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09.告白

 居心地の悪い日々を過ごしている。幸希のことも直視できないが、それ以上に勇馬に合わせる顔がない。僕は幸希に無理矢理触られたりキスをされたんじゃない。僕が幸希を抱きしめたくてそうしたんだし、幸希とキスしたくてそうしたのだ。しかも最低なことに、飽きたらず、僕はまだ幸希と同様の行為をしたいと思ってしまっている。僕は幸希にあらぬ感情を抱いているかもしれない。それはこの完璧な世界を、幸希と勇馬の関係を、破壊しかねない想いだ。許されないことだ。


 幸希は学校でも、隙を見計らって僕に触れたりキスをしてくる。僕は拒まないどころか、幸希に触れられることが嬉しくて、幸希の触れた箇所の温もりをいつまでも体にとどめようと意識を集中させてしまう始末だ。幸希を思うと胸中を爽やかな風が吹き抜けるが、しかしその風がやむと今度は微細な痺れが去来し、やがて針の筵を押し当てられているかのような鋭い痛みへと変わる。


 僕はどうすればいいんだろう? どうにもできない。完璧な世界を守るためには、以前の関係に戻るしかない。幸希に行為をやめてもらい、僕も幸希への感情を整理して……いや、できるんだろうか? 幸希に僕への過度な接触を禁ずることはできなくはないだろう。でも、僕のこの想いは今更どうにかできるものなんだろうか? 以前のように、何事もなかった状態に落ち着けるか? 無理かもしれない。


 そんな折、放課後、帰る支度をしている僕のところへ知らない女子がやって来る。黒髪の綺麗な、凛とした雰囲気の子だった。僕は恥ずかしいのでずっと下を向いていたが、けっきょく「堺井豊くん?」と声をかけられ、顔を上げさせられる。


「は、はい……」


「一年六組の黒江緋理(くろえあかり)です」


「さ、堺井豊です……」


「ちょっといいかしら」


 なんとなく圧の強そうな喋り方をする子だ……と僕は思う。「はい」


 僕の返事を聞き、黒江さんは「こっちに来て」と冷淡に告げ、僕を連れ出す。


 連れていかれてしまう、と僕は思い幸希を見遣るけど、幸希に知らせるまでもなく幸希はこちらを見ていて、よくわからない展開に呆然としている。


 何が起こるんだろう? どこに連れていかれるんだろう?とビクビクしていると、思ったほど遠くへは行かず、黒江さんは一年生のフロアの奥まったところで立ち止まる。そこには他の生徒はいない。僕と黒江さんの二人のみだ。


「単刀直入に言うわね」と黒江さんが切り出す。「堺井豊くん、よければあたしと付き合ってほしいんだけど」


「え!?」

 なに?それ。なんで別のクラスの女子が僕なんかに告白してくるんだろう? そんなおかしなことある?と怪訝に思うが、まあ幸希も知らない男子にいきなり告白されている。いや、でも僕と幸希じゃ話が違う。幸希は可愛らしいから異性にも好かれるだろうけど、僕を好きになる女子なんていない。何か怪しい。


 僕が固まっていると、黒江さんは不思議そうに「堺井くん?」と呼んでくる。


「あ、ご、ごめんなさい」僕は意識を取り戻し、とりあえず尋ねる。「なんで僕なんかと付き合いたいんですか?」


 黒江さんは少し驚いたようで、クールな顔立ちをちょっと崩す。「意外。自己肯定感の低い子ね。……まあ、あの二人といっしょにいると、そういうふうになってしまうものなのかしら」


「あの二人? 幸希と勇馬のこと?」僕は過敏に反応する。「あの二人と知り合いなの?」


「あ、いいえ。違うわ。妙な受け取り方はしないでちょうだい」黒江さんは肩をすくめる。「あなた達三人のことは前々からよく見かけていたもの。でないと、あたしはあなたに告白なんてできないでしょ?」


「…………」まあそうだ。僕に声をかけてくるということは、どこかで僕を見かけているはずで、その場合、僕の近くには高い確率で幸希や勇馬がいただろう。僕を知っているなら、二人を知っていてもなんら不自然じゃない。「……で、えっと……」


 黒江さんは繰り返す。「付き合ってほしい、と言ったんだけど」


「…………」なんか、堂々としている。僕に間違いなく『はい』と言わせる自信があるのか、それとも僕に断られても本当のところは全然構わないのか、もしくは単にそういう性格なのか……。「どうして僕なんかを?」と僕も繰り返し尋ねる。


 黒江さんは少し僕を眺めてから「可愛いから」と答える。


「…………」褒められてもまったく嬉しくないというか、やはり僕は知らない女子の前で緊張してしまっていて、上手く思考を巡らせられない。黒江緋理さん。どう見ても美人だし、ちょっと恐そうな雰囲気はあるけど、普通の男子だったら諸手を挙げて付き合いそうだ。しかし僕は根暗なのですぐには決められないし、一人で決断するのも無理だ。「……一日だけ待ってもらってもいいですか?」


「いいわよ」と黒江さんはすぐに了承してくれる。判断が早い。「明日のこの時間、この場所で返事……ってことでいいかしら」


「それでいいです」と僕は頷く。「すみません」


「全然構わないわ」黒江さんも頷き、僕を横切る。「それじゃあ、今日はこれで。気をつけて帰ってね」


「あ、はい」

 僕は黒江さんが去っていくのを見送ってから、二人……幸希や勇馬のもとへ向かう。二人は待ってくれているだろうか?

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