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3.見事に膝カックン

 見事に膝カックンをキメられたノアルスイユは、思いっきりよろめいた。


「ななななななにをするんですか!?」


「うっとりしている暇があったら、さっさと探しなさいよ!

 親とか大人が介入してきたら、面倒なことになるに決まってるんだから。

 来年から、このイベントがなくなってもよいの!?

 冬至祭りはお留守番なんて、わたくしはいやよ!」


「や。そそそそれは……」


 ノアルスイユはおろおろするが、第三王女コンスタンツェは首を横に振った。


「どの部屋も、何度も探しました。

 あとは……このツリーの上くらいかしら」


 釣られて、皆、キラキラと飾り付けられたツリーを見上げた。

 脚立は既に倉庫に戻したとのことで、下からしか確認することはできない。

 犯人も脚立は使えないので、上に隠したということも考えにくいが──


「あ」


 カタリナは小さく声を漏らすと、いきなりかがみ込み、ツリーの根元に四つん這いになって入り込んだ。


 実のところ、カタリナには、最初から犯人の目星はついていた。

 だが、結構かさばる贈り物をどこに隠したのかが、わからなかったのだが──


 ピンクのリボンで飾られた青い箱は、どこにも見当たらない。

 ならば、見かけが変えられているはず。

 しかし、他の家の贈り物の数は合っているのだから、贈り物の山に紛れ込ませたわけではない。

 会場には、他に不審なものはなかった。

 とすれば、あとは「ツリーの中」。

 そしておそらく──


「そこは、最初に皆で見たところですが??」


 ノアルスイユが戸惑っているのを無視し、カタリナは身体をひねって、モミの木の幹のすぐ近くから上を見上げた。

 枝の間に、白いものが見える。

 外からは、目につかなさそうな位置だ。


「あったわ!」


 カタリナは、やたら大きな、艶のある白い紙で出来た星型のオーナメントを抱えて、下枝の外に這い出した。

 飾り気のない、ただの白い紙の星?だが、結構厚みもある。


「やっぱり! とりあえずオーナメントに偽装しておけば、堂々と持ち帰ることができるもの!」


「「「ええと……??」」」


 探しているものとは全然違うものをドヤ顔で掲げてみせるカタリナに、皆、戸惑う。


 しかし──


「「「あああああ……!?」」」


 カタリナがそっと紙の端をめくると、鮮やかな青が現れた。

 白く見えていたのは、青い包み紙の裏側だったのだ。


「ハサミも接着剤もないのに、よくとっさに作れたわね」


 紙箱を分解して作った帯を使い、巧みに組まれた骨組みの中には例のピンクのリボンが詰められている。

 リボンをそっと取り除けると、紙で作った愛らしい雪の妖精の人形や、広げるとびよんと伸びて立体になる星飾りが現れた。

 これが姉妹で作った贈り物なのだろう。

 金紙銀紙を要所要所に配した飾りは、細かいパーツを正確に切り抜いて張り合わせた精緻なものだ。


「レディ・ジェルメーヌ。あなたが言っていたペンダントはこれかしら」


 最後に、カタリナは青い石が嵌まったペンダントを掲げてみせた。

 しずく型の石は長径8cmはある。

 下の方が深い青、上は透明で、グラデーションが美しい。

 最高級の魔石だ。


「そ、そうです」


 ジェルメーヌは頷いた。

 こんな騒動になるとは思っていなかったのか、姉妹は真っ青になって、床の上で抱き合っている。


 ジュスティーヌが、横からペンダントの裏側を覗き込んだ。


「プザン男爵家の家紋……テレーズ様のお母様のものね。

 子爵家に嫁ぐ時にお持ちになったのでしょう。

 さっきジェルメーヌ様がおっしゃったことが本当なら、テレーズ様が受け継ぐはずの資産を、どういうわけだか今の子爵夫人が雑に扱っていらっしゃる、という話になるけれど……

 こんなペンダントが『子どもの会』の贈り物に入っていたら、どういうことだと問題になったはず」


 カタリナは頷いた。


「レディ・ジェルメーヌはお母様が変なことをしていらっしゃると、王家に知らせたかったのでしょう。

 だから、贈り物がなくなった時、ことさらに騒ぎ立ててみせたんじゃないの?」


「は、はい。

 お父様はちっとも帰ってこないし、お母様の言いなりなんです」


 ジェルメーヌは泣きじゃくりながら、頷いた。


「で、レディ・テレーズはペンダントが入っていることに気づいて、贈り物ごと隠し、持ち帰ろうとした。

 どうしてそんなことをしたの?」


 カタリナが訊ねる。


「わ、私はそんなことをジェルメーヌが考えていただなんて、知りませんでした。

 でも、今日、あの箱を持った時に、ぶわっと温かいものが伝わってきて、なんだか懐かしい気持ちになるような匂いもして……

 いったいなにが入っているんだろうと、会を抜けて確かめに来たんです。

 そうしたら、母のペンダントが」


「なるほど。良質な魔石は、長い間に肌につけていると、やがてつけている者と同じ魔力を放つようになる。

 亡くなったお母様の魔力を感じ取ったのね」


「は、はい。きっと、ジェルメーヌが入れたんだろうと思いました。

 でも、今の母がしていることを人に知られたら大変なことになってしまう。

 とっさに、この贈り物ごと『なかったこと』にしなければと思ってしまったんです。

 馬鹿ですよね。ペンダントだけ抜き取って、元に戻して知らん顔をしていれば、お騒がせすることもなかったのに」


 テレーズは自嘲してうなだれた。


第三王女コンスタンツェ:『公爵令嬢カタリナの災難』以来、2年ぶり2回目の登板ですの。前回は存在に言及されるだけだったので、実質初登場なのですわ!

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― 新着の感想 ―
なるほど! そういう風に隠してあったのか!\(◎o◎)/! 犯人まで分かって、すごい!
 二話の台詞まで考えると……がんばって考えましたよね! 自分ができる精一杯を、がんばってると思います。こういう子が、かわいい、と思うのですがっ。  そして、相変わらず、貴族令嬢らしくなく、自分で動いて…
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