秘匿の流言飛語(ひとくのりゅうげんひご) その2
若殿も私も考え込んで、若殿が
「五文字目に丑、亥、寅があるということはこれは時刻か?」
私が
「二文字目と四文字目は数字ですよね。」
若殿が
「一文字目と三文字目は動物か、色か、記号だな」
考えてもわからなかったのでテキトーにアイデアを出してみる
「数字とか時刻とかがあるし、大きい災害とかの予言でしょうか?『野馬台詩』のように並び替えれば意味が分かるというような。」
私の知識では『野馬台詩』という予言詩は初めは文がバラバラに書かれていて意味が分からなかったが吉備真備が困り果てて日本の神仏に祈ると、蜘蛛が落ちてきて、蜘蛛の這った後を追うと、無事読むことができたという。
若殿が面白そうに
「蜘蛛を這わせてみるか?」
と言うので、私は蜘蛛を這わせる想像をしてみたが、
「う~~ん。でも並び替えても色や動物や記号では意味がわからないなぁ~~。」
と伸びをしながらあくびした。
またあっ!とひらめいて
「泥棒同士の合図じゃないですか?泥棒に入る屋敷に貼ってあって、日付とか時刻とかを書いてあるのでは!『白三赤二』なら三月二日にこの家に泥棒に入るとか?」
「白と赤の意味は?」
「お祝い事でもあったのかなぁ?」
と訳が分からなくなった。
一つの文に記号と色が入ってることもあれば、動物と色のパターンもあるし、記号だけ、色だけ、動物だけもある。
私がう~~んと考え込んでいると若殿がニヤッとして
「そろそろ私の考えを聞くか?」
というのでウン!と頷くと
「四種類の動物は亀、虎、鳥、竜で、色は黒、白、赤、青 の四色といえば思いつくものは何だ?」
私はあっ!と叫んで
「四神です!玄武、白虎、朱雀、青龍、です!」
若殿は頷いて
「そう。中国の神話で、天の四方の方角を司る霊獣だ。その方向は、玄武が北、白虎が西、朱雀が南、青龍が東だ。だから都の道の数をそれぞれの方向から数えた場所を示している。つまり・・・」
『白三赤二』は『西三南二』のことであり、一番西の「西京極大路」を一として三本目の「道祖大路」と南の「九条大路」を一として二本目の「八条大路」の交差点を示すと考える。
確か「八条大路」と「道祖大路」の交差点に貼り紙があっただろう?」
私はそうか!と
「『亀二虎四丑』という貼り紙がありました!」
若殿は続けて、
「記号も同じように方向を表すと考えると、易の爻という記号に『l』陽爻と『¦』陰爻という記号があり、それで東西南北を表せるらしい。
それによると北は『¦¦』西は『¦l』南は『ll』東は『l¦』なので、それを当てはめると、貼り紙の文は全て、方向と数字からできているので、以下のようになる。」
『白三赤二』は『西三南二』
『黒六青一』は『北六東一』
『¦¦八l¦八』は『北八東八』
『亀二虎四丑』は『北二西四』
『ll五l¦四』は『南五東四』
『赤四¦l二』は『南四西二』
『虎二黒九寅』は『西二北九』
『鳥三竜三亥』は『南三東三』
(*作者注:ただし平安京の大路は
北から南に
一.一条大路
二.二条大路
三.三条大路
四.四条大路
五.五条大路
六.六条大路
七.七条大路
八.八条大路
九.九条大路
東から西に
一.東京極大路
二.東洞院大路
三.西洞院大路
四.大宮大路
五.朱雀大路
六.西大宮大路
七.道祖大路
八.木辻大路
九.西京極大路
とします。)
このそれぞれの文が示す交差点は
『白三赤二』=『西三南二』→「八条大路」と「道祖大路」
『黒六青一』=『北六東一』→「六条大路」と「東京極大路」
『¦¦八l¦八』=『北八東八』→「八条大路」と「木辻大路」
『亀二虎四丑』=『北二西四』→「二条大路」と「西大宮大路」
『ll五l¦四』=『南五東四』→「五条大路」と「大宮大路」
『赤四¦l二』=『南四西二』→「六条大路」と「木辻大路」
『虎二黒九寅』=『西二北九』→「九条大路」と「木辻大路」
『鳥三竜三亥』=『南三東三』→「七条大路」と「西洞院大路」
となる。
若殿が
「それぞれの文が示す交差点に、次の文がある場合があるのでそれを探すと・・・
『白三赤二』が示す→「八条大路」と「道祖大路」にあるのは『亀二虎四丑』。
『亀二虎四丑』が示す→「二条大路」と「西大宮大路」に文はない。
『黒六青一』が示す→「二条大路」と「東京極大路」にあるのは『赤四¦l二』。
『赤四¦l二』が示す→「六条大路」と「木辻大路」にあるのは『虎二黒九寅』。
『虎二黒九寅』が示す→「九条大路」と「木辻大路」に文はない。
『¦¦八l¦八』が示す→「八条大路」と「木辻大路」にあるのは『ll五l¦四』。
『ll五l¦四』が示す→「五条大路」と「大宮大路」にあるのは『鳥三竜三亥』。
『鳥三竜三亥』が示す→「七条大路」と「西洞院大路」に文はない。
つまり丑、寅、亥の時刻が最後につく場合、その場所には次の行き先の文は置いてない。
」
私はちょっとややこしいなぁと思って
「つまりどういうことですか?」
(その3へつづく)