終えると宰相が質問してくる。


『蜘蛛は独自に育てているのですか?』


「今は私と執事の2人がテイムして育てております。旅の途中でスパイダーまで進化しましたので、今は魔法系のスキルを習得させるべく試行錯誤しています。もしマジック・スパイダーの進化条件を満たせない場合は改めてテイムし、魔武具使いのスキルを覚えさせます」


『結果については報告をお願いしますよ。今は周りの国と比較的友好な関係を保っていますので急ぐことはありません。秘匿性を重視して進めましょう』


『蜂の巣についてはどうじゃ?余が探索の命を出したはずだが』


『一つ見つかりました。隣国、ファフニール帝国との国境付近にございます。騎士団と魔法師団を動かすとファフニール帝国を刺激しかねないので駆除出来ずにいるといった状況です』


『ふむ…クリスティーナよ、もう一度、蜂の巣を潰してきてくれんかの』


「?はい、勅命とあらば」


『討伐の面子はクィーン討伐に成功した侯爵家の騎士全員に加え、我が国が誇る魔武具使いの3人じゃ』


「・・・今、何と仰られましたか、へ・い・か?」


『宰相、気の所為じゃろうか、クリスティーナが怒っておるように見えるのぉ』


『陛下、気の所為などではありません。同じことを言われれば私も怒ります』


リンドブルム王国が誇る魔武具使いの3人。第3騎士団長ソフィア・ヒメネス、近衛隊副隊長ミゲル・カシージャス、魔法師団団長ペドロ・プレサス。

リンドブルム王国の国民なら誰もが知ってる魔武具の使い手。

そして誰もが知っている、この3人の仲の悪さを!!

どんな状況だろうと顔を合わせれば、比喩ではなく文字通り血が流れる。そんな3人を連れてクィーン討伐なんて無理に決まってるわ。


「あの3人の仲の悪さは陛下も聞き及んでいるかと思います。トラブルなく旅ができるとは思えません」


『クリスティーナの言いたいことは分かるがのぉ、秘匿性を考えたら、今言ったメンバーで行くのが理想じゃな』


それは分かるのよ。

今回の討伐の意図は我が国の戦力増強のため魔武具使い3人のスキルを上げることにある。だから不本意ながらこの3人は確定。他のメンバーとして、成り行きを全て知ってるウチの騎士を連れて行く。秘匿性を考慮するならこのメンバー行くのが理想だわ。こと強さという一面においては問題ないどころか過剰ですらあるし。

でも出発前からトラブル発生が確定しているようなものよ?。誰が好き好んでこんな頼まれごと引き受けるのよ…勅命だから引き受けるしかないんだけど。


「秘匿性に関しましては陛下の仰るとおりでございます…

はぁ、今回の討伐のリーダーは私ということでいいのですのね?ペドロ様は公爵家次男ですが、今回の旅に限り、私が上司となる認識で宜しいでしょうか?

私がやりたいようにやりますがよろしいですか?」


『う、うむ、クリスティーナの認識で問題ない。好きにするがよい』


「では、勅命謹んでお受けいたします」


『よろしく頼む』


勅命だからしかたない。言質は取ったし好きにやらせてもらうわよ。



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