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贖罪の百鬼夜行(しょくざいのひゃっきやこう) その3

 いよいよ、その辰日(たつのひ)がやってきて、真夜中になる前に朱雀(すざく)大路(おおじ)陣取(じんど)った私たちは、羅城門(らじょうもん)の方向や内裏の方向をキョロキョロと絶えず眺めながら百鬼夜行を待っていた。

百鬼夜行を見るため?鬼に会うため?かどちらかの、身なりの粗末な人々がどこからか集まってきて、私たちのように朱雀(すざく)大路(おおじ)と交わる小路や大路の交差点で待っていた。

藤原恒楽(ふじわらこうらく)の従者が言ったように菓子や穀物か何かが入った巾着、鍋や(うつわ)、布のようなものを手に持つ人々がいた。

私はもう二年も前から、百鬼夜行に()った人たちが平気で生きているのを知って安心したけど、私も腐っても貴族の使用人なので、貴族に恨みを持つ鬼ならついでに殺されるかもしれないと少し心配もあった。

でもきっと殺されるなら先に若殿(わかとの)だろうな~~と思いながら、真剣な横顔を見つめると、若殿(わかとの)

「あっ!あれだ!」

羅城門(らじょうもん)の方向を指さした。

ゆっくりと近づいてくる鬼たちの行列は、確かに異様な光景だった。

手に松明(たいまつ)を持ってる鬼が先頭で、様々な異形の鬼が続いた。

それは藤原恒楽(ふじわらこうらく)が言ったように、手足が骨と皮だけになりお腹が膨らんでいたり、両腕が無かったり、目の片方がつぶれていたり、片足を引きずっていたり、荷車にのせられ顔だけを動かしていたり、ふんどし姿で全身にびっしりできものがあったり、半裸の肌に青い痣があったりしたが、鬼ではなくまぎれもなく人だった。

衣はボロボロで肌が露出し、素足だったり、すり切れた草鞋(わらじ)を履いていたり、髪の毛は伸び放題にボサボサで、肌は垢じみて土色だったが、どう見ても、身だしなみが整っていないだけの人間だった。

私はショックで若殿(わかとの)を見上げると、若殿(わかとの)は私を見つめ返し、低い声で

「そうだ。災害や飢饉で食料が足りず、家族が養っていけなくなって山に捨てられた人々、つまり不具者や老人、不治の病にかかった人たちだ。彼らの中で生き延び、自活できた者たちが、山を越えた場所で自分たちで集落を作って暮らしているのだろう。都の人々で余裕がある人や、(なつ)かしくて会いたいと思った家族が、こうやって定期的に会って物や食料を渡しているんだろう。」

見ると、食料や布を渡したり、抱き合ってお互いに泣いている人、手を取り合って言葉を交わしている人、土下座して号泣している人、など様々な人がいた。

私はなぜか悲しくなって自然に涙を流していた。

そして、なぜ貴族たちは(おび)え、(たみ)の中に会いたがる人たちがいるのかがわかった。

二年前の地震の後、生活に困窮(こんきゅう)し、労働力にならない家族を切り捨てなければならなかった人々は、後悔しながらも、生きている家族に一目会いたいと思う人もいるだろうし、罪悪感にさいなまれて、捨てた家族の姿を見る事すらつらいと思う人もいるだろう。

貴族たちは、(たみ)から取り立てた税で生きていけるので、家族を切り捨てる必要はなかった。

異形の姿をした人々を『鬼』と呼んで、忌嫌(いみきら)い、遠ざけるだけでよかった。

誰を犠牲にして、豊かに暮らしているかを知るのは嫌だった。

それは私も同じだ。

自分が恵まれていることに感謝し、生かしてもらえる間は、一生懸命に生きなければならない。

泣きながらも目を離すことができない人々の様子を目に焼き付けた。

若殿(わかとの)が私の肩を抱き

「労働力にならないからと家族から見捨てられた人々の中でも、少数かもしれないが立派に生き延びられる人々の強さを見習うべきだな。我々貴族は自分にできる限りのことをしなければならない。

我々がすべきは『鬼』とみなして呪文を唱えて逃避することではないし、屋敷にこもって目を逸らすことでもない。」

と言った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

真実がキツイときに、目を逸らすな!というのは正論ですが、強い人でないと耐えられないと思いますがどうでしょう?

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

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