1.冬至祭りのモミの木の下
今日は冬の最大のお楽しみ、冬至祭り。
王宮では、社交界デビュー前の貴族の子達が招かれ、王太子アルフォンスと年少の王女達を中心に、ゴージャスおやつを食べたり遊んだりするのが恒例となっている。
というわけで、自慢の金髪をいつもより多めにぐりんぐりんに縦ロールにしたサン・ラザール公爵令嬢カタリナは母に連れられて王宮へとやって来た。
壮麗な吹き抜けの広間には高さ5、6メートルはある巨大なモミの木。
きらっきらのオーナメントで飾り立てられている。
その下に、既にいくつも贈り物の山ができていた。
山の一つのてっぺんに、目立って大きな青い箱が置かれているのにカタリナは眼を留めた。
やたら派手で立体的なリボン飾りがついているので、上に他の贈り物を載せられないのだろうが、なんとも不安定だ。
積み重ねることはわかってるのに、なんでこういう飾りをつけるかなと思いつつ、カタリナは、別の山の一つに王太子と王女達へのプレゼントを置いた。
中身は手作りのオーナメントだ。
以前は特に縛りはなかったのだが、謹直な国王が「子どもの会」にふさわしいものをと釘を刺し、以降、贈り物は子どもが自分で調達したオーナメントということになったのだ。
今回は、刺繍が得意な姉に教えてもらいながら、雪の結晶模様とか躍動感溢れるトナカイをビーズ刺繍で作った。
カタリナは手芸全般が苦手なので、実質姉が作ったようなものだが。
ちなみに、会が終わった後、子どもたちは一つずつ好みのオーナメントを選び、土産として持ち帰ることになっている。
母が「もう12歳なのだからイキり散らかすの禁止」「黙っていればあなたが一番美人なのだから、とにかく大人しくしなさい」などと小声で言いおいて退出したところで、奥の扉から、金髪碧眼のキラキラ王太子アルフォンスが入ってきた。
母の言いつけどおり、しとやかにカーテシーをする。
社交界デビュー前なので、正式なドレスではなく、ドレスっぽい深紅のベルベットのワンピースだが。
「やあ、カタリナ。よく来てくれたね」
カタリナと同い年のアルフォンスは、姉王女2人・妹王女2人に挟まれた唯一の王子で、大陸随一の美姫と謳われた王妃にそっくり。
小さい頃は、男装した女児にしか見えなかったが、12歳ともなるとだんだんと男の子らしくなりつつある。
「殿下のお招きとあらば、なにを置いても即参上!ですわ。
って、ジュスティーヌ! 今年こそわたくしが勝ちますからね!」
美形が大好物のカタリナは、にっこにこで挨拶していたが、アルフォンスの後ろから、筆頭公爵家シャラントンの長女・ジュスティーヌもやって来たのを見て、そちらに人差し指をビシッと突きつけた。
あれほど母にくどくど言われたのに、しとやかだったのはほんの十数秒くらいだったが、これがカタリナの通常運転である。
「それが今年はジェスチャーゲームをするんですって。
ほら、去年はわたくし達の決着がつかなくて、小さな子がぐずったりしたでしょう?」
カタリナ、アルフォンスと同い年のジュスティーヌは、銀髪の美少女。
今日は、シンプルな白絹のワンピースに淡い青のサッシュベルトをして、まるで雪の精のよう。
陽の光のようになにかと圧の強いカタリナに対して、月の光を思わせる物静かな少女だが、なかなかの魔法脳筋だ。
去年の冬至祭では、「防御結界」をぶつけ合うゲームをした。
「防御結界」は、透明の盾を中空に瞬時に出す魔法。
それをぶつけ合って、相手の結界を壊した方が勝ちとするゲームは、魔力のコントロールの練習にちょうどいいので、貴族の子なら幼くても皆できる。
6、7歳の子も参加できるしちょうどよいのではと、アルフォンスの御学友であるノアルスイユが眼鏡をくいいっとさせながら言い出し、その場で雑に作ったくじを引いてトーナメントを組んだら、二回戦でカタリナとジュスティーヌが当たってしまった。
タイプは真逆だが、共に魔力に優れた公爵令嬢同士、両者一歩も引かず、眼にも止まらない速さで「防御結界」をぶつけあいまくり、まぁまぁ大変なことになったのだ。
ちなみに、ジュスティーヌは、「試合が長引きすぎて、飽きた子どもがぐずった」と認識しているが、美少女二人がものすごい形相でガチりあっている姿に怯えて泣いてしまったというのが正解である。
「ええええ……今日に備えて、練習してきたのに」
「わたくしだって。残念だわ」
「まぁまぁまぁまぁ……
きっと、ジェスチャーゲームも楽しいよ」
ぷすーっとむくれるカタリナ、困り顔のジュスティーヌをアルフォンスはあわあわとなだめ、会場へと案内した。
今は雪景色となっている、王宮の見事な庭を見下ろすゴージャスな「紅の間」で、「子どもの会」は開催された。
主催は、王太子アルフォンス・第三王女コンスタンツェ・第四王女ソフィーの三人で、招かれたのは、王女王子と同世代の貴族の子どもたち数十人。
言うまでもなく、ほかほかのプティングや薪をかたどったケーキ、ナッツやドライフルーツをたっぷり入れたシュトーレンなどてんこもりに用意されている。
三人の王族がキラキラしい上、既に顔見知りの者も多いので、ジェスチャーゲームも大いに盛り上がった。
特に、「ロバ」のカードを引いたアルフォンスがロバの真似をするもなかなか伝わらず、回答側もヤケクソになって
「突風にズラを吹き飛ばされて、慌てる腹黒公爵!」
「地味で暗いメガネっ子令嬢に婚約破棄を突きつけたら、実は理想の超絶美人だったことがわかってがっくりしてるダメダメ貴公子!」
「ライバルを蹴落としまくって、イケメン貴公子ゲットぉおおお!と婚約したら、相手がヤベーマザコンだとわかって崩れ落ちるご令嬢!」
など珍回答が続出する中、末の王女ソフィーが「お兄様……もしかして、これはロバなのでしょうか?」とおぼつかなげに言い当てた時は、見守っていた侍従や女官たちも含めてスタンディングオベーションが起こったくらいだ。
飲んで食べて遊んで踊って。
楽しい時間はあっという間に終わり、「また新年にお会いしましょう」などと言い交わしながら、さっきのモミの木を飾った広間までぞろぞろ出てきたところで──
「あら? あの大きなリボンの箱はどうしたのかしら」
ジュスティーヌが、ふと小首を傾げた。
そういえば、カタリナが邪魔くさいと思ったあの箱がない。
第四王女ソフィー:『公爵令嬢カタリナの推理』以来、2年ぶり2回目の登板ですわ! あの時はセリフもなかったので緊張しました。
ちなみに上の2人のお姉様達は、既に社交界デビュー済みなので、夜の舞踏会の準備中です!




