秘匿の流言飛語(ひとくのりゅうげんひご) その4
若殿がニヤリとして
「この紙にもヒントがある。ヒントはこの『印』の印字だ。風聞丸は『印』から貼り紙の暗号の作者を推測し、確認して自分で流言飛語紙を調達できるようになったから、もう我々と行動しなくてもよかったんだ。」
「えぇ!?風聞丸は作者を突き止めて直接確かめて全部わかったのに、私に内緒にしたんですか?って若殿もわかったんですか?誰が作者ですか?」
「『印』という印字からわかることはこれが印章屋と関係があるということだけだ。風聞丸がそれで解決したならきっとが印章屋が流言飛語紙の作者だ。」
というわけで印章屋に向うと、さっきの男がちょうど返ってきたところに出くわした。
さっきの男は我々を見つけるとバツが悪そうに笑い
「いや~~へへへ。てっきりあなた方がお役人だと思いましてね。捕まったら弾正台に引っ立てられると思いましてぇ。」
若殿が少し険しい表情で
「どこから情報を得ている?帝周辺の噂はどれくらい知っている?」
売り子の男は愛想笑いを浮かべ
「いや~~凄腕の情報屋を何人も囲っているんです。企業秘密です。なんせ印章屋だけでは経営が苦しいものでしてね。」
若殿がギロっと睨み
「以後、流言飛語紙を売る前にチェックさせてくれれば毎回、百文支払おう。」
印章屋はちょっと悩み
「あなたは役人ですか?それでこの商売は御咎めなしで続けられますか?それなら手を打ちましょう。」
と渋々頷いた。
私があっと思い出して
「この文はすべてひらがなで、等間隔ですよね?それにたくさん紙束を用意してるという事は、何かいい方法を見つけてハンコを使って一気に多くの文字を紙に押せるようにしたんですか?」
印章屋はエヘンとちょっと得意になって
「そうだ!ひらがなのハンコをたくさん作って、木枠に並べて固定し、一気に墨をつけて印刷したんだ。これだと何枚でも刷れるし、文字を並び替えるだけで別の文も刷れるというわけさ!」
「へぇ~~~!それで流言飛語紙をたくさん印刷して売ろうと思ったんですかぁ!」
と感心した。
でもそれならもっと有益な情報発信に使ったほうがいいのかも?
帰り道、流言飛語紙を読みながら、
「風聞丸が私に黙っていたのは若殿が役人だからでしょうか?自分で『印』から印章屋にたどり着いたので、もう我々が必要なくなったなんて、まったく!ひどい奴です。」
とちょっとムッとして言うと若殿は我関せずと
「そうだろうな。」
中納言とさる女御の醜聞に充分詳しくなった私は次も楽しみになったので若殿に
「この流言飛語紙の次の発売日はいつなんでしょう?・・・あっ!この紙の最後に『青二亀一』って書いてありますね。ここへ行けばいいんですよね。いつ行けばいいんでしょう?」
若殿が厭きれた顔で
「今度からはいちいち貼り紙の暗号を解かなくても、百文で発売前にチェックすることになっているから、その仕事をぜ~~んぶお前に任せてやる。」
と言った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
暗号って現役スパイは今でも使ってるんでしょうかねぇ?
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。