第50話 検証
今はニーナの部屋にいる。
『それで、何で宿屋を追い出されたわけ?』
「魔法陣の練習しててさ、最小の魔力で魔法を放ったら、威力上昇の魔法陣が効きすぎてな、部屋が半壊した」
『室内で魔法をの試し撃ちとか、バカなの?』
「返す言葉もない」
レイラが助け船を出してくれる。
『1回目の風魔法は大丈夫だったのさ。ちょっと窓がガタつく程度だった。2回目の風魔法もマスターは同じ様に放った』
『だったら何で部屋か半壊するほど威力が上がったのよ?』
『ヤエよ』
『…はい?』
『ヤエがマスターの真似をして威力上昇の魔法陣を描いたのさ。地面に接地してない足4本を使って4つ同時にね。しかもマスターより圧倒的に早く3〜4秒くらいで描き終わってた。私は横にいたから気づいて止めようしたんだけど間に合わなかったよ』
マジック・スパイダーの説明文に魔法技能の扱いに優れているとあったが、まさか魔法陣を描けるとは思わなかった。
ん?もしかして…
「ヤエ、お前オレが借りてきた本を読んでたか?」
ヤエが魔法陣の本を持ってアピールする。読んでいたらしい。
字は読めないが、絵というか、魔法陣は理解できるといったところか。
そうだよな、素の知力だけならオレより高いんだ。それくらいできるか。
部屋を半壊させた分の弁償代は痛かったが、これで魔弓の威力が上がるかも知れない。
明日試してみよう。
・・・・・・
西の森に来た。いつもなら低ランク冒険者がゴブリンを狩っているが、昨日に引き続き蜂の巣の素材回収依頼があるため皆そっちに行っており、今、この森には冒険者がいない。
早速魔法陣を使った魔弓の試し撃ちだ
まず、ヤエに背中に取り付いてもらう。足2本を使って体を固定してもらい、残り6本の足で魔法陣を描く。ヤエは大きくなったとはいえ、つまるとこ虫だ。思いの外軽く、矢を打つのに邪魔になるほどではない。
おっ、ゴブリン発見。
矢をつがえ、矢に魔力を込める。その間にヤエが威力上昇の魔法陣を6つ描く。そして矢を放つ。
「ウィンドボム」
矢は見事ゴブリンに命中。次の瞬間、とんでもない威力となった風魔法がゴブリンを跡形もなく消し飛ばす。ゴブリンだけでは済まず、周りの木々を何本か薙ぎ倒してから風魔法がおさまった。
「・・・何だこのアホみたいな威力は」
レイラも呆れている
『高ランク冒険者の攻撃と比較しても遜色ないねぇ。とりあえず、森で試し撃ちは止めたほうがいい。
木が何本、何十本と倒れていたら何かの異変と勘違いされかねないからね』
その後、河原に場所を移動して色々な魔法陣を試した。攻撃速度上昇、攻撃範囲上昇、射程上昇、命中率上昇などなど。
共通していえることは、矢に魔力を込めないと発動しないこと。魔法を補助する魔法陣だから当然といえば当然だ。
魔力とは関係ない攻撃を補助するのは付与の範疇になるからな。
特にエグいと感じたのは命中率上昇✕6だ。鳥を狙って矢を放った。矢に気付いた鳥が急旋回したら、矢が直角に曲がって当たりやがった。
まぁ、色々とやれることが増えたのは良いことだ。魔法陣の実験に満足して帰路に着いた。
一応、3羽ほど鳥を狩ったので冒険者ギルドに寄って売り払う。するとニーナから伝言を受け取る。
『クリスティーナ様から連絡があってね。会いたいそうよ』
「女性からのお誘いは嬉しいはずなんだが、嫌な予感しかしねーな。
貴族からの呼び出しだから従うしかないけど」
クリスティーナ嬢が泊まるホテルへ行く。
そして部屋に案内され、部屋に入った直後、開口一番
『ガレス、今度は何をやらかしたの?』
と質問された。
「いつもやらかしてるみたいに言われるのは心外だな」
『部屋を半壊させて追い出されることを一般的にやらかしたと言うと思うけどね』
「うっ、何で知ってるかな」
『クィーンに関する報告書ができたからアナタにも確認してもらおうと思ったの。アナタが泊まっている宿屋に使いをやったら部屋を半壊させて追い出されたっていうじゃない。
アナタがわけもなく部屋を壊すわけないから事情を聞こうと思って呼び出したわけよ』
「はぁ~、今更クリス様に隠し事をしようとは思わないので、包み隠さず話すよ」
そして、今日の検証を含め、ヤエの能力を全て話すのだった。




