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第132話 迎撃戦1

『ここから約800メートル、そこに聖騎士が6人潜んでいるよ』


レイラが報告してくれる。シリウス、バスティにルナ。他3名の聖騎士か。

ここはバスク近郊の森。聖騎士は目立たぬよう行動していたが、こちらが敷いた監視網をかいくぐることはできず、完全に補足している状況だ。奴等は夜を待ってオレ達を襲う予定らしい。わざわざ襲撃を待つ必要はないのでこれから先制の不意打ちをするつもりだ。正々堂々戦うつもりなど毛頭ない。誰一人欠けずに勝つことが目標だ。

一応、作戦は立てた。まずはオレが長距離からアローレインで聖騎士全員を狙撃する。奴等の中で遠距離攻撃ができるのはシリウスだけ。シリウスは撃ち返してくるだろうが、そうなると他の聖騎士が遊兵となってしまうから、シリウス以外は距離を詰めてくるだろう。そうやって分断を計る。

距離を詰めてくる過程で弧月はバスティを、ミリアリアはルナを、その他はノーチェが請け負う。皆が個別に対応している間、魔力が続く限りオレがシリウスを引き付ける。つかず離れず、無理せず聖気と体力を浪費させる。いくら聖気が無尽蔵と言っても人間である以上、限界はあるはず。こちらの被害を少なくする為、可能な限り削る。恐らく戦闘力においてはシリウスが上だろう。だが、こと俊敏においては補正値込みで3000を超えたオレの方が上だろう。奴の攻撃を躱す自信はある。で、他の連中がシリウス以外を倒したら。総力をもってシリウスを潰す。そんな感じだ。

ちなみに、アグニ様を召喚すれば楽勝なのだが、クリス様からNGが出た。クリス様は自分の結婚式でアグニ様の桁外れの攻撃を目の当たりにしているわけで、『あれを街の近くで放ったりしないわよねぇ?』と怖い笑顔で釘をさされてしまった。仕方ないか…


「レイラ、聖騎士3人が相手だ。油断するなよ」


『上級聖騎士ではないし、昔のミリアリアくらいの強さならウチのパーティで問題ないと思うよ』


「ラーニャさん、可能な限り早く倒して加勢してくださいね」


『了解。上級聖騎士とはいえ、1人だけだからね。油断はしないけどすぐ倒せると思うよ』


「ミリア…冷静か?」


『大丈夫よ。昔馴染みと剣を交えるだけだし、なんてことはないわ』


「そうか…では、始めるか」


先程レイラ教えてもらった場所を攻撃すべく弓に魔力を集中させる。バーバラの弓は以前の弓より魔力を吸収しやすく威力を高めやすい。ヤエに射程上昇の魔法陣×6を描いてもらう…よし、戦いの始まりだ。


「アローレイン!」


魔力の矢が若干の弧を描き敵に向かう。直上に到達した瞬間、無数の矢となり敵に降り注いだ。

森なので火魔法の使用は控えたかったが、手加減して勝てる相手ではない。威力を重視したのでフレイムボムの魔法を付与して放った。。多少延焼しても構わん。矢は着弾と同時に連鎖的な爆発を起こした…が、ここからでも見えるほどの聖属性による結界がはられていた。恐らくあれが聖鎧の力だろう。聖騎士全員を守ったな。

すると敵から矢が放たれ、自分が放った矢と同じ軌道を辿り矢が向かってきた。そして自分の直上で聖気のアローレインが降り注ぐ。さすがに降り注ぐ前に全速で逃げることで範囲外に逃れたが…


「やれやれ、オレのアローレインより威力があるな」


聖鎧で防がれる前提で撃ち返す。2度目のアローレイン。しかし今度は結界が見えない。シリウス以外が距離を詰めてそこにはいないからだろう。シリウスからも2度目のアローレインが放たれた。即座に移動する。一筋の矢が無数の矢に増えた瞬間に気付いた。さっきより攻撃範囲が広い!……が、問題ない想定の範囲内だ。ミリアからシリウスが探知系のスキルを持っていないという情報を得ている。オレに確実に攻撃を当てるため攻撃範囲を広げようとするのは想定済みだ。それを見越して移動しているからな。だが、これ以上攻撃範囲を広げられるとさすがに避けきれない。だから…三度アローレインを放つ。そしてシリウスがアローレインを撃ち返してくる。先程と同様に広範囲だ。だが今度は避けなかった。矢が降り注ぐ範囲を広めれば、矢の密度は低くなる。アローレインは上から下へ降り注ぐが、魔法はイメージ。下から上へ、無数の矢が打ち上がるイメージでアローレインを放った。結果、無数の聖弓と魔弓がぶつかり合う。一発一発はシリウスの矢の方が威力はあるが、オレ自身に降り注ぐ矢だけを防げればいいので、矢の密度を高めることで対応した。これでアローレイン3発か。オレの役割は時間稼ぎと消耗を強いること。今のところ順調だ。



・・・・・・

(ミリアリア視点)


「久しぶりね、ルナ」


『ミリアリア…貴様、何故私の前に立つ?」


「決まってる、間違いを正すためよ」


『愚かだな。奴隷になって体だけでなく、心まで支配されたか』


「愚かなのは貴女よ。悪事に手を染めようとしていることに気付いていない」


『ふざけるな。我ら聖騎士の行動は全てが正しい。奴隷の貴様がごときが口を挟む余地はない』


「何を言っても無駄みたいね。なら、剣で言うことを聞かせてあげる』


『はっ、聖剣を持たぬ貴様が、聖剣を持つ私に敵うはずがない!』


「なら、試してあげる。いくわよっ!」


キィン!キィィィン!!


・・・・・・


『ハァ、ハァ、ハァ…』


「ルナ、かなり息が荒いわ。大丈夫かしら?」


『舐めるなっ!敵に心配されるほど落ちぶれてはいない!!』


キィィィン!


ルナとは聖騎士の座を争った仲。神聖騎士団にいた頃はほぼ互角だったはず。でも夜の帝王の補正値と経験値倍加、更に格上であるアレクやカインとの模擬戦のお陰で相手がルナであっても余裕をもって戦える。ルナも気付いているはず。私との実力に大きな差ができたことに…認めたくないでしょうけどね。


『このぉぉぉ!!』


冷静さを欠いている単純な剣だわ。私はその剣を軽くいなし、腹部に蹴りを入れる。


『ぐっっ!』


ルナの体がくの字に曲がり頭が下がる。そこへ突き上げた膝はルナの顔面を捉え、状態を仰け反らせる。


『がはっ!』


「…ねぇ、もう勝負はついたと思わない?」


『ふざけるな。私は負けん。命がある限り戦い続ける!』


「そう、なら本気を出してあげる」


ルナの目はまだ諦めていない…けど、分かりやすいなぁ。"本気"という言葉を聞いて私が神速を使うと思ったのだろう。そして以前のレイラのように神速に対して恐らくカウンターを狙っている。それならやることは一つだ。同じ過ちは犯さない。


「行くわよ…神速!」


『今だ!剣閃!」


ルナの派生スキル"剣閃"は剣を振るう速度を速めることができる。一瞬で広範囲に連撃を繰り出せる剣閃を神速に合わせたなら、私は剣閃を捌ききれず深いダメージを負うだろう。まぁ相手に向かって神速を使えばの話だが。


『なっ!神速を使って退いた!?』


剣閃のスキルは長続きしないことを知っている。


「神速」


『しまっ、がはぁ!』


とりあえず剣の"腹"で胴を薙ぎ払った。とはいえ神速からの一撃だ。肋骨が何本かいっただろう。


『…っぐぅ、はぁ、はぁ、何故、殺さなかった?情けをかけたのか?』


聖属性魔法で回復しようとしているけど、そう簡単に完治はしないでしょうね。

しばらく"話をする"時間はできたかしら。


「何年も一緒に剣を振ってきた仲だからね、貴女が情けをかけられて喜ぶような性格じゃないことは知ってる。ただね、知っておいて欲しかったの。私がディバイン神聖国に…いえ、セレステ教に剣を向けた理由を」


『どんな理由があろうとも、貴様が裏切ったことに変わりはない。私は絶対に貴様を許さん』


「別に許してもらおうとは思ってないわ。でも貴女にとって何が正義なのか自分自身で判断して欲しい。ただそれだけよ」


『何故そんなことを聞かせようとする?』


「そうね…私はまだ貴女の事を友と思っているからかしら?」


『…ふんっ、本気の剣を向けられて言う言葉か』


「まぁいいじゃない、自己満足みたいなものよ。とりあえず聞きなさいよ」


『…傷が完治するまで聞いてあげるわ』


「じゃぁ話すわね…」



・・・・・・



『…そんな話を信じろというの?』


「別に信じなくてもいいわ。言ったでしょ、自己満足だって。話をしておきたかっただけよ」


『セレステ教がただただ天使を生かすためだけに存在しているなど…』


「私は神託を信じているから、天意はこちらにあると信じている。今の話を聞いて、なお私の前に立ちはだかるというなら、次は容赦なく切るわ。例え友である貴女でもね…まぁさっきの肋骨の骨折は治りきっていないでしょう?しばらく大人しくしておくことね」


『…私は怪我を負った。このまま戦線復帰しては足手まといだ。仲間に迷惑をかけないよう、しばらく治療に専念する』


「そう、じゃぁ私は行くわね。次は戦場以外で会いましょう」


『ミリア』


「なに?」


『私を殺さずに見逃して、仲間に責められないのか?』


「…あぁ、考えてなかったわ。大丈夫よ、マスターは甘いから」


『その甘さが命取りになるとは思わないのか?』


「思うわよ」


『なっ、そんなハッキリと…』


「でも、そんなマスターだから主として仰ぐのよ…いや、違うわね、そんなマスターだから好きなのよ」


『はぁ?そう…なのか?』


「ええ、そうよ。何?もっと聞きたい?」


『とっとと行け!敵の惚気話を聞くほど私は酔狂でない』


「ふふっ、じゃあね、ルナ」


さっき私が言葉にした通り、マスターは私を責めないだろう。ルナを見逃したこと、真実を話したことで事態がどう動くか分からないけど、マスターが笑って許してくれることだけは分かるかな。



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