表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/47

■内側:出発

 次の日の朝は、雲一つない快晴で、波一つない。きらきら光る水面の上は、歩けそうな程、見事なまでに凪いでいる。


「天気が良くてよかった。この天気なら君たちが乗って来たあのボートで行けそうだ」


 司の言うそのボートというのは、ほんの二、三人くらいしか乗れないくらいの小さなもので、進むためにはオールを漕がなければいけない。昨日の話では、境目に船がたくさんあるから結局このボートは境目まで行けたらいいのだ。


 リズはルカに小さなリュックを渡した。


「必要になりそうなものを入れておいたからね。水と食料、あと怪我した時のための消毒とか」


「ありがとう」


 ルカはリズと抱擁した。


 リズは、次に琥珀と玲音を順番に抱擁した。


「あの子の目になってあげてほしいの。お願いね」


 二人とも、頷いた。リズの目が腫れている。昨晩、眠れなかったのかもしれない。


「ま、ルカなら大丈夫やろ」


 ドミニクはカラカラと笑った。


 琥珀はドミニクに近付いた。渡さなければいけないものがあったのだ。


「あの、これ」


 琥珀はドミニクに封筒を差し出した。昨日の荷揚げで見つけたお金だ。くたびれた封筒に、十万円入っている。


「ずっと持ってて、ごめんなさい」


「ああ、これか」


 ドミニクが封筒の中身をちらっと見て、ほんの少し考えてから、一枚抜き取って琥珀に渡した。


「こんくらいは必要やろ」


 ドミニクはにッと歯を見せて笑ってみせた。


 琥珀は受け取ってよいものか迷ったが、このくらいなら、あった方がよいだろうか、とも思った。


「なんだよじいさん。全部渡せばいいのに」


「そうもいかん。十万円は大金や」


 ドミニクの言う通りだ。十万円もらったところで、使い道もわからない。


 司は苦笑いをして、琥珀に言った。


「もらっといてやれ。何か、役に立ちたいのさ」


 司が言うので、琥珀は軽く会釈をしてもらう事にした。お金はルカのリュックのポケットに入れた。


 ルカがボートに乗り込もうとしたとき、アニカがルカを呼び止めた。


「待ってルカ。これ」


 アニカが差し出したのは、ワインレッドの糸で編んだミサンガだった。 


「くれるの?」


「うん」


 そう言って、アニカはルカの手首に赤いミサンガを結んだ。


「名前を編み込んだの。ルカって書いてある。境目を通ったら、もしかして名前を忘れてしまうんじゃないかと思って」


 ルカはミサンガを指でなぞり、名前が書いてあることを確かめた。ルカのスペルの部分が少し盛り上がっているので、触ったらわかる。


「ありがとう。大事にする」


「時間がなかったから、あまり丈夫に作れなかったの」


 アニカは目を伏せて、寂しそうな顔をする。


「だから、無茶しないで。乱暴にしたら、すぐちぎれてしまうわ」


「わかった。ちぎれないように、注意する」


 ルカは嬉しそうに、にっこり笑った。 

 三人はボートに乗り込んだ。


「行ってきます」


 ルカは大声で叫んで、大きく手を振った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ