閑話 クリスティーナ加護を授かる(クリスティーナside)
水の精霊の出現場所まで後少しで着くはず。
王都から魅力を上げる首飾りが届いたので、早速出現場所に向かっている。
メンバーはいつも通り騎士4人とオットーだ。
湖畔を歩いているけど、魔物には遭遇していない。冒険者がリザードマンを狩り尽くしたからでしょうね。
手持ち無沙汰のナターシャが不満を漏らす。
『暇ね。こうも何も無いと気分が上がらないわ』
普段のナターシャは敬語使わない。私が使わなくていいと言っているからだ。だが、ナターシャ本人からしたら敬語を使う、使わないについては無関心だ。
一度、身分の差について話したことがある。彼女は身分なんてものは社会を効率的に回す役割のようなものとしか考えていない。何とも商家の娘らしい考え方だ。人と人の友誼は身分とは別の次元で考えているから、身分差があろうが、敬語を使おうが友誼を結べると思っている。
だから私はナターシャにとって親友だし、私にとってナターシャは親友だ。
もしかしたら私はナターシャと付き合う前は多少の選民意識を持っていたかも知れない。でも身分なんて役割みたいなものという考え方を聞いて貴族だから偉いとか、貴族だから優秀とかいう考えはしなくなったと思う。平民であっても有能な人間は山ほどいるし、偏見なく接した方が自身の利益にも繋がる。
そう思わせてくれたナターシャには感謝しかない。
「いいじゃない、バスクに来てから今までが色々ありすぎたのよ。たまには何事もなく目的を達成したいわ」
『確かにクリスの言う通りかも。特にガレス君が絡むとね…』
オットーが口を挟む。
『今回の水の精霊もガレス君絡みですが』
『…何事もないことを祈るわ』
・・・・・・
先頭を歩いているフィガロとホセの足が止まる。
『聞いた話ではこのあたりが精霊の出現場所のはずです』
『水の精霊は出現するでしょうか』
綺麗な場所ではあるけど、よく見ると複数の人の足跡や、通りやすくするように、繁みの草を切った跡がある。
明らかに多くの人がここを訪れている。
『ちょっと!あれを見て!』
何も無いはずの湖面に複数の波紋が広がる。波紋の数が次第に多くなる。湖面を注視してるといつの間にか周りが濃い霧に包まれていることに気付く。
っ!明らかにおかしい。ガレスから聞いている状況と違いすぎるわ。
湖面の水が盛り上がり次第に女性の姿をかたどっていく…しかも4体同時に。
そして、4体の内の1体が他の3体と明らかに違う。感じる魔力も、雰囲気も、凡人の私でもはっきり分かる完全に高位の存在だ。咄嗟に私は頭を垂れ跪いた。騎士達もそれに習う。
1体の精霊が明るい声でしゃべる
『良かった〜、やっと私を認識できる人間が来てくれた。最初の人間以来、私を認識出来ない人間ばかりで困ってたの。
アクア様、私だけでも何とかなりそうです』
アク…ア?アクア様ですって!まさか、水の大精霊アクア!!そんな高位な存在が顕現するなんて信じられないわ。
でも半端ない存在感に護衛と思われる精霊が両脇に付いていることを考えると、本物のアクア様としか考えられない。
するとアクア様が明るくしゃべっている精霊に話しかける。
『折角私がこの地に出向いたのです。私が話をつけましょう』
するとアクア様が私に話しかけてくる。
『はじめまして人の子よ。私は水の大精霊アクア。各地に住まう水の精霊を束ねる存在よ』
「お初にお目にかかりますアクア様。私はフェアリーテール侯爵家が長女、クリスティーナ・フェアリーテールと申します。大精霊アクア様にお会いすることができ、幸甚の極みでございます」
『ふふっ、そんなにかしこまることはありませんよ。
今回、私がここを訪れたのにはある目的があったからです』
アクア様がさきほどしゃべっていた精霊を抱きしめながら話をする。
『以前、この子がここを訪れた人間にリザードマンの討伐お願いしたようですね。
リザードマンは退治してくれたものの、この地を訪れる人間が後を絶たず騒がしくて困っていたのです。ここは精霊が住まう神聖な場所です。この子は人間にここへ来ることを控え欲しいと伝えようとしたのですが、この子を認識できたのが最初に来た人間だけだったのです。困り果てたこの子は私に相談しにきたので、私がこの場に出向くことにしたのです。ですが数日前、私が来てから急に人間が来なくなりました。何か心当たりはありませんか?』
まったく、良くも悪くもガレスの嫌がらせは的を得ていたのね。ちゃんと私が謝っておこう。
「そのことにつきましては我ら人間側の配慮が欠けておりました。大変申し訳ございません。既にこの神聖な場への出入りは、フェアリーテール家の名の下に適切に制限しております。今後、ご迷惑をおかけすることはないと誓いましょう」
『それは重畳。私の目的はあなたのおかげで達成できたということですね。ありがたいことですわ』
「いえ、礼には及びません。この地を統べる貴族の1人として当然のことをしたまででございます」
『私は貴女の働きにとても感謝しています。ですので、その働きに対して、私の加護を授けることにより報いようと思います』
ぇ゙、わ、私が大精霊アクア様の加護を授かるの!?宝の持ち腐れにならないかしら。
「私ごときがアクア様の加護を授かってもよろしいのでしょうか」
するとクスクスと笑いながら答える。
『これでも私は大精霊ですよ。この近くであれば、誰が水魔法を行使したのか把握できます。
つまり、先日貴女が水の上位魔法を行使したことを私は知っているのです。上位魔法を扱える実力者なら、私の加護も上手く使いこなせることでしょう』
上位魔法はヤエのおかげで使えたのよ。全くもって上手く使いこなせる自信がないわ。
けど、ここで断ったらアクア様の機嫌を損ねかねないわ。流れに任せて加護を授かる方がいいわね・・・ん?もしかしたら。
私はナターシャに目線を送り、彼女は頷く。
「ご厚意、誠に感謝いたします。どうか私に偉大なる大精霊アクア様のご加護を授けていただけますよう、お願いいたします」
『ええ、喜んで。
ではコチラにいらっしゃい』
私はアクア様のもとへ歩を進める。湖に入るが不思議なことに湖の上を歩けている。
そしてアクア様のまえに跪く。
アクア様が手をかざすと、私の体が光り始める。数秒間とても優しく温かい光に包まれた。
『これで終わりです。
クリスティーナ。今後の貴女の人生に幸あらんことを…』
「加護を授けていただき、誠にありがとうございます。アクア様の名に恥じぬよう努力することを誓います」
・・・・・・
アクア様が去ったあと、ナターシャが私に近づいてきて声をかける。
『大精霊の加護を授かるなんて凄いわね。まぁ上位魔法に関してはヤエの力ありきだけど、発動させたことは事実なんだから大丈夫よ』
「ええ、そう考えるようにするわ。後々私1人の力で上位魔法を使える様になればいいだけよ。そのために努力するわ。
さぁ、帰りましょうか」
・・・・・・
帰りは何事もなくホテルにに着いた。
オットーが嫌なことを言う。
『今日のことも確実に報告が必要ですが、どのように報告いたしましょう』
「そうね、3つとも宰相閣下への報告が必要でしょう。3つとも重要案件だから報告書は作るけど、直接手渡しして詳細をその場で話すようにするわ。面会の段取りはお父様にお願いする。オットー諸々の手配を頼めるかしら」
『承知いたしました』
「それから4人にもやってもらうことがあるわ」
代表してフィガロが返答する。 『なんなりとご命令ください』
『今回私が大精霊アクア様の加護を授かったことについて、大々的に触れ回ってほしいの』
するとフィガロが怪訝な表情で質問する。
『お嬢様にしては珍しいですね。あまり自慢とか積極的にする方ではないと思っておりました』
私の代わりにナターシャが答える
『バカね、自慢なわけないでしょう。蜂の巣の攻略で魔武具使いのスキルレベルが簡単に上がることと、ヤエの進化条件は国家として秘匿すべきことなのよ。でもクリスが大精霊の加護を授かった件は違うわ。元々水の精霊の加護を授かるために学校を休んでバスクに来てるのよ。遅かれ早かれクリスの加護は王都中に知れ渡る。だからこの際、加護の話を他の2つの報告の隠れ蓑として使おうということよ』
『あー、そういうことか。
わかりましたが、加護の話はどこまで喋っていいんですかね。ほら、ヤエの話を伏せる以上、アクア様が、お嬢様が上位魔法を使えたと勘違いしたことは伏せないといけませんよね』
ナターシャが再び口を開く。
『その通りだけど、勘違いしてるのは多分フィガロの方よ。
恐らくアクア様はクリスが1人で上位魔法を使えないことを知っているわ』
『そうなのか?』
『多分だけどね。クリスと私が湖畔で最後にした話。きっとアクア様に聞こえていたと思うの。というか聞いてもらうためにクリスと示し合わせて話したんだけど。結局、何も反応が無かったし、アクア様は分かっておられたんだと思う』
『なるほど…いつ示し合わせたんだ。全く気付かなかったが』
『クリスと私は付き合いが長いから』
目的は達成した。
これから王都に帰るけど色々なことがありすぎて正直先が読めないわ。ちょっと気合い入れていこうかしら。
「さぁ、これから暫くの間、周りがうるさくなるわ。色々大変だと思うけど頑張って乗り切りましょう」
『『『はい!』』』




