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余命100年の転生エルフはもう一度好きと伝えたい  作者: 佐藤アスタ


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ss3

「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」


 その、世界一有名と言っていい死亡フラグの呪文を唱えてしまった馬鹿を、いっそ見捨ててしまえればどれほど楽だったか。

 馬鹿は馬鹿でも馬鹿真面目、先祖代々仕えているからと落ち目の貧乏領主にどこまでも義理立てして、ついにはあのゴルドラ魔法帝国にケンカを売った本物の馬鹿のために兵を集め、義勇軍を結成してしまった。


 当然、勝ち目はない。万に一つもない。

 だから、せめて悲惨な結末にはならないように助太刀してやっているというのに、この男は四百年も培ってきた経験からくる俺の予測を簡単に下回ってくれる。

 本物の馬鹿のカイゼルが運だけで生き残っているなら、馬鹿真面目のゲオルグは有り余る才能で不運を乗り切っている。


「お前、そういうことを戦争中に口にしたらいけないと、誰にも教わらなかったのか?」

「そういうこととは?」

「戦いの前に自分の将来を語って聞かせるとな、戦場の死神に魅入られてしまうんだとさ」

「何を言う、戦う覚悟を示して悪いことなどあるものか。勝利の女神を呼び込むことこそあれど、死神など寄ってくるものか」

「いや、死神本人というか、非モテどもの怨念の集合体が足を引っ張る感じの……、まあ世界が違えばジンクスも違うよな。忠告はしたからな、死んでも化けて出るなよ、ゲオルグ」


 ここは魔都から片道一日ほど離れた町のはずれ、義勇軍が駐屯する天幕の一つ。

 男三人が寝泊まりするには少々大きめで、こうして火を囲んで酒を酌み交わすくらいの余裕はある。

 ちなみにこの天幕の主で義勇軍のリーダーでもあるカイゼルはというと、今夜も町の娼館に繰り出してゲオルグ以外の幹部達と経済をぶん回している頃だろう。

 どうせ金をむしり取られて朝方に下着一枚で放り出されるのがオチなので、心配してついていこうとしたゲオルグを引き留めて、馬鹿の居ぬ間にひと時の休息をと誘ってみたことろ、一杯目も飲み干さないうちに不吉なセリフが飛び出したというわけだ。


「アメリアには苦労を掛け通しだからな。メレオーネ様の世話も任せきりで申し訳がない。せめて、心は共にあらねば」

「いや、思い出すなと言っているわけじゃない。手当たり次第に惚気るなって話だ」

「だが、アメリアの美しさを見てもらうために身に着けている姿絵入りのペンダントを――」

「出すな!! そして見せるな!!」

「ならば預かって――」

「断る!!」


 ゲオルグ=ロムフェール。

 平時はぐうたら領主の代わりに領地の管理を一手に引き受け、義勇軍では智謀の軍師として寄せ集めの兵をまとめ上げ、今やその名は敵味方に広く知られつつある。

 唯一苦手だと言っていた武芸も、俺が教えるようになってからは着実な進歩を見せて、今や義勇軍でも十指に入る腕前となっている。

 そんなゲオルグの如何ともし難い弱点が、酒だ。

 どれだけ飲んでも顔に出ないところがさらに厄介なので、泥酔しないようにしっかりと見張っておかないとならない。

 正直、「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」


 その、世界一有名と言っていい死亡フラグの呪文を唱えてしまった馬鹿を、いっそ見捨ててしまえればどれほど楽だったか。

 馬鹿は馬鹿でも馬鹿真面目、先祖代々仕えているからと落ち目の貧乏領主にどこまでも義理立てして、ついにはあのゴルドラ魔法帝国にケンカを売った本物の馬鹿のために兵を集め、義勇軍を結成してしまった。


 当然、勝ち目はない。万に一つもない。

 だから、せめて悲惨な結末にはならないように助太刀してやっているというのに、この男は四百年も培ってきた経験からくる俺の予測を簡単に下回ってくれる。

 本物の馬鹿のカイゼルが運だけで生き残っているなら、馬鹿真面目のゲオルグは有り余る才能で不運を乗り切っている。


「お前、そういうことを戦争中に口にしたらいけないと、誰にも教わらなかったのか?」

「そういうこととは?」

「戦いの前に自分の将来を語って聞かせるとな、戦場の死神に魅入られてしまうんだとさ」

「何を言う、戦う覚悟を示して悪いことなどあるものか。勝利の女神を呼び込むことこそあれど、死神など寄ってくるものか」

「いや、死神本人というか、非モテどもの怨念の集合体が足を引っ張る感じの……、まあ世界が違えばジンクスも違うよな。忠告はしたからな、死んでも化けて出るなよ、ゲオルグ」


 ここは魔都から片道一日ほど離れた町のはずれ、義勇軍が駐屯する天幕の一つ。

 男三人が寝泊まりするには少々大きめで、こうして火を囲んで酒を酌み交わすくらいの余裕はある。

 ちなみにこの天幕の主で義勇軍のリーダーでもあるカイゼルはというと、今夜も町の娼館に繰り出してゲオルグ以外の幹部達と経済をぶん回している頃だろう。

 どうせ金をむしり取られて朝方に下着一枚で放り出されるのがオチなので、心配してついていこうとしたゲオルグを引き留めて、馬鹿の居ぬ間にひと時の休息をと誘ってみたことろ、一杯目も飲み干さないうちに不吉なセリフが飛び出したというわけだ。


「アメリアには苦労を掛け通しだからな。メレオーネ様の世話も任せきりで申し訳がない。せめて、心は共にあらねば」

「いや、思い出すなと言っているわけじゃない。手当たり次第に惚気るなって話だ」

「だが、アメリアの美しさを見てもらうために身に着けている姿絵入りのペンダントを――」

「出すな!! そして見せるな!!」

「ならば預かって――」

「断る!!」


 ゲオルグ=ロムフェール。

 平時はぐうたら領主の代わりに領地の管理を一手に引き受け、義勇軍では智謀の軍師として寄せ集めの兵をまとめ上げ、今やその名は敵味方に広く知られつつある。

 唯一苦手だと言っていた武芸も、俺が教えるようになってからは着実な進歩を見せて、今や義勇軍でも十指に入る腕前となっている。

 そんなゲオルグの如何ともし難い弱点が、酒だ。

 どれだけ飲んでも顔に出ないところがさらに厄介なので、泥酔しないようにしっかりと見張っておかないとならない。

 今回みたいな酒の力を借りたい話でもない限り、ゲオルグとサシで飲むのは避けたいくらいだ。


「ところで、さっきの話にも出てきたメレオーネなんだがな、俺宛に手紙が届いた」

「それは、……いや待て、言わなくていい」

「手紙の内容はお察しの通り、カイゼルが行く先々で作っている女のことだ。どの程度までの約束があるのか、子供が生まれた場合はオルネシア家で引き取るのか、旦那様に確認して返事をくれとのことだ」

「……カシマ、頼まれてはくれないか?」

「嫌に決まっているだろう。第一、俺はオルネシア家の客分ではあっても身内じゃない。当主の醜聞の後始末を引き受ける立場じゃないんだよ」

「それなら剣術指南役としてカイゼル様に仕えてくれ。この乱世、武芸に優れていることはもちろん、教え上手の人材はいくらいても困らない」

「悪いが、決まった主を持つつもりはない。カイゼルのことは気に入っているし、あいつは王の器だと思っているから助太刀なら喜んで引き受ける。だが、俺には俺の目的がある」

「ならば客分のままでもいい、この地に血筋を残すつもりはないか? 確か、お前の身の回りの世話をしていたハーフエルフの娘がいたな。名前は、クルシェと言ったか」


 ゲオルグからその名が飛び出した時に、つい口元を歪めてしまった。

 未熟な自分を罵りたい一方で、いい加減に付き合いも長くなってきたこいつならまあいいか、と気を許す俺もいる。

 ゲオルグもいちいち突っ込んでこない。そのくらいの付き合いだった。


「なんでそこでクルシェが出てくるんだ。あいつはカイゼルの屋敷の奉公人だろう」

「なんだ、とっくの昔に主従の契りを交わしたと思っていたが。手を付けたのだろう?」

「何のことか全くわからないが、全力で否定しておく」

「あれもゴルドラの被害者なだけで、元はそれなりの家の出だ。今は奉公人の形をとっているが、成人すればいずれかの貴族か騎士の家に嫁がせることもできるだろう。カイゼル様もその気だった」

「だった? 今は違うのか」

「……まったく、鈍感なのか演技なのか。剣聖殿の心は私にも読めないな」


 義勇軍の酒保から手に入れてきた酒は、保存重視でとにかくアルコールが強い。

 一杯も飲めば呂律が回らなくなる黒い液体を、ゲオルグは果実水のように喉に流し込んでいく。

 不思議なもので、ゲオルグの飲みっぷりを見ていると、ついこっちも過ごしてしまう。

 ここまで愚かな行為に浸るのも久しぶりで、それが心地良い。


「俺なんかよりもカイゼルはどうなんだ。好みの女に手当たり次第に手を出しているんだから、今さら一人くらい増えたって問題ないだろう」

「お前、カイゼル様のことを何だと思っている。あれでも無垢な乙女には一度たりともお手を付けていないのだぞ。それに、クルシェのことは妹のように慈しんでいらっしゃる。今更、側室として召し上げるものか」

「ならお前はどうだ、ゲオルグ。カイゼルが信頼できる側近を増やすために、子は何人いてもいいと言っていたよな。正妻のアメリアは別として、側室にしても誰でもいいわけじゃないだろう。その点、クルシェは十分に資格があると思うがな」


 酒は飲んでも飲まれないゲオルグだが、鋼鉄の意志も酒に漬け込まれたことによって少しは柔らかくなったらしく、一瞬だけ目が泳いだ。


「お前はどうしてそう核心を突いてくるんだ。しかもこっちが望んでいない時に限って」

「ということは、クルシェことを憎からず思っているんだな。良縁だと思うぞ」

「そうは言うが、クルシェの気持ちも考えろ。お前がオルネシア家から出ていくとなればついていくと言い出しかねん勢いだぞ」

「それは無理だ」

「お前の旅が過酷なことくらい、クルシェも承知だ。あの娘の覚悟は本物だ」

「そうじゃない。俺の家は、どうあっても立ち入れない場所にあるんだ。クルシェに限らずな」

「どういうことだ?」

「それは、カイゼルが王になった後に分かるさ。嫌でも知ることになると言った方が正しいかもな」


 実は俺には同居人がいて、男女問わず余所者が立ち入ると途端に機嫌が悪くなる。

 それだけならまだしも、あいつの機嫌が悪くなると多くの人々がとても困ったことになる。


 ……あんな光景は一度見れば十分だ。


「とにかく、クルシェは連れていけない。俺からきっぱりと話してもいいが、カイゼルかお前が説得した方がいいだろう」

「……一つだけ条件がある。せめてクルシェといる間は、せいぜい優しくしてやってくれ。お前との別れは仕方がないとしても、無視されることには耐えられないだろう、クルシェは」

「わかった。これまで通りに接する」

「まったく、つくづく困ったものだな、わが友は」


 その後も男二人の酒盛りは続き、結局はゲオルグのペースに付き合わされて安酒に酔いしれたのは憶えている。

 問題は酒の肴となった話題の数々だが、何をどこまで話したのやら。

 ただ、酔いつぶれるまでに一度だけ、ゲオルグの眼が鋭い光を放った気がした記憶がある。

 あの時、俺が何を暴露して、後のオルネシア王国の大貴族の琴線に触れたのか。

 ひょっとしたら、どうせ確かめようがないのだからと時空を超えた恋物語を冗談交じりに語って聞かせたのかもしれない。

 まあ、俺も若かったってことだ。


 ちなみに、カイゼルの屋敷で世話をしてくれたクルシェとはいうと、酒の席の話が現実のものとなり、ゲオルグの第四夫人として二人の子に恵まれ、ロムフェール公爵家の寄子として貴族の末席に加えられたのだとか。

 あの、貴族軍と国王軍が対峙したオラン平原の戦いでも、俺の味方として馳せ参じたことを知ったのは、少し後のことだ。

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