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第52話 別れ

ー 冒険者ギルド バスク支部 ー


ギルドに隣接する酒場で飲みながらニーナの仕事が終わるのを待っている。


「うーん、どうしたものか」


『何を悩んでいるんだい、マスター?』


もう1人奴隷を買おうとしていおり、奴隷商のハンスさんから希望する奴隷が見つかったとの連絡があったのだ。

オレがハンスさんに探してもらっていたのは罠解除系のスキルを持った性奴隷か犯罪奴隷。

ダンジョンに挑むにあたり、必要と思い依頼していた。 


普通のパーティーなら神官や僧侶といった回復役がいる。だが奴隷パーティーの場合、回復役の加入は見込めないと断言できる。

神官や僧侶が借金した場合、教会が立て替える。この時点で借金奴隷、性奴隷の可能性が消える。そして犯罪を犯した場合、教会が管理して危険な地域への奉仕作業が強制される。例えば戦争の最前線の医療班とか。

そんなわけで、奴隷の回復役はほぼほぼいない。

となると、普通にメンバー募集するしかないわけだが、奴隷パーティーに回復役で加入しようとする奇特なやつなんているわけない。

ならば、回復役不要のパーティーを作るしかないと考え、罠解除系のスキルを持っている奴隷を探していたのだ。ダンジョンの危険といったら魔物と罠だからな。


「奴隷商のハンスさんから探していた奴隷が見つかったとの連絡があった」


『朗報じゃないか。何を悩んでるのさ?』


「この間、部屋半壊させただろ。あの出費がなければ余裕で奴隷を買えたんだが…」


『はぁ、金が足りないわけだね。実入りがいい依頼を受けるしかないよ』


「だよなぁ」


そんな話をしていると、ギルドの入り口が急に騒がしくなった。


『おい、クリスティーナ様だ』

『クリスティーナ様が帰ってきたぞ』

『精霊と会えたのか?』

『加護を授かったのか?』


クリスティーナは今日の昼に湖に向かうと言っていた。多分、水の精霊に会えたと思うけど、ちゃんと加護はもらえたのだろうか?

この前、クリスティーナはクィーン討伐祝いで冒険者に奢っているからバスクの冒険者の好感度は高い。

クリスティーナがギルドの講堂の立つと彼女の声を聞くため自然と静まり返る。


『冒険者諸君!今日、私は水の精霊が出現した湖に行ってきた。諸君らは私が加護を授かったかどうか知りたいだろうから今から伝えようと思う!』


へぇ、ちゃんと冒険者にも報告するのか。律儀だな。


『今回、水の精霊に会いに行ったわけだが、予想外の幸運が訪れた。本当に偶然だが水の精霊の他に、水の大精霊アクア様が顕現されたのだ!』


冒険者たちがザワついている。


『そして私はアクア様の加護を授かった!』


冒険者から大歓声があがる。


『すげーな、クリスティーナ様!』


『素敵、最後です!クリスティーナ様!!』


マジか、どういう経緯で大精霊から加護を授かったのか気になるが運よすぎるだろ。

これも報告案件だと思うけど、こんな大々的に触れ回ってもいいのかね。


『諸君!これから一つ私から頼み事をするが、今から伝えることは大精霊アクア様の言葉と同義であると心得よ!』


先程まで騒がしかったギルドが静まり返る…が、直後、クリスティーナはニコッと笑いながら冒険者たちに話しかける。


『そんなに緊張することはないわ。難しいことではないの。水の精霊が出現した場所は精霊にとって神聖な場所だから許可なく入らないようにして欲しい。それだけよ。

既にギルドマスターとは相談済みのことだから詳細は後で公表するわ。みんな、よろしくね』


『さぁ、真面目な話はこれで終わり。ここからは私が大精霊の加護を授かったお祝いよ!全部私の奢りだから、大いに飲んで騒いで、私を祝いなさい!』


冒険者たちが雄叫びでギルドが揺れる。


『さすがクリスティーナ様だ。期待を裏切らねぇ!』


『一生ついていきます、クリスティーナ様!』


『最高だぜ、クリスティーナ様!!』


・・・・・・


ギルドで冒険者が大騒ぎする中、オレは隅のほうでオットーさんの話を聞いていた。


「…なるほど、オレの嫌がらせが良い結果を呼び寄せたわけですか」


『そうなりますな。お嬢様はガレス君にとても感謝していましたよ。何か困ったことがあったら何でも言ってください。侯爵家の対応できる範囲であれば無条件で協力しますよ』


さすがに奴隷の購入代金をくれとは言えない。あ、そうだ。

「じゃ、この前半壊させた宿屋の部屋の修理費用を肩代わりしてもらえませんか」


『分かりました。こちらで支払っておきますのでご安心ください』


「クリス様は王都に戻ったら大変でしょうね」


『ですなぁ。しかし、フェアリーテール侯爵家の次期当主になられるのです。いかなることも乗り越えていただかねば困ります』


「あれ?クリス様って兄弟いないんですか?」


『おられますとも。とても優秀な兄君がいらっしゃいますな。ですがフェアリーテール家では加護が優先されるのです。大精霊の加護を授かった時点で次期当主確定です』


権力が絡む貴族の世界は面倒くさそうだからな、できる限り近づかないと決めていた…が、オレは案外、あの自由奔放な嬢ちゃんを気に入ってしまったらしい。


「オットーさん。オレは近い内にローナに行き、ダンジョンに挑むつもりです。オレごときが言うのも難ですが、オレの力が必要になったら呼んでください。いつでも駆けつけますから」 


『ありがとうございます。お嬢様もお喜びになるでしょう』


それからクィーンの時と同様に飲み明かし、二日酔いに苦しんだ。。。


・・・・・・



ー 数日後 ー


クリスティーナが王都に戻るので見送りに来ている。


クリスティーナがギルマスと挨拶を交わす。

『それじゃぁアラン、精霊の地の管理はお願いね。冒険者は貴方に任せれば大丈夫だと思うけど、貴族が何か言ってきたらウチの名前を出してもいいから』


『承知いたしました。適切に管理いたします』

 

クリスティーナがこちらを向く。

『じゃぁねガレス。アナタが絡むと色々なことが起こって退屈しなかったわ。王都に戻って退屈になったら呼び寄せるから覚悟しておいてね』


「いやいや、退屈しのぎに呼ばれても困るからな。ま、色々起こりすぎたから王都に戻ってもしばらくは忙しいだろ。呼ばれるのはその先だと思って気長に待ってるよ」


『ローナに移住してダンジョン攻略するんだったわね。連絡くらいつくようにしておきなさいよ。探すの面倒だから』


「了解、住処が決まったら連絡するよ」


『じゃ、またね』


そう言うとクリスティーナが乗る馬車は王都に向けて出発した。


さて、お転婆な嬢ちゃんから解放れて気楽にしてると、後ろから筋肉(ギルドマスター)にガッツリ掴まれた。


『ガレス、話を聞こうか。ローナへの移住が何だって?』


あー、やべぇ。ギルマスに話してなかったわ。

それからしばらくの間、ニーナがいなくなると困るからバスクにいてくれと懇願される日々が続いたのであった。



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