第27話 面目
ー ギルド長執務室 ー
ニーナさんにクルセイダーのメンバーを皆殺しにしたことを伝えたところ、ギルドマスターが話を聞くということになり、執務室に通された。
目の前にはギルドマスターと、脇にニーナさんが控えている。
ギルドマスターと話したことないけど大丈夫だろうか。正当防衛がこっちの世界でも通じればいいが・・・
『ギルドマスターのアランだ。
クルセイダーを皆殺しにしたと聞いたが、お前さんレベル1だろ?ニワカには信じ難いのだが、どうやったんだ?』
「それはですね・・・」
オレは今までの経緯を含め、ほぼ全てを話した。
王都から来た冒険者田中に誘い出されたこと。クルセイダーはニーナさんに手を出したと勝手に勘違いされ襲われたこと。薬師ギルドと某魔導具店が結託してモレロ一家にオレを襲わせたこと。
全員まとめて毒殺したこと。
ギルドマスターはオレの話が終わると感心した口調で話し始める。
『なるほどな、毒を使ったなら納得だ。大したもんだよ。しかし、よくそんな物を用意してたな。』
「元々ゴブリンに集団で襲われた時の対策のために用意したんです。
人に使うためではありません。」
『そりゃそうか。
さて、お前さんの処分だが、お咎めなしだ』
「あっさりしてますね
Cランクパーティーを皆殺しにしたのだかららもう少し調査とかされるのかと思ってました」
『ああ、普通なら調査するぜ。
だが、あいつらは悪い意味で特別でな、普段から素行が悪くてトラブルメーカーだったんだよ。
前にもニーナ絡みで騒ぎを起こしてるし、他にも色々な。
なぁ、ニーナ?』
するとニーナさんがゆっくりと寄ってきた。
そして徐ろにオレの両手を握り、満面の笑みを浮かべる。
『アイツラを殺してくれてありがとう。心から感謝するわ』
「ど、どういたしまして」
・・・えー
人殺しが感謝されるとはね。思わずちょっと引いてしまった。
いや、ニーナさんは妙齢の女性だ。好きでもない男がストーカー状態だった。それから解放されたんだから喜びもひとしおか。うん、良いことしたなオレ。
『さて、問題はモレロ一家の方だ。構成員を10人以上殺されて黙ってないだろうな』
ですよね~
えーこれからマフィアに狙われながら生活すんの?どんだけハードモードなんだよ。
『ククッ、安心しろ今回は特別にオレが動いてやる』
「へっ?」
ギルドマスターがマフィアと繋がってるの?
『何だ?不思議か?
オレはこんな成りだが一応貴族でな、バスク周辺の大抵の組織には顔が効く。。。いや、いう事を聞かない連中もいるから、言うほど大したもんでもないか』
「今回は大丈夫なんですか?」
『ああ、楽な交渉になると思うぜ。最低でもお前さんの安全確保は確実だ』
「そうなんですか?
その理由を聞いても?」
『今回、モレロ一家は依頼人の情報をバラしてる。裏の組織でも信用というやつは大事だ。信用できないと判断されれば他の対抗組織に仕事がいっちまうからな。
つまりだ、仕事を失敗した挙げ句、依頼人の情報をゲロってしまいました。なんて情報が広がってみろ。組織の信用にデカい傷が付く。何としても避けたいはずだ。それを交渉材料にする』
なるほど。納得出来る理由だ。
だけどゲロったの田中なんだよな。神託ってこっちの住人にとってどういう扱いなんだろう?
それが分からなかったから今のところ神託については伏せて話してるけど、言ったほうが良いのだろうか?でも神託が神聖視されてたら?それを打ち破って生き残ったオレが異端になるのかな?
いやまて、そもそもオレも神託受けてたわ。レベル上げろって。あ、こっちの神託も達成できたなかった。
うーん、分からん。聞いてしまおう。
「突然ですが神託って信じますか?」
『どういう意味で言っている?
お前に神託が下ったのか?』
ん?オレに神託が下ったか聞くということは、それほど珍しいことではないのか?
「今回、オレと田中に神託が下っています。
依頼人云々については田中が神託の中で神から聞いた内容です。もっとも依頼人をバラした田中に対して、モレロ一家の構成員は怒っている様子でしたが」
『なるはど、モレロ一家が依頼人の情報をバラすなんて珍しいと思っていたが神託が絡んでいたか。
神託はこっち住人にとっては稀だ。それこそ聖女様とか、教皇様が極々稀に受けるレベルだ。
だか転生者は違う。
人それぞれだが数年に一度くらい?で神託が下るらしい。
まぁ神様のことは分からねぇが、転生者がこちらの世界に渡ってくる時にそれぞれに別々の神様が付くんじゃないかって言われてる』
当たらずとも遠からずというか、大分いい線いってますよ。神ではなく天使なだけです。
『でも大丈夫だろ。
何もモレロ一家との交渉で馬鹿正直に神託で依頼人を知りましたなんて言わなければいいだけのことだ』
「それもそうですね」
『で、お前が受けた神託は何だ?』
「レベルを上げろ。です」
『・・・ギルドマスターという立場上、転生者と関わる機会は多いのだがな、そんなシンプルな神託初めて聞いたぞ。まぁいい。
何か手伝える事はあるか?』
「え?手伝ってくれるんですか?」
『長年、クルセイダーのトラブルの多さは悩みの種だった。それから解放されたんだ。多少の便宜は図るさ』
「じゃ、臨時パーティーを組んでくれそうな信用できる人を紹介して欲しいです」
『分かった。
ニーナ。後でジャックを紹介しておけ。多少愚痴るだろうが、オレの命令だと言えば黙るだろ』
「えぇ、愚痴るんですか?迷惑なんじゃ・・・」
横からニーナさんが安心してくださいと言わんばかりの笑顔でオレに告げる
『大丈夫ですよ。
ジャックさんはソロのBランク冒険者なんですけど、ランクが低い冒険者と組んで面倒を見るのをライフワークにしてる人ですから。逆に嬉しいと思いますよ。
愚痴るのはツンデレみたいなものです』
「そうですか」
うむ、こっちの世界にもツンデレの概念があると。
・・・何かニーナさんが妙に優しい気がする。
「あれ?
薬師ギルドと魔導具屋には何もしなくていいんですか?
オレが生きてる=依頼失敗ですよね。
彼らからモレロ一家の依頼失敗が漏れたりしませんかね?」
『必要ないだろ。
依頼失敗を声高に説明したら、自分たちの利益のために人を暗殺しようとしたと言ってるようなものだ。
表面上は何も言えんだろう。
仮に裏社会に依頼失敗を広めようとしてみろ、モレロ一家が黙っちゃいないだろうさ。
まてよ・・・、モレロ一家は裏稼業で食ってはいるが組織としては義理堅い部類に入る。
仮に依頼失敗の違約金を依頼人に払うようなことがあれば、その金で別の組織に依頼する可能性もゼロじゃないか。。。』
「えー、勘弁して欲しいのですが」
『そうだな、モレロ一家との交渉でオレの名前を出してもいいと許可しておくか』
「???
具体的にはどう言うのですか?」
『ガレスにはしばらくの間、ギルドマスター権限で護衛が付くってことにしておけばいい。しばらくジャックと行動を共にすることになるだろ。あながち嘘でもないしな。仮にモレロ一家が違約金を払うなら、その事を一言添えてもらうことにしよう。それを無視して新たに刺客を送るってことは貴族であるオレに喧嘩を売ると同義だからな連中もそこまで無茶はすまい』
「はー、面倒臭いですね。いっそ元凶である薬師ギルドと魔導具店を潰して欲しいですよ」
『ハハハ、それをやったら振り出しに戻る。依頼失敗した挙げ句、依頼元が潰されたとしたらモレロ一家の面目丸潰れだ。モレロ一家がどういう行動に出るか楽しみだな』
「うぅ、そうですね。
もう一切合切、ギルドマスターにお任せします」
『ああ、任された』
・・・
ニーナさんと一緒に部屋を出る。
とりあえず、クルセイダーの件とモレロ一家の件は問題ないだろう。ギルドマスター自信満々だったし。
レベルの方も信頼できる人を紹介してくれるということだから問題ない。となると次の目標は金を貯めて奴隷購入か。近い内に奴隷商を訪ねようかな。うへへ、ちょっと楽しみだ。
『ガレス君』
「はい!」
何か妙に低い声で呼ばれた気がしたな。
『笑っていたようですが、何を考えていましたか?』
「いや、全ての問題が片付きそうで、安心感から笑みがこぼれたのかも知れません。はい」
『そうですか、何か邪なことでも考えてるかと思いましたが気のせいのでしたね』
お、女の感というやつは、どの世界でも侮れんな。
『少しお時間をいただきたいのですが、よろしいですか?』
「はい、構いませんよ」
『ではこちらの部屋に』
案内されるまま部屋に入ると、二人の女性がいた。
どちらも受付嬢でシスティーナさんとルカさんだ。
「えっと、オレはどのような用件で呼ばれたのでしょう?」
『こちらのシスティーナとルカからお話があります』
「はい、どのような?」
するとシスティーナとルカさんが神妙な面持ちで謝ってきた。
『今回のクルセイダーの件、誠に申し訳ございませんでした!』
「・・・はい?」
どういうことだろうか?
『訳が分からないといった感じですので私から説明します』
と言ってニーナさんが説明してくれた。
・・・
「つまり、クルセイダーがオレとニーナさんが付き合ってると思い込んだのはシスティーナさんとルカさんの会話が広まったせいだと」
『はい、その通りです。
ですので謝罪の場を設けさせてもらいました。
もしガレス君が望むなら彼女たちに何らかのペナルティを科すことも可能ですが。。。』
「いやいやいや、ペナルティなんていいですよ。悪いのはクルセイダーなんですから」
オレの言葉を聞いてシスティーナさんが安堵する。
『良かった〜。
ほらニーナ、私の言った通りでしょ。ガレス君は優しいから許してくれるって、あいた!』
ニーナさんがシスティーナさんを小突く。
『許してもらうのと、許されるのが分かってるから何もしないでは全然意味が違います。だいたい今回は命まで狙われてるんですよ!謝るのが当たり前です』
『う〜、ニーナ先輩、いつになく厳しいっす』
ルカさんがシュンとする。いつも元気いっぱいだからなんとなく新鮮だ。
『分かってるわよ、ニーナ。
あ、じゃぁ誠意を見せる証として、お詫びに何かしようか?』
「何をですか?」
『そうだね〜』
システィーナさんは楽しそうにお詫びを考えている・・・本当に反省しているのか、この人?
『うん!私のオッパイを揉ませてあげるなんてどう!?』
『ちょょょっと、システィ先輩!真剣な話をしてるのに何でそうなるっすか!?』
『何よルカ、私のオッパイに価値はないと言いたいの?』
『そうじゃないっす、そうじゃないっすけど・・・』
『シ〜ス〜ティ〜〜〜!!
あんたいい加減にしなさいよ!』
ルカさんが困り果ててオレに話を振る
『ガ、ガレス君、さっきから黙ってるっすけど、何か言って欲しいっす!というか止めて欲しいっす!!』
そうオレは黙っていた。というより悩んでいた。システィーナさんのオッパイを揉ませてあげるという提案を受け、真剣に悩んでしまった。
そしてルカさんに発言を促されたことで、思わず本音を言ってしまったのである。
「オレはシスティーナさんよりニーナさんのほうが好きです(オッパイを比較した結果)」




