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【書籍化】すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く  作者: 狭山ひびき
第一部 街角パン屋の訳あり娘

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未来が見える男 2

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 ウォレスたちとともに、彼の部屋に戻ると、サーラはさっそく、昨日採取した湖の水を調べることにした。

 まずはそれぞれの水の入った瓶のふたを開けてローテーブルの上に並べ、マッチの火を近づけてみる。


「燃えないな」

「そうですね。やっぱりただの水みたいです」


 ソファに座っていたサーラの隣に当たり前のように座って、ウォレスがローテーブルの上の瓶を覗き込む。


「次はどうする?」

「こっちの、沼底から上がって来た気体に火がつくかどうか調べたいんですけど……」

「けど?」

「ふたを開けると、すぐに空気に溶けてしまうかもしれないので……いえ、もともとこれがタダの空気である可能性も高いですけど」

「つまり、蓋を開けた瞬間に火を近づける必要があるんだな? だったら私が蓋を――」

「殿下はダメですよ。俺がします」


 ウォレスのどこかわくわくしていた顔が、マルセルの一言で仏頂面に変わった。


「サーラもだめだ。火は俺がつける」


 シャルまで口を出してきたので、サーラは仕方なくシャルとマルセルの二人に任せることにした。

 反対側のソファに座ったマルセルとシャルが、沼から採取した気体の入った瓶を片手に合図を送りあう。

 シャルがしゅっとマッチに火をつけて、マルセルが瓶の蓋を開けた――その途端。


「わ!」

「うわっ」


 マルセルとシャルが驚いたように飛び上がった。

 瓶の口にマッチを近づけた直後、ボッと青い炎が上がったのだ。

 炎が上がったのは一瞬のことで、すぐに消えたが、驚きはなかなか消えない。

 見守っていたサーラもびっくりしたせいで心臓が早くなって、思わず胸の上を両手で抑えて大きく息を吐き出した。


「…………燃えたな」


 サーラの隣では、大きく息を吸い込んで吐き出したウォレスが、茫然とした声で言う。


「燃えました、ね」

「つまり原因はあの気体か?」

「そう、だと思います」

「あの気体はなんだ?」

「わかりませんが……多分ですけど、ガスの一種ではないですか?」

「ガス? ガスというと、ガス灯に使われているあのガスか?」

「はい。ガスには種類がいくつもあると聞いたことがあります。火がつく気体なんて、ガスくらいしか思い浮かびません」

「つまりあの沼の下から何らかのガスが出ていて、偶然それに着火した、と?」

「故意である可能性もあると思います」


 サーラはそっと息を吐き出した。

 少しずつだが、今回の件がわかってきた気がする。


「ティル伯爵は、沼池が燃えるという予言を受けたとおっしゃっていましたが、もしその予言者が沼底から少量のガスが湧いていることを知っていたのならば、伯爵が視察に訪れたときにそれに火を灯すことも可能ではないでしょうか。例えば、伯爵が視察に訪れていた際、沼池には船が浮かんでいたといいましたよね。例えば船の上から、気体が湧いているところめがけてマッチか何かの火を投げ入れ、それによって火が上がったとも考えられませんか?」

「つまり犯人は、その予言者か?」

「村人である可能性もあると思います」


 ティル伯爵が見た予言者が誰かはわからないが、今回の行動を起こしたのは一人ではない気がする。予言者と村長がグルである可能性は否めない。


「昨日からずっと村長さんの様子が気になっていたんですよね。……もしかしたらあの沼には、彼ら……少なくとも村長さんが隠したい何かがあるんじゃないでしょうか」

「何かとは?」

「それはわかりませんが……」


 サーラは顎に手を当てる。


(もう少し材料がほしい……)


 あの沼が村長にとってとても大切な場所であるのはわかったが、村長は沼の何を守ろうとしているのか。


 サーラは顔を上げて、小さく笑った。


「ちょっと、実験しませんか?」






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