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余命100年の転生エルフはもう一度好きと伝えたい  作者: 佐藤アスタ


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20/26

20 謁見の間と宣戦布告

「とまあ、これが昨日の夜に起きた出来事だ」


 ロムフェール公爵邸の方はエリアに任せて。

 今日も今日とて王宮にやってきたのはいいが、適当に報告してさっさと帰ろうと思ったのとは裏腹に、国王の側近を名乗る鹿爪らしい男に案内された先は、国王を始めとした王宮の重鎮が勢揃いの謁見の間だった。


「侵入者の連中が切羽詰まっていたのは傍目にも分かったが、あれが本国からの命令を受けての行動だとすると厄介だぞ。最悪、この王都で複数国の暗部が入り乱れての聖女争奪戦が勃発するかもな」

「ふうむ、残ったのは頭目らしき死体一つのみ、部下は早々に逃げ去り、証拠と呼べるものは他にない。ないが、剣聖カシマの言葉となれば、信じぬわけにはいかぬ。そうではないか?」

「は、早々に不審な来訪者が紛れ込んでいないか、衛兵隊を動かしまする」

「ちょっと待てよ!!」


 主従の会話を交わすのは、上座の椅子に深く腰掛ける国王と、その背後に立つ宰相。

 さらには左右の壁際に控える文官と物々しい警備の近衛騎士が、合わせて三十人ほど。

 そして、扉の近くで一塊になっている集団というか、一クラス。

 その先頭に立っている少年が、無礼にも一歩進み出て国王と宰相の会話に口をはさんだ。

 というかまあ、小野だった。


「そこにいるのは、ちょっと耳が長くなっただけの鹿島じゃねえか。なんで国王様が言いなりになってんだよ」

「オノ殿、そのことに関しては昨夜までに十分に説明を尽くしたと、宰相から聞いておるのだがな」

「うっ……」


 王国の序列というものを歴史の授業でしか知らない小野を、一言で黙らせる国王。

 さすがの貫禄というべきだが、同時に寛容さを見せるのも忘れていなかったらしく、宰相に向かって目配せをした。

 頷きながら主君の前に進み出て、軽く咳払いをした宰相は、厳かに語った。


「剣聖とは、世界最強の武の持ち主に与えられる称号にして、カシマ殿の二つ名。八百年前に神の御使いとして世に現れて以降、今日に至るまで数々の伝説を打ち立て続けている。そのひとつが、魔法至上主義を掲げ、魔力の低い者を奴隷身分に落とし圧政を強いていたゴルゴーラ魔法帝国を打倒した、オルネシア建国戦争。カシマ殿はゴルゴーラ軍の中核を為す六人の魔導士のことごとくを討ち、建国王カイゼル陛下がその武功万夫不当と認められた、オルネシアの大恩人にして永代王家剣術指南役にあらせられる」

「そ、そんなわけがあるか!! 鹿島は俺たちのクラスメイトだぞ、八百年前とか建国戦争とか、生まれてもいねえのにできるわけねえだろ!!」

「そこに関しては、俺から説明した方がいいだろう」


 自慢話になるようで柄じゃないが、ここにいるのは全員が人族――せいぜい百年くらいしか生きられない連中ばかりだ。

 同じ言葉でも誰が言うかで、多少は重みが違ってくるはずだ。


「小野、もしも寿命が千年あったら、何がしたい」

「はあ、いきなり何言ってんだ、頭おかしいんじゃねえか?」

「まあ、それが普通の反応だろうな。だけどな、俺は考えたよ、この世界に来てすぐに。なにしろこの長くなった耳は飾りじゃない、正真正銘、俺の体の一部だ。俺はエルフに転生したんだよ」

「エルフだと、そんなもん信じられるか!!」


 小野だけじゃなく、後ろの元クラスメイト達からもざわめきが起こる。

 それはそうだろう、俺が見る限り、あいつらの中に人族以外の種族が混じっている気配はない。

 つまり、転生者という存在について全くと言っていいほど知識がなく、ましてや(一応は)クラスメイトが人間ではなくなったなんて、早々信じてもらえるものじゃないだろう。

 だから、ここは分かりやすい説得力を使うに限る。


「一通りの事情を説明したところで、改めて宣言しよう。そこにおられる剣聖カシマは九百年の時を生き、数多の武功と伝説を打ち立てた英雄であると、オルネシア国王の名のもとに保証しよう」

「カシマ殿はオルネシア建国戦争において並ぶ者のない大功を挙げており、初代国王カイゼル陛下に於かれては終生にわたる友誼を結んだ、大恩人。本来ならば陛下を除いた、すべてのオルネシア貴族が頭を垂れるべき御方なのだ」


 頃合いを見計らっていた国王のお墨付きが出たことで、クラスメイト達が静まり返る。

 説得で駄目なら権力を使う。大抵の相手はこれで黙らせることができる。

 元クラスメイト達もこのタイプだったようで、あれほどやかましかった小野も不満気な顔を見せながらも、それ以上の文句をつけてこなくなった。


「どうやら、大方の納得を得られたみたいだな。そこでひとつ、俺から提案がある」


 そんな切り出しとともに、宰相に目顔で合図を送ると、数人の文官があわただしく動いて扉の一つが開き、この場に居合わせるべき最後の一人が入ってきた。


「鹿島くん、それにみんなも? わたし、王様に呼ばれたはずなんだけど……」

「藤倉さん、単刀直入に言う。このままだと藤倉さんはオルネシア王国に殺される」

「っ……!?」

「おい鹿島!! てめえなにテキトーこいゴバア!?」

「お、小野おおお!?」

「か、鹿島くん、今のって……」

「ただの遠当てだよ。意識を刈り取る程度の気しか込めていないから、心配しなくていい」


 ただ一撃、マントの下から振り抜いた木刀から生まれた不可視の刃が小野を黙らせたことを確認して、藤倉さんに説明する。

 他の状況ならいざいらず、さすがに今は小野という雑音に煩わされたくない。

 それもこれも、重大な人生の選択が目の前に迫っている藤倉さんのためだ。


「改めて聞くけど、藤倉さんは聖女の加護についてどのくらい知っている?」

「この世界に来て授かっていた私の力で、たくさんの人達を助けられるって」

「その聖女の加護の中で最も強力なスキル、『聖女の大奇跡』が、聖女の命と引き換えに神の力を一時的に借りられることは?」

「……うん、第二王子殿下から、少しだけ」

「藤倉さん達転移者を管理監督していた第二王子は、第一王子の不治の病を治したがっている国王と取引して、『聖女の大奇跡』を必要としている他国に藤倉さんを売り渡そうとしていた。まあ、第二王子の陰謀は俺が潰したんだけど」

「あの時のこと、鹿島くんには本当に感謝しているよ」


 俺の説明に、謁見の間にいる元クラスメイト達だけでなく、役目中は私語が許されない騎士や文官たちからも、隠そうとしても隠しきれない動揺が広がる。

 ことは聖女の扱いだけでなく、オルネシア王国の王位継承にまで関わる問題だ。

 特に知り合いでもない異世界人の生死はともかく、誰が王位を継ぐかで自分たちだけでなく家族、もっと言えば親類縁者から全国民にまで深く関わってくることは確実だ。

 その中でただ二人、事情を知っていた国王と宰相はというと、一切の忖度をしなかった俺の爆弾発言に、主従そろって顔を引きつらせていた。

 だが、本当に驚くのはこれからだ。


「世界樹の壊死、ドレスデアの次期皇帝問題、迷宮都市の奪還、エドの商人ども、不死領域の浸食」


 世界五大災厄。

 旅の途次で噂に聞いた、いずれも人族を滅ぼしかねない危機だそうだ。

 そのために藤倉さんの命を狙うというのなら。


「すべて俺が解決して、聖女の力が不要な世界にしてやる。その報酬として藤倉さんの身柄をもらう。もちろん、前金としてな」

「カ、カシマ殿、形式上のことではあるが聖女は我が国の民だ。いくら剣聖の言葉といえど承服しかねるぞ」

「陛下の仰る通りです。剣聖殿の言葉を疑うつもりは毛頭ございませんが、聖女の身柄はこちらで預からせていただかねば」

「駄目だ、今日までこの国を見てきたが、カイトス、お前には藤倉さんを任せられない。馬鹿な第二王子の口車に乗るような奴に、信用は置けない」

「そ、それは、オルネシア王家を受け継ぐ者を見極めるために――」

「『もしも息子達が王に値しないならゲハルトの子に託す』五百年前、カイゼルは俺にそう言って笑ったぞ。二人の息子に王になる資格がないなら、さっさとゲオルグの息子を養子に取ればいい。それとも、カイゼルの意思は受け継がれていないのか?」

「そ、それは……」

「剣聖殿、さすがに言葉が過ぎますぞ」


 困惑と動揺から、不信と敵意へと、国王と宰相の目の色が変わっていく。

 何を信じて誰を味方にすべきなのか、頭ではわかっていても感情は思うようにいかない。特に肉親の情が絡むと、人は間違いを犯しやすい。

 だからといって国を誤るような王を持つ民は不幸としか言いようがないが、浅からぬ縁があるとはいえ余所の国の問題にそこまで首を突っ込むつもりはない。

 俺が譲れないものはただ一つ、藤倉さんだけだ。


「つまりカイトス、お前は俺に剣を向けるっていうんだな?」

「そのようなことは……」

「今さら怖気づくなよ、って言いたいところだが、この状況は俺の間合いだ。やろうと思えばお前と宰相くらい一息で片づけられるのも事実だ。もちろん、護衛ごとな」

「うっ、動くな護衛騎士、影護衛も含めてだ!! 剣聖殿を決して刺激するな……!!」


 謁見の間の騎士、そして壁や天井、床板一枚隔てた向こうの気配が、国王の叫びで瞬く間に静まる。

 俺の発言が不穏当になってきた辺りから刺すような視線が集まってきていたが、暗殺を専門とした連中ではないようで殺気が駄々洩れだった。

 ちなみに元クラスメイト達はというと、二、三人は戦慄の表情を浮かべているが、ほとんどは何が起きているのか理解できずに不安げに立ち尽くしているだけだ。

 どうやら俺を排除しようとした国王の護衛は、その程度の手練れではあったらしい。


「安心しろ。力づくでで決着をつけるつもりはない。下手に恨みを買って、刺客を送り続けられてもつまらないしな」

「剣聖殿、どうしろというのだ……?」

「確か、王都の近くにだだっ広い平原があったな。そこで真昼と日没の中間まで待っていてやるから、仕掛けてこい」

「仕掛けろ、とは?」

「一万でも十万でも、時の許す限り兵を集めて攻めてこい。ちなみに、いかなる理由があっても延期や卑怯な真似は禁止だ。もし破れば」

「破れば……?」

「なぜ俺が『剣の龍』と呼ばれるようになったのか、オルネシア王国に身を以て知ってもらうことになる」

「……よかろう、聖女殿の件はその戦ですべて決着させることとする」

「陛下!?」

「剣聖カシマが最大限に譲歩したのだ、建国王カイゼル以来の友好の歴史を、余の代で潰すわけにはいかぬ」

「……かしこまりました。近衛騎士団長!! すぐに王都に向けて戒厳令を発せよ!!」


 とりあえず、解決の道のりへの端緒をつけることができたな、と内心一息ついていると、遠慮がちに袖を引かれた。

 もちろん、このオルネシア王国でそんなことをしてくれるのは、藤倉さんだけだ。


「鹿島くん……」

「待った、藤倉さんにも言いたいことはあるかもしれないけど、話は後でいいかな」

「だって無茶だよ、鹿島くんが強いのは十分に分かったけど、軍隊を相手にするなんて……」

「大丈夫、竜王を相手にするより百万倍楽だから」

「りゅ、りゅうおう?」

「そう、ゲームのボスじゃなくて、本物のドラゴンの王だよ。あれに比べたら楽なものだよ」


 突拍子もない話に目を白黒させるという、新たな一面を見せてくる藤倉さんが、純粋に可愛い。

 かわいいは最強、って本当だな、俺の棒振り九百年なんて大したことじゃない。

 彼女の近くにいられることに比べれば。

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