■内側:荷揚げ
朝の砂浜はすがすがしく、美しいものだと思っていたが、こんな砂浜は見たことがない、と琥珀は思った。
朝の太陽の光が照らすのは水面ではなく、そのほとんどを覆いつくす骨董品である。それはまるでテーマパークの開園待ちをしている人たちのようで、果てがない。ところどころ海水に濡れた骨董品は、光を反射してキラキラと光っている。
「大体いつもこのくらい。多くはないよ。一時間もあれば終わる」
ルカはそう言って、砂浜に出て行った。
この大量の骨董品を、一時間でどうにかできるイメージが湧かなかったが、ルカが出来るというなら出来るのだろう。琥珀はルカに着いて行った。玲音は教会へ行ったので、ここにはいない。
広々とした砂浜には、大きなカートがいくつかある。どうやらこれを使って荷物を運ぶらしい。
「じゃあ、順番に見て行こう」
ルカは手前にあった木製のチェストをひょいと持ち上げた。
「こういう家具みたいなやつは、全部大口に持っていくからこのカートに載せるんだ」
チェストをカートに載せるとガコンという音がした。
「引き出しの中を見てみて。ドミニクがいつもやってるんだ」
琥珀は頷いて、ひとつひとつの引き出しを確認した。
「何も入ってないみたいだ」
「オッケー。じゃあ、次だ」
テーブルや鏡台、いろんな家具をルカは軽々と持ち上げて、カートの上に載せていく。少し離れたところに、同じような仕事をしている大人が何人かいるが、その誰よりも速く、ルカは仕事をこなした。ルカ一人で大人三人分くらいの力がありそうだ。普通、中身が空っぽでも木製の家具を一人で持ち上げるなんて出来ない。
「これ、なんかありそうだな」
ルカがそう言って持ち上げたのは、大きな古時計だった。明らかに年代物で、十二時になるとボーンと音が鳴りそうな、大きいやつだ。引き出しはついてないのに、何があるというのだろう。
「何かありそうだから、探してみて」
そう言われて、琥珀は古時計を隅々まで点検した。振り子の扉をあけてよく見てみると、振り子の後ろに何か、ビニール袋が張り付いている。琥珀はそれをべりべりと剥がした。
「こんなのが、ついてたよ」
「何が入ってるの?」
琥珀が中身を確認してみると、一万円紙幣が何枚も入っている。
「お金だ」
「お金?」
「うん。けっこうたくさん入ってるよ」
十枚以上はありそうだった。琥珀にしてみれば大金だ。
「なんだ、お金か」
ルカは興味なさそうに呟いた。
「それ、あとでドミニクに渡したらいいよ。ガラクタを集めてるからさ」
「お金はガラクタじゃないだろう?」
琥珀が聞くと、ルカはきょとんとした顔をしている。
「ああ、そっか。琥珀にとってはそうだよね。でもこの島にはお金がないから、俺にとってはガラクタだ」
「え?」
お金が、ない? そう言われてみれば、昨日カレーを食べたとき、お金を払わなかった事を思い出した。
「ドミニクはお金を見つけると、とても喜ぶんだ。琥珀がいたところでもお金があったんだね」
「普通、お金はあるよ。どこの国でも」
そこまで言って、この島はどこの国にも属さないのだという事を思い出した。よく考えてみたら、いろんなものが流れてくるこの島では、お金など必要ないのかもしれない。それはそれですごいな。そんな事を考えながら、琥珀はお金の入った封筒をポケットにしまった。
ルカがものすごいスピードで骨董品をカートに引き上げるので、琥珀は引き出しの中身をチェックするのに忙しい。ほとんどは空っぽだが、写真やら万年筆やら、何かの思い出の品みたいなものが入っていることもある。
「これは、全部取っておいたほうがいいの?」
「いらないんじゃない? いちいち取っておく物好きはドミニクだけだよ」
そのドミニクさんはまだ部屋で眠っているらしい。骨董品の数はどんどん少なくなり、あとはいくつかを残すだけになった。
最後にカートに乗せた分を押しながら、ルカは琥珀に秘密の話を打ち明けるようにゆっくり話した。
「もう少ししたら面白いものが見れるよ」
「面白いもの?」
琥珀は少しわくわくして、ルカの後に着いて行った。




