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21.夢

 あまり鮮明には覚えていないけれど、僕の保育園デビューは『のの組さん』からだった。『のの組さん』は、ようやくまあまあ言葉を話せるようになってきたかな?といった年齢の子供が所属するクラスだ。


 だけど、僕が入園した頃、まったくちっとも喋らない子供が『のの組さん』に一人いて、その子は体格も異様に小ぢんまりとしていたから、他の子にとっては不気味だったんだろう、いつも一人ぼっちでぼんやりと放置されていた。僕はその子が可哀想で……いや、可哀想というか不思議で、全然喋らないし小柄だけれど、どうしてみんな仲間に入れてあげないの?と思った。だからその子と遊んだ。そうしたら僕もみんなから遊んでもらえなくなった。でもまあよかった。僕にはその小さい子がいたから。とはいっても、その子はなんにも話さないし、僕が遊びに誘ってもほとんど反応を示さないし、実質僕は一人ぼっちみたいなものだった。だけど僕の遊び相手はもうその子に限定されてしまっていたので、根気強く話しかけて遊んだ。根気強くというか、その頃の僕にとってはその子に構うことこそが園内での活動のすべてだったので、ただただ熱心に、楽しみながら、そうやって過ごしていたのだ。


 いつしかその子は「ゆた、ゆたか」などと僕の名前を口にするようになり、「あい」と給食を僕に分けてくれたりもした。そのおかずが嫌いで僕に押しつけただけだったのかもしれないが、僕は大いに感動して、引き続きその子と遊んだ。その頃には他の子達も僕らを仲間外れにしたりなどしていなかったけれど、小柄なその子だけは僕にしか懐いていなかったようで、やっぱり誰とも遊ぼうとしなかった。僕はそれが嬉しくて、園児ながらにお兄ちゃんになれたような気がして、さらにもっとその子を可愛がった。


 小柄の子……とは呼べないくらいに、他の子供達とサイズ感が揃ってきたときに、その子は僕に言った。手紙を読むように淀みなく言ってくれた。


「いつもあそんでくれて、いつもなかよくしてくれて、ありがとう。ゆたかのことが、だいすき。おおきくなったら、ゆたかと、おつきあいしたい。ゆたかの、かのじょに、なりたい。もっとおおきくなったら、ゆたかと、けっこんしたい。ゆきを、およめさんにしてくれますか?」


 そこは『のの組さん』の部屋で、そのときそこには、僕と幸希しかいなかった。

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