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余命100年の転生エルフはもう一度好きと伝えたい  作者: 佐藤アスタ


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12 通路から庭園へ

 気絶した庭園隊の隊長の身柄をロムフェール公爵家の騎士たちに預けて、藤倉さんと一緒に王宮の奥へと歩を進める。

 約一名の同行者を増やしながら。


「後始末を買って出てくれたのは感謝しているが、ついてきてくれと頼んだ覚えはないんだがな、エリア」

「私のことならお気になさらず。我が身とフジクラ殿をお守りする程度の技量は持ち合わせていますので」

「あのな、俺は第二王子に殴り込みをかけている最中なんだぞ。いいから帰れ」

「だからこそ、事の顛末を見届けた後に迅速に事態を収拾することこそ、カシマ様の意向に沿う最善と判断いたしました。決して新たなる剣聖伝説をこの目に焼き付け、後世に語り継ぐことが第一の目的ではありませんので、ご安心を」

「安心できる要素が見つからないな」

「心配せずとも、先ほど捕らえた庭園隊の隊長から情報を聞き出せば、第二王子派を牽制する十分な材料となるはずです。いくら第二王子殿下といえ、庭園隊の隊長ほどの人物をただの捨て駒にしていたとは思えません。間違いなく重要な証言が取れることでしょう」

「まあ、王家との仲がこじれない程度に利用してくれ。でないと、カイゼルとゲハルトに悪い」


 ふと王宮の中心、王都で最も高い尖塔にはためくオルネシア王家の旗に目に留めると、俺とエリアに前後を挟まれて歩く藤倉さんが遠慮がちに聞いてきた。


「鹿島くん、そのカイゼルって名前の人、もしかして……」

「うん、オルネシア王国の建国王だよ。もっとも、俺が出会った時はただの辺境の小領主。カイゼルの従騎士だったゲハルトは、エリアやゲオルグの先祖だな」

「我らロムフェール公爵家の忠義は国王陛下にありますが、国を危うくする馬鹿王子に捧げる剣は持ち合わせておりません。五百年の歴史の内に、ロムフェール公爵家にも王家の血が入っておりますので、いよいよとなれば王家を打倒し、剣聖を崇拝する新たなオルネシア王国を興すことも――」

「だから、俺はカイゼルとゲハルトが残した国を壊すつもりなんてないんだよ」

「エリアさんは、鹿島くんのことが好きなんですか?」

「藤倉さん?」

「強いて形容するならば、カシマ様は神ですね」

「エリア?」


 いわば敵本陣ともいえる王宮の只中で、完全な死角からの鋭い一撃に思わず立ち止まる。

 そんな俺の気持ちなどまるで察することなく、異様なまでの勢いでエリアに詰め寄った藤倉さん。

 女子は恋愛エピソードに目がないと聞くが、エリアの返答に目を白黒させた。


「我が家に連綿(れんめん)と伝わるカシマ=オルネシア流剣術の宗主にして、世界中にて数々の伝説を残してこられたカシマ様の、一夜の戯れの相手をせよと命じられれば、喜んでこの身を差し出しましょう。ですが、騎士である私の真の望みは、時の許す限りの指導と、持てる力を出し尽くしての試合にほかなりません。無論、このような悲願を抱いているのは私だけではありません。ロムフェール公爵家の騎士ならば、いえ、一度でも剣を志したことのあるオルネシアの民ならば、カシマ様の剣にかかって命を落とすは本懐でありましょう。ですが、それはあくまでもカシマ様の意向を無視するわけでは――」

「分かりました、もう十分に分かりましたから!」


 九百年という第二の人生のほとんどを人里離れた秘境で暮らしてきた俺の、数少ない後悔の一つがこれだ。

 何度か山を下りて剣を振るっているうちに、何が琴線に触れたのか弟子入りを志願する者がちらほら出始めて、特にしつこかった何人かに仕方なく稽古をつけた。

 さすがに手解きだけしてあとは放置、というわけにもいかないので、ひと通りの構えや精神の在り方、基本的な技をなぞれるようになるまで付き合い、俗にいう免許皆伝を口頭で認めた。

 まあ、所詮は誇る勲もない自己流の剣術、弟子たちもやがて世界を知り時代が過ぎれば忘れていくだろうと高を括っていた。


 そして現在、カシマを名乗る剣術の流派は数多(あまた)存在し、そのほとんどが世間に広く認知されている。

 もちろん調べたわけじゃない。現在に至るまでに耳にした風の噂を総合すると、そう認めざるを得なかっただけだ。

 そして、カシマ流剣術の主要流派の一つがカシマ=オルネシア流で、今代を代表する剣士がゲオルグ、その娘であり後継者の一人がエリアになる。

 それと、風の噂はこうも言っていた。

 五百年前に現れたというカシマ流宗主を馬鹿にするな、力づくで潰されるか力づくで門弟にされるぞ。

 だそうだ。

 俺は悪くない。無罪を主張する。


「ですが、カシマ=オルネシア流は実力が低い門弟を蔑むようなことはありません。カシマ様を敬い、日々の鍛錬を欠かさぬ者は等しく良き門弟なのです。ですのでフジクラ殿、事が収まった暁にはぜひカシマ=オルネシア流に入門を!!」

「いえ、私、さすがにクラスメイトのお弟子さんに弟子入りするのは気が引けるというか……」


 そろそろ本気で止めるかと思った矢先、困り果てている藤倉さんに擦り寄らんばかりだったエリアの体の向きがぐいっと、進行方向に向き直った。


「カシマ様」

「わかっている。どうやらお待ちかねのようだ」


 さっきまでとは打って変わって、眼光鋭く警戒するエリアを先頭に(同行するだけじゃなかったのかと野暮は言わない)俺と藤倉さんが続き、幅広の通路を進む。

 正門での戦いが伝わったらしく無人だが、巧妙に配置された柱や像が視界を遮って、遠くまで見通せない。

 一度目は裏ルートだったので気づかなかったがさすがは王宮、華美でありながら護りも忘れていない。

 その通路の奥に何十もの気配があり、殺気が漂ってきていた。


「エリア、参考までに聞きたいんだが、第二王子が待ち構えていそうな場所に、心当たりはあるか?」

「第二王子殿下が愚かにも、カシマ様を襲うと考えておられるのですか?」

「特に剣聖と名乗ってないんだが、恨みを買った自覚はあるからな。普通に考えればただの目障りな奴と認識されているのが自然だ」

「なるほど、カシマ様の偉大な風格も理解できない愚か者というわけですね」

「……正門での騒ぎが知らされているとすれば、それなりのもてなしを用意しているんじゃないかと思っただけだ」

「でしたら、カシマ様の先導役を務めさせて頂いた、あの時の庭園が最も可能性が高いかと」

「あそこか」

「何か存念でもお有りですか?」


 しまった、顔に出たか。


「ちょっと、カイゼルとゲハルトとの思い出があるだけだ。気にしなくていい」

「それは、私としては戦場にならぬように、できる限りの配慮をしたいところなのですが……」

「だから気にしなくていい。それに、その程度のことで剣が鈍ったりはしない」


 もしかしたら、俺一人の問題だったらここで引き返して、戦いを避けていたかもしれない。

 追手が少し鬱陶しいが、国外に出ればその辺の野盗と大差がないだろう。


 ただ、今は藤倉さんがいる。

 九百年間、ほとんどが剣を振る暮らしだった俺とは違い、藤倉さんが今逃げれば取り返しがつかなくなるものがいくつもある。

 友情、立場、矜持、まだ見えてきていない要素もあるに違いない。

 その全てを守ると言い切ることができるほど傲慢じゃないつもりだが、転ばぬ先の杖くらいにはなれる。

 どんな障害も叩き伏せる、仕込み杖くらいには。


「じゃ、行くよ、藤倉さん」

「う、うん」


「お供いたします!」と人目を(はばか)らず(実際憚る必要はないんだが)叫ぶエリアはスルーして、藤倉さんの右手を引くように、懐かしい庭園へと足を踏み入れた。



 ~~~



 王宮建設時から今も形を変えることなく残る庭園には、庭師が丹精込めた四季折々の花が年中植えられている。

 平時は滅多に外に出ることのない王族の無聊を慰め、いざとなれば近衛騎士団の集合場所や王宮内に賊が侵入した際の戦場として、相応の広さが確保されている。

 その庭園の花々を蹂躙することも厭わないように訓練された近衛騎士団二個中隊が、侵入者を手ぐすね引いて待ち構えていた。


「隊長、どうか私に雪辱の機会を!」


 隊列を乱すという軍規違反を犯してまで直訴しているのは、第二中隊の近衛騎士のカルストだった。

 昨日、第二王子主催の宴の護衛任務に就いていながら賊の侵入を許し、あまつさえ敗北し取り逃がしたことで近衛騎士団の評判を大きく落とした、戦犯の一人だ。

 ひとまず暫定的な処分ということで、近衛騎士団第八席の称号をはく奪されて意気消沈していたが、どういうつもりか侵入者が舞い戻ってきたことを知ると、同僚の制止も聞かずに危険な先陣役に名乗り出た。

 侵入者が近衛騎士団を一蹴するほどの実力の持ち主であることを考えれば、カルストの志願はむしろ望ましいところなのだが、直属の上官の返答はにべもないものだった。


「駄目だ。先陣は、私自ら切ることに決定している」

「隊長が!?」

「誰のせいでこうなったと思っている。賊の始末など、近衛騎士には何の誉れにもならんわ」

「で、ですから、私にお任せを」

「貴様は第二王子殿下の命に逆らうというのか、カルスト。近衛騎士団最強である私の足元にも及ばない未熟者が」

「いえ、決してそのようなことは……」


 第一中隊長を兼ねる近衛騎士団長はいわば名誉職で、代々王族に近しい血筋の者が任じられることになっている。

 そのため、万が一にも経歴に傷をつけないために、このような荒事が予想される場には出てこない。

 実戦で近衛騎士団の指揮を執り、常勝無敗の責を負うのは第二中隊の隊長、つまりカルストの直属の上官だった。


「どうやらのこのことやって来たようだな。改めて命じておくが、私が賊を制圧するまで手を出すことは許さん。総員、配置につけ!!」


 近衛騎士団の汚名を雪ぐため、まずは第二中隊長が一人で戦い、他の騎士は包囲に専念する。

 見方によっては第二中隊長が手柄の独占を狙っているように勘繰られてもおかしくないのだが、第二王子の命だと言われてしまえばカルストも従わざるを得ない。

 たとえ、賊と呼ばれる剣士と直に相対した者として、勝敗とも呼べない一方的な結果が見えてしまっていても。


「我こそはオルネシア王国近衛騎士団第二中隊ちょはごおぅあ……!?」

「た、隊長……!!」

「隙だらけだ。名乗りを上げたいなら余所でやれ」


 侵入者たちが庭園に姿を見せたところで、勝利を確信しながら悠々と剣を抜き払った第二中隊長。

 カルストの目に辛うじて映ったのは、黒髪のエルフが一歩を踏み出しマントが翻ったと思ったときには、近衛騎士団最強の使い手が悶絶し、崩れるように床に這い蹲った光景だった。


(疾い、いや、間が違うのか。この位置の私にも見えたのだ、隊長が反応できなかったのは、奴の動きがあまりに美しすぎて、合わせることを諦めたからか。そんなことがあり得るのか……!?)


 それはもはや神技と呼ばれる領域では、とカルストの全身に震えが走った瞬間、


「ふん、やはり剣士ごときでは当てにならぬな」


 傍若無人にして傲岸不遜。

 だが、それが許される声の持ち主だと、カルストは知っている。


「聖女を拐した大罪人め、余が直々に成敗してくれるわ」


 侵入者たちの反対側の通路から、護衛騎士を引き連れた第二王子ラングレンが不敵な笑みを浮かべていた。

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