■外側:家に帰って
路地裏の先の出口の光へ近付くと、そこにいたのは玲音だった。
近付いて行くと、
「琥珀?」
という懐かしい声がして、見ると、母親が立っている。
「あ……かあ、さ……」
全部言い終わらないうちに、母親は琥珀を抱きしめた。
「無事で、よかった。本当に」
母親はぼろぼろ涙を流しながら琥珀を抱きしめた。
「琥珀、歩夢は?」
母親の問いに答えたのは、後ろにいるルカだった。
「歩夢は、ここです」
ルカが歩夢をおんぶしてくれていたのだ。
「歩夢は少し弱ってるかも。三日間何も口にしていないから、病院に行った方がいいと思います」
歩夢を母親に託しながら、ルカが言った。
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「さて、何から話してもらおうかしら」
琥珀の家のリビングでは、家族会議的なものが開かれていた。琥珀の家は、いつもこうだ。何かあるとすぐに家族で集まって会議が始まる。議題は様々、大なり小なりだ。そのほとんどが取るに足らない小さなことで、例えば琥珀がもう少しドリブルの技術を上げるには何が必要か、とか、はたまたバレンタインデーにチョコを多くもらうためにはどうするか、というような内容のものである。今日は、その会議にルカも参加しているから新鮮な気分だ。
歩夢はあのあと病院へ連れていかれ、無事に目が覚めたと聞いた。でも憔悴しているのは事実で、点滴することになったので今日は入院だ。病院へは父親が付き添った。なので今家にいるのは母親と琥珀、ルカの三人だ。
「あの船の上で、変なやつらに囲まれて……そこからの記憶はほとんどないよ。ルカのいる島に流されて、普通に生活してた」
母親が作ってくれたココアをすすりながら、琥珀は答えた。
「そう、そうよね……その変なやつらっていうのは、あの後すぐに捕まったのよ。ああいう客船に乗り込んで、子供を誘拐するグループらしいわ」
「はあ……そうなんだ」
「ルカくん、本当にありがとうね。一緒にここまで来てくれたのね」
「いえ」
にっこり笑うルカの左手に付いているミサンガはふたつ。ひとつはアニカにもらったもの。もうひとつはタケルの変化である。琥珀の親が出て来たとわかった瞬間に、面倒ごとを避けるため咄嗟に変化したのだ。タケルにしてはなかなか機転が利いている。
「こんな時間だから、今日はうちに泊まって行ってね」
「ありがとうございます」
ルカはとても礼儀正しく答えた。
「歩夢、明日帰ってくるかな」
「そうね、ケガもないみたいだし。元気にしてるみたいだから、帰ってくると思うけど……あなたも元気そうでよかったわ。この三日間、生きた心地がしなかったのよ、本当に」
琥珀のお母さんは嬉しそうにしている
「ねえ、ルカくんは、何ていう島に住んでるの?」
「はあ……えっと」
ルカは頬をぽりぽりとかきながら、空を見ている
「内側です」
「ウチガワ? ウチガワ島? 初めて聞いたわ」
母親がスマホで調べ始める前に、琥珀が慌てて話に割って入る。
「疲れたから、部屋に行っていい?」
「いいわよ。ごはんが出来たら呼ぶわね」
なんとかごまかせた、と思い琥珀は安堵した。
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部屋の窓を開けると、ちょうど目の前に隣の家の窓がある
「あの窓の向こうが、玲音の部屋だよ。まだ戻ってないかな」
琥珀はクローゼットの中から懐中電灯を取り出して、玲音の部屋をぴかぴかと照らした。
「これ、昔よくやってたんだ。暗号みたいだろ?」
「へえ」
ルカは面白そうにその様子を眺めている。しばらくすると、隣の部屋の窓があいて、玲音が顔をだした。
「やあ、お疲れ」
「いろいろ聞かれたんじゃない?」
「うん。聞かれた。でも、なんとかなった」
「そっか。うちは質問攻めで大変だったよ」
「なんていったの?」
「記憶喪失で通したよ」
「実際、そんなかんじだったもんね」
琥珀と玲音はゲラゲラと笑い合った。
「オルロワは、もういなくなっちゃったんだね」
玲音は静かに頷いた。
「でも、大丈夫だよ。いなくても、ちゃんといるから。僕の中に」
琥珀はその意味がいまひとつわからなかった。
「そうだ。しばらく、今のまま学校に通う事にしたんだ」
「そうなの?」
そもそもあの旅行に行くきっかけは、玲音が転校して会えなくなってしまうから、という理由だった。
「転校する理由も、ピアノ教室の関係で、学校自体に問題があるわけじゃなかったし……というか、あるにはあったけど、転校するほどのことでもなかったな、て思えて来て。それで、今のままやってみることになったんだ」
「そっか」
「明日、学校どうする?」
窓の向こうから玲音が聞く。
「休もうかな。ルカもいるし」
「休むの? 球技大会だよ」
「球技大会?」
ルカの目がキラキラした。
「俺も行っていい?」
琥珀と玲音は顔を見合わせた。もしルカが学校へ来るとしたら、それはとても面白いことになりそうだと思ったからだ。




