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贖罪の百鬼夜行(しょくざいのひゃっきやこう) その2

 藤原恒楽(ふじわらこうらく)の屋敷を辞した帰り道、私が

藤原恒楽(ふじわらこうらく)が見たのは何なんでしょう?井戸をとおって冥府へ通い、閻魔(えんま)大王の裁判の補佐をしていた小野篁(おのたかむら)様が藤原高藤(ふじわらたかふじ)様に百鬼夜行と遭遇させたと言いますよね。藤原恒楽(ふじわらこうらく)が見た鬼も地獄にいる罪人の幽霊ですかね?・・・いや!今は霜月(しもつき)(十一月)のはじめ・・・ということは神無月(かんなづき)(十月)に出雲(いずも)へ行ってた八百万(やおよろず)の神様が京に帰ってきて行列をなしているのを見たとか?う~~ん、違うかなぁ。・・・じゃあこれはどうですか?冬に備えて太るために食料をあさりに山から下りてきた熊や狸や狐などの野生動物の群れでは?」

と次々と思いつくアイデアを並べると、若殿(わかとの)が考え込んで

「節分は季節の変わり目の事だか、邪気が生じると信じられていて、節分には悪霊払いの行事が行われる。おそらく天候変化により病気になりやすいことを邪気が生じると言い、節分には夜遊びは控えろという(いまし)めのために、架空の鬼の行列の噂を流したんじゃないのか?」

と実在を疑っている。

私があっ!とまた思いついて

「自分の正体をごまかすために鬼に仮装して金持ちの屋敷を襲う強盗集団じゃないんですか?」

と言うと若殿(わかとの)はまた考えこんで

「それなら地味な仮装にして、誰かに見られた瞬間に逃げ出しそうだがなぁ。」

(つぶや)く。

後ろからタッタッタという足音がして

「お待ちください~~!」

という声がし、私たちが振り返ると、藤原恒楽(ふじわらこうらく)の屋敷で見かけた従者だった。

私たちに追いつくと、息を整えて従者は

「あの~~、私も百鬼夜行に()ったんです。それで少しお話しておこうと思いまして。」

若殿(わかとの)が『どうぞ』と頷くと従者は

「実は、あの百鬼夜行はもう何年も、決まった日にありましてそれが一月から十二月まで『子子午午巳巳戌戌未未辰辰』の日に起こるのです。」

私はアッと気づいて

「今は十一月なので辰日(たつのひ)ということですね?一・二月は子、三・四月は午・・・ということですね!そんなに規則正しくあるなんて、鬼って律儀(りちぎ)ですね~~!」

従者は真面目な顔で頷いて

「そうです。(あるじ)は怯えていただけでしたが、(たみ)の中には鬼に()うと幸せになると信じて食べ物や衣服を(そな)えるものや、鬼の姿を見て感激して涙するものもいます。わざわざ会いに行くものもいます。」

私はすっかり驚いて

「えぇっ?どーゆーことですか?貴族たちは鬼に()ったら死んでしまうので、外出を控えたり、『自分は酒に酔った者である』(手酔い足酔いわれ酔いにけり)といった内容を詠み込んでいる歌(『難しはや、行か瀬に庫裏に貯める酒、手酔い足酔い、我し来にけり』)を呪文にして唱えると害を避けられると言ってますよ?随分(ずいぶん)態度が違いますねぇ。」

と考え込んだ。

若殿(わかとの)が急に深刻な表情になり、藤原恒楽(ふじわらこうらく)の従者に

「それは仁和地震(にんなじしん)(仁和3年7月30日申刻(ユリウス暦887年8月22日16時ごろ)、五畿七道諸国にわたる大地震。京都において諸司の舎屋や民家の多くが潰れ死者も出し、五畿七道諸国が同日大きく揺れ官舎が倒壊、津波による多数の溺死者を出した)の後からですか?」

と聞くと、藤原恒楽(ふじわらこうらく)の従者も深刻そうにうなずいた。

 藤原恒楽(ふじわらこうらく)の従者が帰った後、私は若殿(わかとの)

「なぜ百鬼夜行が定期的に起こるのか?なぜ(たみ)は会いたがる人もいるのに、貴族は忌嫌(いみきら)うのか?多くの死者が出た地震の後から始まったならやっぱり幽霊ですかね?確かめるために、次の辰日(たつのひ)朱雀(すざく)大路(おおじ)を見張るしかありませんね!」

と元気よく言うと、若殿(わかとの)はなぜか悲しそうな表情を浮かべ

「そうだな。何が起こっているのか、この目でしっかりと確かめる必要があるな。」

(つぶや)いた。

私はハッと思い出して

「そうだ!若殿(わかとの)!一応、阿闍梨(あじゃり)に『仏頂尊勝陀羅尼(ぶっちょうそんしょうだらに)』をお札に書いてもらってそれを衣に縫い付けておきますか?藤原常行(ふじわらのときつら)様のように?」

と聞くと、若殿(わかとの)はフッと笑って

「お前の好きなようにしろ」

と冷めた表情で答えた。

(その3へつづく)

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