第31話 サクヤ
『ハァイ、ガレス。元気してた?』
「よぉ。久しぶり」
相変わらず神託らしからぬことこの上ない神託である。今日は何のようだろう?
『私の言いつけを守ってレベルを上げているようね。感心感心』
「前にも言った通りもともと上げるつもりだったからな。ところで今日は何の用だ?」
『お詫びと、お礼と、お願いかな』
「お詫びは転生者の田中のことで、お礼は大天使になったことについてか?」
『そうね、前回の試験のイザコザでガレスに迷惑掛けたから謝っておこうと思ってね』
残念天使曰く、予想通り500年前に転生者を殺された別の天使が刺客を差し向けたとのことだった。結局オレが刺客を返り討ちにしたことで全てが露呈し、問題の天使は試験失格、向こう1000年間、試験受験不可の処分を受けた。ナンバーズ1桁台まっしぐららしい。
お礼についても予想通り大天使になったことについてだ。
オレが称号を獲得したことで一気に徳を獲得。昇級するに至った。
『称号特典が凄くてね、最速昇級記録を樹立しちゃった。さすが伝説級の称号ね』
「最速かよ・・・確かに取得条件が厳しかったな。レベル1000倍って過去に取得したやついるのか?」
『いるわよ。1800年くらい前に趙雲子龍ってやつが取得してるわね』
「趙子龍?あ〜、長坂で阿斗を助けるために単騎で走り回ってたからか?その過程でザコ狩りまくった感じか、というか称号って地球人も貰えるのかよ」
『もらえるわよ。地球はスキルがないだけで称号はもらえるのよ。ちなみに大谷さんは英雄の称号を持ってるわ』
「お〜、流石だな」
『それはさて置き、お願いがあるのよ』
「どんなお願いだ?」
『私に名前を付けなさい』
「名前?」
残念天使は大天使になったことで隊長クラスに昇進。隊長がナンバーでは格好がつかないから名前をつけろとのこと。
普通なら試験に10年、20年かかる。その間に神託を受ける人間中心にグループができ、村ができ、街になり複数人に崇められるようになって、その過程で自然に呼び名がつくパターンが多いらしい。
だが今回は試験開始3ヶ月というスピード昇級。名前なんざ付くわけがない。
「どんな名前でもいいのか?」
『よっぽど変でなければいいわよ』
うーん、神様の名前か。
元日本人だから日本の神にするとして、日本の女神ってどんな名前だっけ?天照とか天細女命とかか?そのくらいしか知らんけど。あとは。。。木花開耶姫命とかかな。
「じゃぁ、サクヤでどうだ?」
『サクヤね。いいじゃん』
「軽いなー」
『いいのよ、思いの外まともだったし。他の天使にもサクヤと名乗ってる天使がいるしね。名前が同じつながりで親しくなることもあるのよ』
「へぇ、そうなんだ。因みに天使の一番人気の名前は?」
『マリアかな』
「やっぱ、そうなんだ」
『とりあえず、今日から私はサクヤを名乗るわ』
「分かったよ。
早速サクヤに質問があるのだが」
『何よ?』
「試験って終わったでいいのか?」
『まだ続いているわよ。
権天使に昇級できる分の徳をガレス稼いでくれれば、ちゃんと昇級できるわよ。1度の試験で2回昇級することなんて最近ないのだけれど』
「昔はあったのか?」
『かなり昔、天魔大戦という天使と悪魔の大規模な戦いがあってね。その戦いの最中にミカエル様を初め数名の天使が大天使から熾天使へ昇級をしたわ』
「大天使から熾天使って、2階級どころの話じゃないな。
ミカエル様とか相当強かったのか?」
『いいえ、当時は大天使相当の強さしかなかったと聞いているわ。単純に最前線で生き抜いただけよ。最前線はヒドイ状況で数十万の天使、大天使が数千まで数を減らされた。魔軍も同様に大幅に数を減らした。生き残った天使は相当レベルアップしたし、悪魔を殺したことで相当徳を稼げたでしょうね』
「生き残って結果的に強くなったということか。ん?悪魔を倒せばガッツリ徳が稼げるのか?」
『悪魔がいればね。天使以上に数を減らしたし、そう簡単に遭遇しないわ。仮に悪魔召喚に成功した人間がいたとしても悪魔は表にはでてこないでしょうね、受肉でもしない限り』
「受肉?」
『極々稀に悪魔と召喚した人間の波長がガッツリ合う事があるのよ。その場合、大抵悪魔が人間の体を乗っ取るわ。受肉した悪魔は危険よ。強さが十倍〜数十倍に跳ね上がる」
「マジか。天魔大戦でも受肉した悪魔が相手だったのか?」
『そうだけど、天使も受肉した状態だったわよ。もっとも今は天軍で受肉は禁止されてるけどね』
「禁止?何でまた?」
『天魔大戦の最終決戦で熾天使全員による一斉射が行われたのだけどね、悪魔ごといくつかの世界が盛大に吹き飛んだのよ。それで神様がお怒りになられてね、それ以降受肉は禁止になったわ』
「守るべき世界を吹き飛ばしちまったら、そりゃ怒られるわな」
『まーね。とりあえず悪魔なんか滅多に遭遇しないから地道に徳を稼いでね』
「ああ、まぁ期待せずに待っていてくれ」




