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余命100年の転生エルフはもう一度好きと伝えたい  作者: 佐藤アスタ


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4 使い道

 最強の剣士になりたい。

 剣という極限まで無駄を削ぎ落した武器を自由自在に使いこなして、何十人もの敵をバッタバッタと倒していく。

 聖剣エクスカリバーで知られるアーサー王は有名だが、日本にも素晴らしい剣客はごまんといる。

 上泉信綱(かみいずみのぶつな)塚原卜伝(つかはらぼくでん)柳生(やぎゅう)石舟斎(せきしゅうさい)千葉周作(ちばしゅうさく)、等々。


 かく言う俺の家も、家系図も流派も伝わっていないのに鹿島という苗字(超絶有名な流派と思ってくれればいい)でなにを勘違いしたのか、代々剣道に熱心な血筋だったりする。

 じいちゃんの代までは自宅敷地内に剣道場があり、ささやかながら弟子を取って日夜鍛錬に明け暮れていたというから、筋金入りの剣術馬鹿と言っていい。

 ただ、そんな伝統も普通のサラリーマンの道を選んだ親父の代で衰退し、俺が成長期を終える頃には完全に過去の遺物になってしまった。

 要するに、二代続けて剣術の才能が無かったのだ。


 運動神経がないわけじゃない。

 じいちゃんが存命だった頃は俺自身、その薫陶(くんとう)(人によっては虐待と呼ぶかもしれない)を受けていたし、今でも剣道場を潰して建てた一軒家の庭で毎日、一通りの稽古を続けるように心がけている。

 だが、それだけ。

 これまで一度として剣の極みを垣間見るような感覚に襲われたことはないし、現代の日本で凡俗が剣一本で飯を食っていくのは不可能。

 世間から見たら運動不足解消のお遊び程度の、夢の残骸を動力源にした惰性を死ぬまで続けていくんだろうなと、諦めに似た境地で高校生をやっていた。

 それが、神の悪戯か悪魔の罠か、奇跡としか言いようのないチャンスを手に入れた。

 手に入れたと気づいた。



 ~~~



「それにしても本気かえ?」

「ああ。藤倉さんがこっちの世界に来るまで、剣術の修行をしながら待つことにするよ」

「ふむ、ならば得物が要るじゃろ」


 そう言ったタマモは縁側からおもむろに立ち上がり、近くにある木にすたすたと近寄ると、太い枝の一つにそっと手を当てた。


「このあたりか――『風よ』」


 そんな呟きが聞こえた瞬間、枝を中心に緑光が数秒間広がったかと思うと、タマモの手に定寸の木刀が握られていた。


「い、今のは、まさか……」

「『魔法』じゃよ。そして、小童が転生したハイエルフの得意技じゃ。妾には遠く及ばぬがの」

「それってつまり、俺も鍛錬すれば魔法を使えるようになるってことか?」

「然り。この世界の強さを語る上で、魔法は欠くことのできぬ要素じゃ」

「じゃあ、剣を修行しても無駄ってことか……」

「そうは言わぬ。ハイエルフにとって、魔法を極める方が力を得るに容易い道であることに、疑いの余地はありはせぬ。他方、己が肉体を基にした技を磨き歴史に名を刻んだ強者も、確かにおる。じゃが、そやつらとて魔法の何たるかを知り、魔法に対抗する術を編み出したゆえのことじゃ」


 ほれ、とふいに投げられた木刀をキャッチして、思わず中段の構えを取ってみる。

 柄の手触り、長さ、重さ、重心、全て申し分ない。

 というより、


「刀のこと、知っているんだな」

「流人はいつの時代にも現れる。三百年ほど前に妙な片刃の剣を遣う流人がいた、という絵巻物が残っておってな、それを真似してみただけじゃよ」

「そうか、俺が初めてってわけはないか、そりゃあそうだよな」

「その絵巻物にはこうもあった。その剣士、都の大魔導士に挑むも触れることすら叶わずに敗れる、とな」

「……」

「小童、お主には二つの道がある。ハイエルフとして転生した才を生かして魔法を極めるか、もしくは己が信念を貫いて愚直なまでに剣の道に拘るか」

「俺は……」

「まあ、若芽が大樹に育ち朽ち果てるほどに、時はある。ゆるりと考えればよい」

「いや、決めたよ」

「なあに、たまに田畑を耕してくれさえすればいつまでも逗留して――なんじゃと?」


 右手、左手の順に握りしめ、上段に移行。

 一瞬の停滞の後、真一文字に振り下ろす。

 早さは求めずゆっくりと。だが、わずかな淀みもないように。

 ひたすら無心に繰り返す。


「剣を選ぶ、か。言うておくが、小童に剣術の才はないぞ。妾の児戯に反応できんのが何よりの証じゃ」


 十五分くらいか、動きにリズムが出てきて転生した体に違和感がなくなるまで、俺の素振りをずっと眺めていたタマモが、鍛錬の終わりを見計らって不可視の打撃を放ってきた。

 それを、やはり俺は避けられずに食らってしまう。


「魔力の扱いと感知に長けるエルフは、内包する魔力量が多すぎるせいか、ある程度で肉体の成長が止まる傾向にある。まあ、生命力を肉体の強化ではなく寿命の伸長に費やしておると思えばよい」

「つまり、種族的に剣士には向いていないってことか?」

「名を残した剣士が少なく、魔導士に適した種族であることは事実じゃの」

「そうか? 俺はむしろ、真逆の意見なんだけどな」


 そう反論しながら、日本の歴史に綺羅星のごとく輝く数多の剣客を思い浮かべる。

 ……まあ、小説を始めとしたフィクションが少なからず混ざっているのはご愛敬だ。


「俺が住んでいた国は、剣術が人気だった時代があってな。有名な剣士が何十人何百人といるんだが、みんな同じようなことを言い残しているんだよ。『剣を極めることができなかった』って」

「それは、単に未熟者ばかりじゃったというわけではないのかえ?」

「そうかもしれない。けど、千年の寿命があれば、剣術の歴史を超えることができるかもしれない。俺は、それを確かめてみたいんだ」


 木刀を握る手に自然と力が籠るのは、ずっと胸に秘めていた思いを言葉にしたせいだろうか。

 所詮は凡人の妄想、叶わない望みと諦めていたが、転生というアクシデントが予想だにしなかった運命を引き寄せた。


「あえて苦難の道を行くというのかえ。まったく、とんだ酔狂者よの」

「あはは、自覚はしているよ。でも、後悔だけはしたくないんだ」

「……まあよい。どこまで続くか、じっくり見物させてもらうことにするかの。それよりも」

「なんだよ――って、あぶなっ!?」


 呆れ声が終わるのと同時に迫ってきた棒状の何かを右手でキャッチすると、特有の鈍い光を放つ、斧の分厚い刃が両目の寸前で止まっていた。


「まずは一通りの野良仕事を覚えよ。働かざるもの食うべからず、じゃ」

「野良仕事って、まさかここって、一人で全部手入れしているのか!?」

「当たり前じゃ。もっとも、この先は食い扶持が一人分増えるよって、田を広げねばなるまいがのう」

「つまり、それも俺が……?」

「森の木を伐り倒し、根を掘り起こし、石を取り除くところからやるのじゃ。三年は剣術道楽などできぬと思え」

「は、はは、了解しました……」


 せっかくやる気になったところで出鼻をくじかれてしまったが、それでも右も左もわからない異世界で、なんとか生きる糧を得ただけマシだと思い直す。


 木刀はいったん、縁側に立てかけて。もう片方の手にある、新たな相棒を握り直して。


「何をしておる、さっさとついてきりゃれ」

「今行くよ」


 俺は長い長い第二の人生をスタートさせた。

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