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【書籍化】すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く  作者: 狭山ひびき
第二部 すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

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第一王子セザール 3

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 シャルが近衛隊の訓練に参加して不在の二日後の午後のことだった。

 ウォレスは午後から下町に行くと言って、マルセルとともに出かけて行った。

 リジーから下町の情報収集をするらしい。


 サーラはついていくことはできないので、ウォレスの部屋でジャンヌとともに編み物をしながら休憩である。

 サーラはウォレスに頼まれていたひざ掛けを、ジャンヌは息子の靴下を編むらしい。「グレースさんがいろいろ編んでくださるんだけど、母親ですもの、少しくらいはね」と苦笑していた。サーラの元乳母は持ち前の母性本能を発揮して、ジャンヌの息子の世話に精を出しているようだ。

 ジャンヌの夫は相変わらず領地と王都を行ったり来たりして忙しいという。


(ジャンヌさんと旦那さんは、仕事人間同士の結婚って感じよね)


 会えなくとも、気にした素振りはない。まあ、派閥内での政略結婚なのだろうし、割り切った関係なのかもしれない。ジャンヌを見ているとそんな感じがする。


「マリアは編み物が得意なのね。ああでも、刺繍もかしら? 殿下が持ち歩いているハンカチは、マリアが刺したものでしょう?」

「ええ、まあ」


 サーラは苦笑した。去年の誕生日に渡したハンカチを、ウォレスはずっと持ち歩いているのだ。洗濯をすると言って取り上げるのが大変だとジャンヌが言っていた。


「嫌じゃなければ、洗い替えで何枚か刺繍してくれると嬉しいのだけど」

「これが終わったら、作ります……」


 サーラの紺色のリボンも持ち歩いているし、この前編んだマフラーも外出の際は首に巻いている。ウォレスには困ったものだ。

 ひざ掛けは、肌触りがいいように細い毛糸で編んでいるので時間がかかるだろうが、何かを上げるとそれを持ち歩こうとするウォレスだ、いくつか替えを作っておいた方がいいのは間違いない。


 サーラもジャンヌもしゃべる方ではないので、自然と室内には沈黙が落ちる。

 ぬるくなった紅茶で喉を潤しつつ、せっせと編み棒を動かしていると、コンコンと扉が叩かれた。

 ジャンヌが編み棒を置いて立ち上がる。

 ウォレスの不在時に誰だろうかとサーラも編み棒を置いて振り返り、そして目を丸くした。


(なんで⁉)


 ジャンヌが開いた扉の外にいたのは、第一王子セザールだった。

 綺麗な笑顔を浮かべてひらひらと手を振っているが、相変わらず紫の瞳は笑っていないように見える。


「殿下、あいにくとオクタヴィアン殿下は外出中でございまして……」

「知っているよ。今日はマリアに用があってね」

「マリアに、ですか?」


 わずかに、ジャンヌの顔がこわばる。

 セザールが過去に何人ものウォレスの侍女を辞職に追いやったのを知っているからだろう。

 けれども、相手は第一王子。一介の侍女が断れるはずもない。

 サーラは編み棒を置いて立ち上がった。

 セザールに向けて一礼しつつ訊ねる。


「どのようなご用件でしょうか」

「うん。ちょっと散歩しない?」

「散歩、ですか?」

「そう。庭を」


 第一王子と、第二王子の侍女が堂々と連れ立って歩いていいものだろうか。

 サーラはちらりとジャンヌに視線を向けた。

 ジャンヌもサーラと同じことを思ったようだ。


「殿下、さすがに侍女と殿下がお散歩というのは……」

「少し話をするだけだし、僕の護衛も一緒だけど?」


 声はおだやかだが、有無を言わせない響きがある。

 ジャンヌとて、セザールの意思を退けるのは不可能だろう。


「わかりました。コートを取ってまいります」


 サーラが応じると、セザールが笑みを濃くしたが、やはり瞳は笑っていなかった。





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