表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/47

■外側:球技大会

 校長室に通されたのは初めてだ。少々殺風景な部屋の黒い革張りのソファを勧められ、そこに琥珀、隣にルカが座っている。


「石川琥珀くんの、いとこだったね?」


「ええ、はい」


 昨日の夜、なんとか母親を説得して、一日だけルカを学校に連れて行けることになったのだ。理由は、球技大会に参加してほしかったから。


「明日くらい休めばいいのに。疲れてないの?」


 母親はなかば呆れたようにそう言ったが、しばらく行方不明になっていた息子が帰って来たのだから、仕方がないと思ったのだろうか。気付けばいつの間にか、ルカは琥珀のいとこで近々転入を考えており、学校見学もかねて球技大会に参加したい、というストーリーが出来上がっており、校長にも話が通っていた。


「転入するかもしれないと、聞いているけど」


「ええ、まあ」

ルカは適当に相槌を打つ。


「あ、先生、あの」


 ルカの目の事を言わなければ。そう思った時、ルカが琥珀の肩を叩いた。見ると、ルカは口に人差し指を当てている。沈黙のジェスチャーだ。


(言わない方がいいって事?)


 ルカは微かに頷き、先生と話し始める。


「琥珀と同じ競技に参加したいんです」


「もちろんそれは構わない。石川くんは、サッカーだったね」


 校長先生がそう言った時、ルカはふふっと笑った。


「サッカーって、ハンド禁止のやつですよね」


「ああ、サッカーはハンド禁止だ」


「キーパーはハンドオーケーですよね?」


「ああ、キーパーはハンドオーケーだ」


「じゃあ俺、キーパーやってもいいですか」


「キーパーを? 別に構わないと思うよ」


 むしろ都合がいいとでも言いたげだ。積極的にキーパーをやりたがるクラスメイトはいない。


 球技大会は学年ごとに時間を区切って行われる。一年生は三、四時間目だ。今は二時間目の終わりだから、そろそろ始まる。


 琥珀はルカとサッカーした時のことを思い出した。ボールに触るのが初めてだと思えないほど上手かった。見えなくても関係ない。ルカにはボールの位置がわかるのだ。蹴る時にどうしても気持ちがこもるから、それで感じ取る事が出来るらしい。

 と、言う事は、今日は少なくとも点を取られる事はない。これは、勝ち確定じゃないか? 


 校長室を出てルカと二人で歩いていると、前から懐かしいクラスメイトが現れた。琥珀はどきっとしてしまった。


 彼は、山野井創(やまのいはじめ)という。同じサッカー部で同じクラスだ。サッカーがめちゃめちゃ上手くて肩幅も広く体も大きい。琥珀とは全く違うタイプの選手だ。


 創は総じていいやつだ。ただ、ものすごく不愛想で、口数が少なくて、琥珀はどうも、創の事が苦手なのだ。今の今まで、創の存在を完全に忘れていたのだが。


「石川」

 創がぼそりと呟いた。


「無事だったんだな」


「う……うん。なんとか」

 創はそのままルカに視線を移した。


「誰?」


「琥珀のいとこ。ルカです。よろしく」


 琥珀より先にルカが創に挨拶した。


「俺、キーパーやるから」


「そうか」

 創は興味なさそうに頷いて、じゃあ、と言って通り過ぎて行った。


 しばらくその場で固まっていると、ルカが琥珀に訊ねた。


「あいつの、何がそんなに恐いの?」


「え?」


「なんか、すごく恐がってない?」


「いや、そんなことは……」


「わかるよ、俺には」


 そうだ。ルカには隠し事はできない。琥珀は正直に話すことにした。


「別に理由はないよ。なんか、恐いんだ。あまり話さないし、目つきも悪いし……サッカーする時も、俺なんてすぐ押し倒されちゃうから……恐いというか、苦手なんだよ」


「ふうん」


 通り過ぎた時の創からは、わくわくしか感じなかった。あいつの表情は見えないけど、口数は確かに少ない。でも、あいつ、ものすごくわくわくしてる。試合が楽しみだからなのか、琥珀が戻って来たからなのかわからないが、わくわくが伝わって来た。

 あいつ、意外とわかりやすいぞ。ルカはそう思った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ