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◇境目:幽霊船オルロワ号①

 門番が見付けて来たその船は、周りにあるいくつかの船に比べると比較的綺麗だった。島を出る時に乗って来た船とは比べ物にならないくらい大きくて、ゆうに数百人は乗れそうに見える。 


「どんな船? なんか、大きくない?」


 目の前の船を見上げて、ルカは玲音に訊ねた。


「大きいよ。クルーズ船みたいだ」


 ルカは眉をしかめて、相変わらず船を眺めている。


「この船、ちゃんと動くの?」


「見た感じ、綺麗だよ。LYUBOV ORLOVAって書いてある。船の名前かな」


「リュボーフィ・オルロワ号だ。北太平洋で造られた、行方不明のクルーズ船。かれこれ十五年、ここに引きこもっている」


 門番の説明を聞きながら、ルカは船を見上げて「オルロワか……」と呟いた。ぼんやりとしか見えないが、ものすごく大きくて高貴な感じがする船だな、と思った。


「大きすぎないか?」


「ちょうどいいのがないんだ、仕方ないだろ」


 門番が口答えするが、ルカに睨まれて語尾がだんだん小さくなってゆく。


「こんな大きいと、すごく目立ちそうだ」


 琥珀は額に手をかざして、船を見上げながら呟く。


「そんな事は問題ない。見ての通り劣化もほとんどしていない。どこからどう見ても、普通の船だ」


 門番としては、どうしてもこのオルロワ号にルカたちを乗せたいらしい。

 船を選べと命じたのはこちらだが、選択肢も与えられずこの船だけを勧めてくるところがいかにもあやしい。しかも、こんな大きすぎる船を。


「おまえ、操縦できるのか?」


「操縦くらい出来るさ。でも、これは操縦する必要なんてない。オルロワが自分の意思で動くんだからな」

 琥珀と玲音はぎょっとして門番を見た。船が自分の意思で動くというのか? 琥珀は冷や汗が額に滲むのを感じた。つまり、そういう船しかないのだ、境目には。帰るには、そういう船に乗らなければいけないのだ。


「船が自分の意思で動く、だと?」


 ルカは眉をひそめた。つまり、門番は何もやらないということか。なんだ、手足の錠を外したのに、この程度なのか? 


 いや、出来ないわけがない。やらないんだ。


 ルカは、島の動物を思い出した。クマやオオカミのような強い野生動物が島民を襲わないのは、襲ったら報復されると知ってるからだ。つまり、こちらの方が強いのだということをわかってる。

 やれやれ、その作業が必要ということか。

 錠を外したから物理的に使役できても、心を使役することはできない。ルカの命令を聞かなければどうなるか、教えてやらねばいけない。この、門番に。


「なるほど」


 ルカは船を見上げて呟いた。面倒だけど、やってみるしかない。


「わかった。これに乗ろう。乗ったらすぐ出してくれ」


 ルカの挑戦的な目を見て、門番はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


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