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02.週明け、勇馬

 幸希は本当に何がしたかったんだろう?とグルグル考え込んでいたら休日が終わってしまう。やっぱり勇馬となかなかイチャイチャできなくて寂しかったんじゃないんだろうか? それくらいしか僕には思いつかないんだけど……でも勇馬はそんなに硬い男子ではないし、ノリもいいし、幸希が甘えておねだりすればイチャイチャぐらいしてくれそうなものだが。友達としての仲が良すぎるから、あんまり恋人的なムードになりにくいのかな? それだったらわからなくもないけれど。だけど、と僕は思う。僕は長い年月を幸希といっしょに過ごしてきたけど、あんなふうに抱きつかれて口付けされたのなんて初めてだ。どういう風の吹き回し?


 週明けの朝、登校していると、さっそく勇馬と顔を合わせることになってしまう。のろのろ歩いている僕の背中を、後方から追い上げてきた勇馬がポンと叩く。「よ、豊。眠そうだな。おはよ」


 僕はドキッとするが、勇馬も僕と同じく徒歩通学なので、こういうシチュエーションはしょっちゅうあり、心構えは一応できていた。「……おはよ」


「元気ないな」とすぐ言われる。「ま、豊は朝弱いもんな。元気がないのはいつものことか」


「そうだね」


「お泊まり会、悪かったな」


「ああ……ううん。全然」

 幸希と二人で決行したお泊まり会についてはなかったことにする。幸希も勇馬には話していないはずだし、僕からは絶対に話せない。


 勇馬は「必ず埋め合わせするから」と笑っていて申し訳ない。「中止じゃなくて延期だからな? また折を見て開催するぞ」


「楽しみにしてるよ」と僕は頷く。楽しみ。その気持ちは本当だ。やはり勇馬がいなければ十全じゃない。そうだ。勇馬さえいてくれれば、僕が幸希にちょっかいをかけられることもないのだ。そういう意味でも僕は三人での会を希望する。


 僕は低血圧なのかなんなのか、あまり朝が得意じゃない。勇馬は僕に合わせてゆっくり歩いてくれているが、他の芳日高校生に追い抜かれていく。


 勇馬がそれらの生徒達の背中を眺めつつ僕に訊く。「豊、高校生活はどうだ? 楽しくなりそうか?」


「え? うん、もちろん」と僕は反射的に断言する。「きっと楽しくなるよ」


「そっか。ならよかった。新しい友達は出来たか?」


「それは……まだだね」僕は幸希とおんなじクラスだけど、勇馬とは別なのだ。だから勇馬は学校内での僕の動向をあまり把握できていない。「僕には勇馬と幸希がいてくれるから、ここで新たに友達を作ろうっていう気はあんまりないよ?」


「けど、友達は多いに越したことはねえからな。友達を作れそうなタイミングがあったら、バンバン作っとけよ?」


「うん。わかったよ」


「芳日高校にはヤンキーもいないだろうし、四六時中俺にくっついていなくてもいいんだぜ?」


 僕はびっくりして勇馬の顔を覗き込む。「……僕はヤンキーが恐くて勇馬の傍にいるんじゃないよ?」


「そうか? いや、俺とばっかりいっしょにいると、新しい友達を作るチャンスが減るんじゃないかと思ってな。俺のことは気にせず、いろんな人間と仲良くすればいいんだからな? 何かあったら俺が助太刀に入ってやるからさ」


「ありがとう」と僕はとりあえずお礼を言う。「でも、僕は勇馬が好きでいっしょにいるんだ。そんな勇馬といっしょにいられるんだから、友達を作るチャンスを惜しんだりなんてしないよ」


「そか」勇馬は肩をすくめる。「だったらスマン。余計なことを言ったな。お前が離れていくかもしれないのが恐くて、心にもないことを言った」


「なに? 僕を試したの?」


「そんなんじゃねえよ」勇馬は照れ臭そうに笑う。「ちょっと探りを入れただけだ」


「僕は高校の三年間も、勇馬といっしょに過ごしたいよ」


「……ありがとな。俺も同じ気持ちだよ」


 そんな言葉を勇馬から聞けて、僕は胸を撫で下ろす。「うん」


「本当に……最高の形で三年間を駆け抜けたいよな」


「最高の形……」完璧な世界。「うん。そうだね」


「どうなることやら」


 珍しくぶつぶつとつぶやいている勇馬に、僕は思いきって尋ねてみる。「ねえ、勇馬は僕と幸希、どっちが好きなの?」


「ぶっ」と吹き出される。「なんだよ?その質問。乙女かよ」


「いや……」

 勇馬と幸希の関係性について、それこそ探りを入れてみたい。


「そんなの選べねえよ」勇馬は空を仰ぎ、少し考えるようにする。「お前は親友だし、幸希は恋人だろ? 『好き』のベクトルが違う。比べたり、どちらかを選んだりするもんじゃないだろ」


「ふうん。幸希は『恋人』なんだね?」


「あん? 恋人だろ。……ん? お前、俺と幸希が付き合ってるの知らなかったっけ?」


「や、さすがに知ってるよ」

 そんな段階からの話になるの? 付き合い始めた頃から普通に知ってるよ。でも、ともかく、勇馬は幸希をちゃんと恋人として見なしている。僕と幸希をはっきり区別して扱っている。だったら勇馬と幸希の関係性に、やっぱり歪みなんてないんじゃないだろうか? いま話している最中においても、勇馬の様子に不審な感じは見られない。


「ま、そういうことだ」と勇馬は締めようとする。「どっちも大切。ケースバイケースではあるけどな? あんまりそういう質問はしないでくれよ。答えにくくて困っちまう」


「そうだね」はにかむ勇馬を見て、僕も笑う。「ごめん。気にしないで。なんとなく訊いてみただけだから」


「はは。お前も俺のこと、乙女的な感じで好きなのかと焦ったじゃねえか」


「あ、そういう解釈? 違うから」

 仮に僕が女子だったら間違いなく勇馬のことが好きだっただろうけれど、僕は一応男子だし、幸希と付き合っている勇馬をそんなふうに困らせるつもりはない。


 ようやく眠気が抜けてくる。僕は歩くスピードを少しだけ上げてみる。やはり勇馬は黙って合わせてくれる。

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