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【書籍化】すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く  作者: 狭山ひびき
第一部 街角パン屋の訳あり娘

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地下の男 4

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「どうした⁉」


 ルイスの悲鳴を聞きつけてシャルとリジーが駆けつけてくるまで、数分もかからなかった。


 しかしそのころにはルイスはその場に腰を抜かしてへたり込み、ルイスが取り落としたせいでランタンの炎が消えて、地下室は暗闇に包まれていた。

 右も左もわからない、ひやりとした暗闇と、灯りが落ちる直前に見た光景とで、サーラの指先は氷のように冷たくなっていた。


 ウォレスがぎゅっとサーラを抱きしめて、ぽんぽんと背中を叩いてくれたが、ドクドクと逆流しそうなほど早く打っている鼓動のせいで、何が何だかわからない。

 ランタンを持ったリジーが駆けつけてきたことで地下室に光が戻ったが、それがありがたいとはサーラには思えなかった。

 シャルが何かを察して、リジーからランタンを奪う。


「離れていろ」


 リジーにそう言って、シャルがランタンを手に近づいてきた。


「サーラ、どうした⁉」


 青白い顔をしているサーラに眉を寄せ、それからシャルは息を呑んだ。

 ルイスがへたり込んでいるさらに奥。

 木枠の棚と棚とに囲まれた狭い通路の奥に、一人の男が倒れている。

 わずかな腐敗臭から、死んでいるのは間違いないだろう。


「うっ……」


 ルイスが嘔吐きそうになって、左手で口元を抑えた。


「何があったの⁉」


 離れたところに立たされたリジーが大声で訊ねてくる。


「……死体だ」


 シャルが短く告げると、リジーがひゅっと息を呑んだ。

 シャルはルイスが落としたランタンを拾い上げて蓋を開けると、消えていた蝋燭に火を灯す。


「いったんダイニングまで戻ろう。そのあとで俺は市民警察まで行ってくる。……さすがに死体をこのままにはしていられないだろう」

「そうだな」


 サーラの髪を撫でながら、シャルが言う。

 時間が経ったからか、少しだけ気分が落ち着いてきたサーラは、ゆっくりと顔を上げた。

 ランタンのオレンジ色の光に照らされた死体の影が、まるで生き物のようにうごめいて見える。

 そしてその手元が、きらりきらりと光っていた。


「……ウォレス様、あれ……」

「うん?」

「手元に何かあります」


 ウォレスがサーラから離れ、シャルからルイスが持っていた方のランタンを受け取ると、鼻を抑えながらゆっくりと死体に近づいていく。


「……銀貨だな。だが、なぜ……」

「触らないでください」


 手を伸ばしかけたウォレスを、シャルが止める。

 市民警察が来るまで遺体には触れない方がいいのだろう。

 ウォレスは「そうだな」と頷き、サーラのそばまで戻ってくると、その手をきゅっと握った。


「戻ろう。ここにいてもいいことはない」

「ルイス、立てるか?」


 シャルが声をかけると、ルイスが青ざめた顔で頷いた。

 よろよろと起き上がったのを見て、サーラ達は地下室を出る。

 ダイニングに戻ると、シャルはランタンを一つ持って、夜勤の同僚たちを呼びに行った。

 サーラ達はダイニングの隅に固まって、何とも言えない重い息を吐く。


(……違和感の正体がわかったわ)


 もっと早くに気づいていたら、ある程度予測が立ったかもしれない。

 ダイニングから地下室へと続く足跡は、二つ。けれども、地下へ向かう分が二つあるのに対して、戻ってきたとみられる足跡は一つしかなかったのだ。

つまり、この足跡が二人の人物のものであるなら、一人は行ったまま戻っていないと言うことである。

 足跡があったという事実だけに囚われてしまって、気がつかなかった。


「大丈夫か?」


 ウォレスが気遣うようにサーラの背を撫でる。

 サーラは大きく息を吐き出して、頷いた。


「すみません。……死体、見るの苦手なんです」

「得意な人間などいないさ」

「そう、ですね……」


 サーラは笑おうとして失敗した。


 死体は、嫌だ。

 嫌なことを思い出す。


 昔は、誰かが死んだとか、そんな話を聞くことすら無理だった。

 今は大丈夫になったと思っていたが――やはり、死体を直接見るのは無理だったみたいだ。


(大丈夫、大丈夫……。あれは、違うわ……)


 ウォレスが、地下でそうしたように、サーラをそっと抱き寄せる。

 サーラは黙って、目を閉じた。






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