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平安貴族の侍従・竹丸の日記  作者: RiePnyoNaro


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秘匿の流言飛語(ひとくのりゅうげんひご) その1

【あらすじ:大路の交差点にある屋敷の壁に貼られている多数の貼り紙には、謎の文字が書かれていた。この暗号を解けば一体何が分かるのか?時平様は今日も地道に足で調査する。】

私の名前は竹丸。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭・藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

歳は十になったばかりだ。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿(わかとの)は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は『秘密○○』というだけで興味がわくよね!というお話(?)。

ある日、大殿(おおとの)若殿(わかとの)に険しい顔で


「太郎、この頃、(ちまた)で朝廷の役人や高位の僧侶についての流言飛語(ゴシップ)が飛び()っておるらしいが、聞いたことがあるか?」


若殿(わかとの)は初耳だという顔で


「さぁ?ありませんが、どんな噂ですか?」


大殿(おおとの)が苦々しい表情で


「例えば、わしが従者に恋人を寝取られただとか、右大臣の秘蔵の五弦琵琶(ごげんびわ)が盗まれただとか、ある山門の権大僧都(ごんのだいそうず)稚児(ちご)へ性的虐待を加えてそれが原因でその子が名家(めいか)稚児(ちご)の局部を噛み切ろうとしただとか・・・・」


若殿(わかとの)は私の方を(にら)んで


「そんなことが噂になってるんですか?!出所(でどころ)は察しがつきますが。」


と言うので私は両手を振って


「いえっ!私じゃないですよ!少なくとも大殿(おおとの)の寝取られ事件以外は私じゃありません!」


と焦った。


・・・大殿(おおとの)については従者仲間の間でネタにしたことはあったが。


それにしても、地位(ステイタス)の高い人物が失敗するとか寝取られるとか不幸な目にあう話はどうしてこんなに面白いんだろう?とちょっと不思議に思ったが、私も大好きなので多分嫉妬。


 大殿(おおとの)との話が終わると、若殿(わかとの)が私に


流言飛語(りゅうげんひご)出所(でどころ)を調べてみようと思うが、お前、何か手掛かりを知らないか?そーゆーのが好きな奴が仲間にいないか?」


若殿(わかとの)流言飛語(ゴシップ)出所(でどころ)を気にするのはやっぱり・・・と思って


「宇多帝の姫の事が噂になったら困るからですか?」


と聞くと、若殿(わかとの)は何も言わず硬い顔で頷き、


「噂の出所(でどころ)を少なくとも(つか)んでおかないと、世に出ていい情報とそうでない情報を制御(コントロール)できないからな。」


私はハタと思い出して


「そういえば、風聞丸(かぜききまる)という従者仲間は流言飛語(ゴシップ)好きで好奇心旺盛ですし何か知ってるかもしれません!」


とさっそく風聞丸(かぜききまる)に話を聞きに行くことにした。


風聞丸(かぜききまる)はキツネ目であごの肉がたるんだ三十前後の少しぽっちゃりした男で、ある貴族の従者をしている。


いつも忙しそうに(あるじ)の命令をこなして動き回っているのに、ぽっちゃり太れるところが結構不思議だ。


風聞丸(かぜききまる)大殿(おおとの)が言ってた流言飛語(ゴシップ)出所(でどころ)に当てがないかを聞いてみるが、


「あぁ、その噂は知ってるよ。出所(でどころ)は確か関白殿の寝取られ事件は・・・」


「ぁあ~~わわっ!しーっ!」


と黙るように合図したが風聞丸(かぜききまる)は知らんぷりで続けて


「お前から聞いただろう?他の噂も誰か従者仲間か?カミさんからかな?聞いた。だけど、新しい流言飛語(ゴシップ)もあんまり面白いものがないなぁ。誰かが定期的に発信でもしてくれれば銭をだしてもいいのに」


と頼りにならなかった。


風聞丸(かぜききまる)はあっ!と何か思い出したように


「そうそう!この前、変なものを見つけたんだよ。大路の角にある屋敷の壁に貼り紙が張ってあるんだが、その内容が意味不明なんだ。書きとってあるから見せてやる!」


と奥に入ってメモった紙を持ってきた。


「ほら!こんな感じのことが書いてあって壁に剥がれないようにベッタリ貼り付けてあるんだ。剥がそうとすると破れそうになるから書き写したんだよ。」


その内容は


『白三赤二』とか


『黒六青一』とか


『¦¦八l¦八子』とか


だった。


若殿(わかとの)も私も意味が分からず、う~~んと考え込んだが若殿(わかとの)


「これを見つけた場所を覚えているか?」


風聞丸(かぜききまる)は首を横にふり


「いいえ。忘れてしまいましたが、まだ貼ってあると思いますよ。探してごらんになればいい。」


私たちはできるだけ多くの貼り紙を手分けして探すことにした。


 手分けして探してみると貼り紙は結構たくさんあって、雨に濡れたのか変色しているものや、汚れたものもあるし、ボロボロになってるものもあるし、キレイなものもある。


しかもこの広い平安京の都を端から端までとなると結構な重労働だった。


その内容と見つけた場所はどれも以下の道の交差点にある屋敷の壁だった。


『白三赤二』・・・「一条大路」と「木辻大路」


『黒六青一』・・・「四条大路」と「東洞院大路」


『¦¦八l¦八』・・・「西京極大路」と「三条大路」


『亀二虎四丑』・・・「八条大路」と「道祖大路」


『ll五l¦四』・・・「八条大路」と「木辻大路」


『赤四¦l二』・・・「二条大路」と「東京極大路」


『虎二黒九寅』・・・「六条大路」と「木辻大路」


『鳥三竜三亥』・・・「五条大路」と「大宮大路」


誰かこれだけで意味のわかる人がいるんだろうか?

(その2へつづく)


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