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余命100年の転生エルフはもう一度好きと伝えたい  作者: 佐藤アスタ


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13 炎と刃

「ラングレン殿下、なぜこのようなところに……!?」


 驚くエリアの声が庭園に響くが、無理もない。

 通常、罪人の扱いが不浄とされるのはこの世界でも共通の常識で、特に上流階級の人間は視界に入れることすら忌避する。

 王族の側に侍る近衛騎士団が出張ってくるだけも異例中の異例。ましてや王子本人の登場など、エリアでなくとも青天の霹靂なことは疑いようもない。


「エリア=ロムフェールか。女だてらに家名を背負うと、こうも王家に歯向かうようになるものなのだな」

「それは、我がロムフェール公爵家に対する王家の介入と捉えてよいのですか? だとすればこちらも手をこまねいているわけにはいかなくなります」

「そういきり立つな、エリア=ロムフェール。別に、貴様をどうこうしようというのではない、貴様はな」


 エリアと問答している間も冷笑を浮かべている第二王子。

 その右手がおもむろに上げられると、近衛騎士団ではない、庭園の陰に潜み続けていた残りの気配が一斉に、同じ形状の杖を手に姿を現した。


 五、十、……全部で五十人ってところか。

 たかだか三人、正確には俺一人に対して魔導士のご登場とは、御大層なもてなしだ。


「まさか、陛下の御許しもなしに、王宮魔導師団を動かしたのですか!?」

「王家の問題に差し出口など許されぬが、余は気分がいい、特別に答えてやろう。その通り、父上は知らぬ」

「それがどういうことかお分かりですか!! そもそも、なぜ魔導士団が殿下に――」

「もちろん、貴様ら剣士から王国軍の主導権を取り返すためだとも」

「貴様、ケンブリウス師団長か!」


 第二王子の背後から偉そうな口調と共に現れたのは、そこかしこに宝石がちりばめられた杖とローブを装備した、陰険な目つきをした細身の男。

 一見、笑顔を浮かべているようで、嫌味ったらしい眼鏡の奥の瞳は一切笑っていない、お友達にはなれそうにないタイプだ。


「オルネシア王国で剣士が幅を利かせるようになって何百年経ったことか。代々の師団長がどう考えていたかは知らんが、私はいい加減にうんざりしていたのだ。そこに、ラングレン殿下から誘いがあったのだよ、エリア殿」

「馬鹿な、恐れ多くも陛下を裏切るなど、許されざる大逆だぞ!」

「それもこれも、ラングレン殿下が次期国王に内定すれば、すべてひっくり返る些事(さじ)ではないか」

「第一王子殿下を蔑ろにするなど、陛下が認めるはずがない!」

「それが認められるのだよ。なにしろ、第一王子殿下の命を、ラングレン殿下が救うのだからな。聖女と引き換えに」

「なっ……、どういうことだ!?」

「おしゃべりはここまでだ――聖女を捕らえよ」


 ケンブリウスの合図に、俺たちの近くにいた五人の魔導士が杖を掲げる。


「無詠唱魔法の使い手か、厄介な……!」

「きゃあっ!?」

「フジクラ殿、決して動きませぬように!」


 エリアの言葉を証明するように五本の杖の先端が赤く光り出すと、俺との間を隔てるように炎の鉄格子が現れ、藤倉さんとエリアを閉じ込めてしまった。


「その『フレイムジェイル』は、王宮魔導師団が誇る複合魔法。どれほど近づいても熱さを感じないが、ひとたび触れるとたちまち全身が業火に包まれる。剣士ごときでは破ることなど決して敵わぬぞ」

「なめるな!! なぜオルネシア王国において、魔導士が剣士の後塵を拝すことになったか、忘れたか!!」


 シャラン、と流れるような動作で腰の剣を抜くエリア。

 その流麗な刃に、業火の中でもはっきりとわかるほどの青白い光が宿っていた。


「はあぁっ!!」


 剣光一閃。

 エリアが放った横一文字の斬撃は、剣では対抗できないはずの炎の檻を見事に切り裂き、火の粉とともに消滅させた。


「いやはや、まさか王宮魔導士の精鋭五人の『フレイムジェイル』を打ち消すとは。見事な『対魔刃』だ」

「ケンブリウス……」


 恐れを口にしているが、冷笑を崩さないケンブリウス。

 対して、炎の檻を破ったはずのエリアの顔には僅かな焦りが滲んでいた。


「五百年前の建国戦争における武功第一等にして、建国王の右腕として名高い初代ロムフェール公爵。彼が幾多の魔導士を破った奥義、対魔刃。己が武器に魔力を乗せ振るうことで、襲い来る魔法をことごとく撃ち落とした、まさに魔導士殺しの秘技」

「そうだ。それ以来、我がロムフェール公爵家を名乗る者は、対魔刃の習得が課されている。貴様のような、愚かな魔導士に対する抑止力としてな」

「そう、魔力を相殺し合えば魔導士と剣士、どちらに軍配が上がるかは言うまでもない。だが、それは互いの魔力が釣り合えばの話だ」

「くっ……!!」


 ケンブリウスの言葉を合図に、今度は十本の杖が光り、再び炎の檻が燃え上がる。

 それを祓おうとするエリアの剣も輝きを帯びていくが、心なしかさっきよりも光が弱々しい。


「させるものか……!!」


 それでもなんとか二度目の破壊に成功するが、エリアの息は乱れ、額からの汗が頬を伝ってぽたりと地面に落ちる。

 同時に、二度の複合魔法を放った五人の魔導士も魔力切れを起こしたらしく、杖にすがりその場に座り込りこんでいた。

 単純に考えれば十五対一の不利な状況で互角の勝負に持ち込んだエリアは称賛されてしかるべきなのだが、残念ながら命の取り合いに引き分けは存在しない。


「素晴らしい、王宮魔導士による渾身の魔法を、たった一人で二度も打ち破るとは!! だが、こちらにはまだまだ魔導士がいる上に、これがある」


 もはや勝ち誇った表情を隠そうともしないケンブリウスが懐から取り出したのは、純白の宝石に彩られた指輪。

 ダイヤモンドではありえない、自ら光を放つ魔石の指輪を見た、エリアの顔色がさらに悪化した。


「それはオルネシア王家の秘宝、『慈愛の恩寵』。宝物庫に厳重に封印されているはずのものを、なぜ貴様が持っている!?」

「言っておくが、私は盗人ではないぞ。主従の契りを結ぶ手付金として、ラングレン殿下から頂いたのだ」

「殿下、なぜそのような愚かな真似を!? 事と次第によっては反逆罪を疑わざるを得なくなります!!」

「大げさだな、エリア=ロムフェール。王家の秘宝を次の王である余がどう扱おうが、貴様に指図される謂れはない。これだから頭の固い騎士はいかん。目障りだ、ケンブリウス、やれ」


 第二王子に畏まったケンブリウスが右手の小指に嵌めた指輪を空に掲げると、庭園の草花の下から光が溢れ、魔力切れを起こしていたはずの五人の魔導士が何事もなかったかのように立ち上がった。


「王宮の地下深くに存在する、巨大な魔力の流れである『龍脈』に働きかけ、使用者と任意の者の魔力を回復させるという『慈愛の恩寵』。後生大事にしまうばかりのカビ臭い骨董品かと思ったが、思いのほか使えたな、ケンブリウスよ」

「あと数回ほど使用した後に解析に回す予定ですが、もしも複製に成功すれば、オルネシア王宮魔導士団は並ぶもののない最強の力を手にすることになるでしょう。なにしろ、龍脈を無制限に利用することができるのですからな」

「馬鹿な、そんな都合のいい物がこの世にあるものか!! 過ぎた力に溺れれば、必ず相応の報いを受けることになるぞ!!」


 第二王子とケンブリウスに吼えるエリアだが、剣を持つ手は震えて顔からは血の気が引き、とても戦える状態にはない。

 一目でわかるほどの魔力切れ状態だ。


「殿下。確かに王家の秘宝は次代の王にあらせられる殿下のものではありますが、このまま聖女のみを確保してエリア殿を帰せば、あらぬ噂で火のないところに煙を立てられかねないと愚考いたしますが」

「ふむ……、では、侵入者の捕縛中に戦いに巻き込まれて大怪我を負ったことにせよ。エリア=ロムフェールの身柄は貴様に預けるが、生きてさえおれば、あとは好きにしてかまわぬ。せいぜい、二度と王家に逆らえぬ身体にしてやるがいい」


 嘲る第二王子、邪悪の笑みのケンブリウス、詠唱を完了させる王宮魔導士、震える手で剣を構え続けるエリア。


 ……事ここに極まれり、だな。逆転の目はなし、援軍も期待できない、他に道はないだろう。

 近衛騎士との戦いで距離が空いていたせいで蚊帳の外に置かれていたが、そうも言っていられないな。

 仕方がない、抜くか。



 ~~~



 その時、全ての王都の民が風を感じた。

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