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24.終わりにしたい

 幸希は昼休みにやって来た。僕は幸希の痛々しい姿を目にするだけで涙が出そうになり、顔を背ける。


「豊」幸希は僕が寝ているベッドスペースに入ってきて、カーテンを引く。「豊。大丈夫?」


「幸希こそ……痛くないの?」


「あの……これ、暴力振るわれたんじゃないから」と幸希は苦笑する。「キスマーク付けられただけ」


「キスマーク?」って何。擦り傷とか痣とかじゃないの?


「腕貸して」


 言われて腕を差し出すと、カプッと唇で噛まれ、痛いくらいに吸引される。「わわわ……なに?」


「これ」と言われて腕を見ると、僕の腕に小さな赤い内出血が出来ている。「痛いことされたわけじゃないから、心配しないで」


「でも……」

 これはこれで……つまり、幸希の絆創膏が貼られている箇所はすべて勇馬が吸ったってことなんでしょ? それも複雑だった。勇馬は長い時間をかけて、幸希の体中に唇を這わせたのだ。想像すると息が詰まる。でも、恋人同士だから当たり前の行為なのだ。


「口にはされてない」幸希が僕と顔の高さを合わせ、チュッと口付けしてくる。「豊が触ってないところは触らせなかった。ホントだよ?」


「だけどそんなの時間の問題だよね……」


「…………」


「幸希と勇馬は付き合ってて、彼女と彼氏なんだから」


「…………」


「僕、もう疲れちゃった」何も考えたくない。「幸希と勇馬が、僕の見えないところへ行ってくれたらいいのに」


「そんな……」


「どうせ一人なら、本当に一人ぼっちの方がいい。こうして幸希と話すたびに僕は幸希のことを好きになってくけど、最終的には全部失うんだもん。幸希も、この気持ちも」だったら最初から何もない方がいい。そうだ。それが完璧な世界なんじゃないか。我慢をしなくていい、我慢をさせなくていい、完璧な世界。「ずっと一人ぼっちだったらよかった」


「やだよ!」と幸希が悲鳴を上げる。「そんなこと言わないで! 私は豊が大切で……どんな形でもいいから豊とずっといっしょにいたい」


「僕はもう無理かも」無理だ。「幸希には僕の気持ちなんてわからないだろうけど、僕はもう、幸希と勇馬と三人でいっしょにいる方が寂しいし、辛いよ」


「やだ……」また幸希が泣いてしまう。


「泣かないで」と僕は言う。


「昨日はあんなに、私のこと思ってくれてたじゃん……」


「それも幸希に否定されたんでしょ?」他ならぬ幸希に。「昨日の僕の告白もなんだったんだろうね。一人で舞い上がって、バカみたいだ。あれほど恥ずかしいこともないよ。……幸希と勇馬、そしておまけで僕。この関係性が完全なんでしょ? 完全じゃないけどね。僕なんていらないじゃん」


「違うって! そんな言い方してない! 私は豊が大切で……豊に笑っててほしくて……だから……」


「…………」全然笑えないよ。「幸希、もうあっち行っていいよ。出てってよ。僕は放課後、勇馬とも決別する。それでもう全部おしまいにする」


「ダメ!」


「ダメじゃない」決めたんだ。


「ダメなの!」


「…………」

 僕はもう口も利かない。横になり、幸希に背を向け、頭まで布団を被ってすべてを遮断する。


 数分間、音が消える。幸希はもう行ってしまったかな?と思う。それでいい。それだと嬉しい。初めからいなかったみたいに、音もなく立ち去っていてくれたら、なんとなく僕は嬉しい。ホッとする。救われる。


 別にわざわざ勇馬に会いに行くこともないんじゃないか、と僕は気付く。放課後になったらそのまま黙って帰ろう。それこそが僕から勇馬への、最後のメッセージだ。


「全部話すよ」幸希の声が、空間に響く。幸希はまだ消えていなくて、僕の傍らで何かを喋る。「ごめんね。豊がそこまで私のこと思ってくれるだなんて、私、想像できなかったんだ。もしかしたら私は間違えてて、ずっと豊を苦しめてたのかもしれない」


 苦しむのは私だけでよかったのに、と幸希はつぶやく。


 そして僕はすべてを知る。

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