第一話 コバエの小林さん
初めまして。赤井まるです。
今回が初めての投稿ですが、皆さんお手柔らかにお願いします。
「ぷぅ~ん」
耳に響く、嫌な音。この音は、全人類が嫌いだろう。
寝ている俺の耳に、甲高い聞き覚えのある音がする。
音が鳴り、ふと目を覚ますとそこには一匹のコバエが。
眠い目をこすり、「今日も来たんだね、小林さん」などと話しかける。そんな仲である。
俺は小林。家事も仕事もできない、冴えないニートだ。今の俺には、みんなが簡単にこなせている仕事もこなすことはできない。
そして今日、俺の快適な睡眠を邪魔してきたこっちは、同居しているコバエだ。うちではこれを、"小林さん"と呼んでいる。
小林さんがうちに来たのは、青空に入道雲が広がる夏の日のことだった。
「バンバン」と銃声が鳴り響く部屋。椅子に深々と座りパソコンと向かい合い、俺はゲームをしていた。すると突然、視界に黒い点が入りこんだ。黒い点が気になるが、画面から目を離してしまったら負けてしまう...。手に汗を握りしめながら、心の中でそんな葛藤をしていた。
しかし、あまりにも視界に映ってしまうので、ゲームに集中できなかった。パソコン画面には"LOSE"の文字が。
「集中できない!」と思わず声をあげ、机をたたいてしまった。
コバエは、そんなこと気にせず別の部屋へ行ってしまった。俺も、もちろん逃がすまいと後を走って追いかけた。
夢中になって追いかけ、たどり着いた先は自分でも来たくない、ゴミがたくさんある部屋だった。
コバエはそのゴミの上に止まり、とても嬉しそうで安心した仕草をしていた。
その時俺は何かを心の中で感じ、「はぁ。」とため息をついてしまった。
そこで、ゴミを片付けたらコバエがいなくなるんじゃないかと思い、全力でコバエを追い出すためにゴミを片付ける決心をした。
期待を胸に、鼻歌交じりでゴミを片付け始めた俺なのであった。
一晩中片付け続け、朝が来た。
そこには、ゴミがたくさんある、数時間前と同じ部屋が。
「全然終わらないぃぃぃぃぃぃーーーーーー!」
俺の声が、部屋全体に響いた。
そう、こんな真夏に夜通しやったところで、終わるわけがないのだ。
俺は悟った目で、コバエと目を合わせた。
「俺の負けだ。これを片付けるのにはもっとたくさんの時間が必要だ。コバエ、お前の好きに住め。」
そうコバエに言い放った。
それと同時に、「あっ!」っと思わず口に出してしまった。一緒に住むなら、コバエに名前が必要だと思ったのである。俺は必死に考えた。頭の中を、色々な名前がよぎった。あの時の脳の回転スピードなら、アインシュタインやアルキメデスにも負けていなかったと思う。
30秒ほど考え、俺が放った名前は、
"小林"だった。その理由は、俺が小林って苗字だからだ。小林家の一員になるなら、この名前でいいかと思いつけた、実に単純な名前なのだ。そしてここからこのコバエの名前は"小林"になった。
俺はコバエをこの家に歓迎した。「これからよろしくね、小林さん!」そういい、小林さんに挨拶をした。
その瞬間、「ドンドン」と玄関のドアを叩く音がした。
俺は驚きながらも玄関へ向かい、ドアノブをひねった。
すると、「I'm home my brother!!」などという、日本では聞きなれない英語が耳に。
目にはサラサラとした見覚えのある、手入れが行き届いている髪の毛が。
そこにいたのは海外で研究をしているはずの妹、音羽の姿が見えた。
俺が「どうしているんだ?」と質問をした。どうやら、海外での研究がひと段落したらしい。
久しぶりに会えた喜びから、俺と音羽が玄関で話し始めてしまったその時、小林さんは庭へ向かっていた。
花や芝の背がまだ短い庭で、小林さんは一本の花を見つめていた.....。
俺たちの出会いはそんな感じだった。
今いる庭は花がたくさん咲き、芝が生い茂っていることから時間がたっていることがわかる。
小林さんはたくさん咲いた花を愛おしそうに見つめていた。
過去のことを思い出し、感極まった俺が「小林さん、これからもよろしくね!」と改めて挨拶をする。
すると、小林さんはくるっと振り向き、俺を見つめてきた。俺の言葉がわかっているみたいだ。
そして小林さんは、俺に微笑んだ。
そんな気がした。




