表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く  作者: 狭山ひびき
第一部 街角パン屋の訳あり娘

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/173

男の正体 2

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 いつも朝の早いうちに売り切れてしまうブリオッシュを一つこっそりと取り置いて、サーラはぼんやりと時計の針を見やった。

 十時まであと五分。

 ウォレスがいつも十時過ぎにやってくることを考えると、あと十分、十五分後くらいだろうか。


 今日は、カリヤの部屋にあったものについて話をすることになっている。

 娼館には、ヴァルヴァラと話をした翌日、リジーと、それからマルセルが確認に行った。

 マルセル一人で行かせるとたくさんの娼婦が群がるだろうからと、リジーがくっついて行ってくれたのだ。

 わざわざサーラにその情報を提供しなくてもいいような気もするのだが、どうもウォレスは、お互いの秘密を打ち明けあってからというもの、サーラを自分の協力者か何かと勘違いしている節があった。

 何かと妙な事件が起こると、サーラを巻き込みたがるのだ。


(……ん? いや、それは前からね)


 けれども、これまではサーラに与える情報はある程度の線引きがされていたはずなのである。

 少なくとも、贋金なんていう国家の威信を揺るがしかねないものについては、出す情報と伏せる情報は分けていたように思えた。

 だからウォレスが贋金製造の犯人の足取りを引き続き追わせていても、それについての情報はサーラにはもう回らなくなっていたのだ。ここから先は踏み込ませない、そういう意思が感じられた。


 それなのに、その線引きが、今回のレジスの一件で消えたような気がする。

 これまでのウォレスならば、レジスが例の倉庫を借りていた人間だということは明かさなかっただろう。

 パレードの乱入者の正体を追うのと、贋金製造の犯人を追うのではわけが違ってくるからだ。


 けれども、サーラはあえてその点については指摘しない。

 レジスの件について、サーラはサーラで、気になることができたからだ。

 そしてサーラの「気になること」は、ウォレスも恐らく気づいていることだろう。

 あの場で口に出さなかったのは、うかつに口に出せるような内容ではなかったからだ。


(レジスさんがあのパレードの関係者に何らかの恨みを持っていると仮定した場合、その対象には第一王子とその妃レナエルも含まれる)


 王子とその妃が狙われたなんてことは、無暗に口にしていいことではない。

 だが、ウォレスならその可能性に気づかないはずがない。

 そして、レジスの恨みが贋金製造に関わることであるならば、セザールやレナエルが関わっている可能性は排除できない。


(……贋金)


 きゅっと、サーラは唇をかむ。

 もし――、もしも、だ。

 春に起こった贋金の件に、レナエルが――、ディエリア国のシャミナード公爵家が関与していたらどうなるだろう。

 もちろん、レナエルはその頃はまだヴォワトール国に来ていなかった。関与している可能性は、今時点では極めて低い。


 しかし、もし関係があったら?


(お父様とお母様の冤罪が、証明できるかもしれない……)


 冤罪だと証明したところで、処刑された両親が生き返ることはない。

 公爵令嬢からただの平民に転がり落ちらサーラではできることは限られるし、貴族を敵に回すことがどういうことかもわかっている。

 だから下手には動けない。

 サーラが動くことで、サーラを娘として受け入れてくれたアドルフとグレース、それから兄のシャルにも迷惑がかかるだろう。最悪サーラの巻き添えを食って、命まで脅かされるかもしれない。

 サーラ一人ならば迷わなかったけれど――家族は巻き込めない。


(でも、ウォレス様が贋金事件を追うことで、シャミナード公爵に行きつくことができたら?)


 そこから、サーラの両親――プランタット公爵夫妻が冤罪で、シャミナード公爵に嵌められたのだと、証明できるかもしれない。

 失われた命は蘇らないが、少なくとも両親の汚名は晴らせるだろう。

 今更過去をほじくり返すことに、果たして意味があるのかどうかは、サーラにはよくわからない。

 それをしたところで、満たされるのはサーラの心だけで、誰も得をしないかもしれない。


 でも、ちらりと脳裏をかすめてしまったサーラはもう、気づかなかったことにしてそれを胸の奥深くに封印することなんてできそうもなかった。


 チリン、とベルが鳴る。

 顔を上げると、綺麗に微笑むウォレスがいた。

 サーラは、油断しているとどろりと腹の底から沸き起こりそうになる復讐心を抑え込み、ウォレスに微笑み返す。


 ――どうしてか、サーラはこのどろどろとした感情をウォレスに知られたくなかった。




お読みいただきありがとうございます!

ブックマークや下の☆☆☆☆☆の評価にて応援していただけますと励みになります!

どうぞ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ