鳥居。
くぐる、そ
凪いでいる。
確かにぬかるんだその空気へと分け入っていく。
人肌の、重苦しいそれを漕いで、前へ、前へと進んでいく。
衣擦れのごとく、なまめかしい、木々や叢のざわめき。
蒸し蒸しとした、質量をもった。
この、まるで生き物の体内にいるような。
砂利を擦る音。
乾いた土を踏み砕く感触。
石灯籠に明かりが灯っている。
もうずっと歩いている気さえする。
前へ。
前へと。
強迫観念めいて、背後を振り返ることはできない。
そんなことは、断じて許されてなどいない。
振り向いたら、そこでおわってしまう。
確実に、確実に。
それに、足音が聞こえるのだ。
とことこと。
二重に。
ついてきている。
追ってきているのだ。
さっきより、近づいてきている。
それ、は。
それは、こちらが振り向くのを待っているのだ。
息を殺して、手ぐすねを引いて。
心臓の鼓動が、聞こえる。
進まなくては、ならない。
鳥居が、みえる。
あれを、くぐらなくては。
今にも走り出しそうになるのを、こらえる。
いや。
すでにそんな体力は、残ってはいないように思える。
動かしているはずの足の感覚さえ、おぼろげだ。
ただ、ただ前へと。
今はただ、あの鳥居を、くぐる。
ただ、それだけを考えて。
あぁ、もう少しで。
そこにいたのか
こに、いる