第51話 頂戴
ヤエが魔法陣を描けることを説明し終わった。
『オットー、魔法陣を描ける従魔なんて聞いたことある?』
『ございません』
『しかも、6つ同時に描けるなんて人間には絶対にできないことよ。マジック・スパイダーがいれば凡人の魔法使いが1流の魔法使いになるわ。
いや…戦略魔法陣を覚えさせることができれば戦争で圧倒的に有利になるわね』
この世界には戦略魔法というやつが存在する。戦争で魔法使いが数十人、もしくは百人以上による超大規模魔法。
ただ、攻撃の戦略魔法は発動までに時間がかかる。攻撃の戦略魔法を準備する間に、防御の戦略魔法が間に合うのだ。だから大概、最初に戦略魔法を撃ち合った後、騎士団同士のぶつかり合いが始まる。
もし、戦略魔法を防ぐ手立てがない場合は、戦略魔法を構築している間に逃げれば問題ない。
だが、戦略魔法の構築スピードで先んじることが出来たら、相手の魔法使いの集団のみならず、控えてる騎士団をも一方的に蹂躙出来る。
マジック・スパイダーが数体いればそれも可能になるかも知れない。
オットーさんがどこかで聞いたセリフを言う。
『お嬢様、これは国家機密レベルの情報になる可能性がございますので宰相閣下にご報告するべきかと具申いたします』
『はぁ~、短期間に2度も聞くようなセリフではないわね。
…ところでガレス、私も魔法使いの端くれなのだけど、明日ヤエを貸してくれない?一度ヤエの魔法陣を体験してみたいわ』
「構いませんよ」
・・・・・・
翌日、再び西の森付近に流れる川の河原に来た。
『ヤエ、おいで』
ヤエがクリスティーナの背中に取り付く。
『威力上昇の魔法陣をお願いね。』
クリスティーナが手に魔力を溜め、その間にヤエが魔法陣✕6を描く。
『ウォーターカッター!』
ドでかい水の刃が生成され、岩が断ち割られる。
『…す、凄いわね。
ねぇヤエ、属性魔法の制御魔法陣ってわかるかしら?』
クリスティーナはそう言うと、水属性魔法の制御魔法陣を描いて見せる。あの魔法陣の本には載ってなかったのか、ヤエは真似して描いたが、完璧には描けていないようだ。クリスティーナは、ここが違うわ、こうよと、まるで友達に勉強を教えるかのように魔法陣を教えている。・・・ヤエが妙にクリスティーナに懐いていたのがわかる気がする。上手く言葉に出来ないが波長が合うのであろう。2人とも楽しそうだ。
しばらくするとヤエが魔法陣を描けるようになったようだ。クリスティーナが試し撃ちするわよと息巻いている。
『静寂なる水の精霊よ…』
お、詠唱だ。クリスティーナの詠唱は初めて聞いた。それだけ今から放つ魔法が難しいのか?
詠唱してる間にヤエが水属性の制御魔法陣✕6を描く。
『…我が想いに触れ猛り狂え、アクアストーム!!』
水の柱…いや、水の竜巻か!?
出来上がった水の竜巻が河原を突き進み、隣接する森の一部の木々を薙ぎ倒しあと、ようやくおさまる。
凄まじいな。ヤエは制御魔法陣しか描いていなかった。威力を上げない状態でこの威力ということだ。
『ふぅ~、ヤエ、ありがとう。凡人の私が上位魔法を発動、制御出来るなんて思ってなかった。良い体験をさせてもらったわ…オットー、ごめんなさい、少々無理をしたの。魔力回復ポーションをお願い』
・・・・・・
一息ついた後、ヤエの報告について話す。
『やはり、国への報告が必要だと思う。マジック・スパイダーの進化条件は可能な限り秘匿した方がいいと報告するつもりだから、アナタもその気でいてね、ガレス』
「わかったよ」
『あとね、ヤエちゃん頂戴♡』
「ダメ。欲しいなら従魔として蜘蛛をテイムして育てればいい」
『…はっ!その手があったか!』
「いや、むしろその手しかねーだろ」
本気なのか、冗談なのか、ホント掴みどころがない嬢ちゃんだせ…




