表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/356

撓やかなる山吹(しなやかなるやまぶき) その3

恭子姫は、観念したように袖で顔を覆って泣き崩れた。

「あぁ・・・!こうなっては仕方がありません。全てを打ち明けますわ!」

若殿は深刻な面持ちで

「聞きましょう」

「私はあの日、ならず者から助けられたその時からあなたに恋してしまったのです。どうしてもあなたと添い遂げたいあまり、あなたが我が家に来てくださるよう、このような事件を仕組んだのですわ。」

袖で口を覆い、潤んだ瞳で若殿(わかとの)を見上げ、情けを請う姿は、普通の男ならさぞかし胸を突かれただろうが、若殿(わかとの)は違った。

「でもあなたはこの手のことに慣れていらっしゃるでしょう?」

恭子姫は不意を突かれて

「えっ?なんのことですの?」

「地味なほうの化粧箱には男物の(くし)や椿油が入っているでしょう?

葛水(かずらみず)(男性の整髪料)をいれた蔓壺(かずらつぼ)と化粧箱は朝、男性が身だしなみを整えるためのもの。

文机の『文華秀麗集』は男性貴族の一般教養。

合わない数種類の香は相手の男性の好みに合わせて焚き分けるため。

すべては複数の金満(きんまん)な貴族を通わせている証拠です。

よくみるとこの(へや)の調度品は高価で趣味のいいものだ。さぞかし身分の高い殿方達なのでしょう。」

恭子姫はさすがに観念したというように、しっかりとした落ち着いた声で打ち明けた。

「そこまでお知りになったなら・・・もう隠し立ていたしません。実は、父宮は血筋が高貴なばかりに金銭欲がなく出世して富貴を得ようとなさらないのです。

そのせいで我が家は明日食べるものもない状態になりました。

そして、私は家のものを守るために、養うために、この身を犠牲にすることにしました。

好きでもない、脂ぎった男性に次々と身を任せては、露命をつなぐための金品を恵んでもらう毎日を過ごしておりますの。

何と情けないことでしょう・・・。こんな、汚れた、卑しい女などあなた様には似合いませんわ。

あぁ嫌ですわ!恨めしい!こんな境遇に落とした運命が!あぁ・・・あなたにもっと早く出会って一生を添い遂げたかったですわ!」

と言いながら泣き崩れた。

若殿(わかとの)は少し顔色を変え

「なぜ?一介の雑色(ぞうしき)である私をなぜそこまで慕ってくれるのですか?」

「それは・・・あなたを本当に愛してしまったからです。一目見たときから、あなただけのものになりたいと願ってやまないのです。

あなたが危険を顧みず助けてくれたその勇気と優しさにひかれたのですわ!そしてもう、家族の犠牲になる生活など捨ててしまいたいのですわ!」

と涙で濡れた顔と乱れた髪を隠そうともせず若殿(わかとの)の目を一心に見つめて訴える。

これには若殿(わかとの)も心が動かされたのか恭子姫を抱きしめ

「では、あなたの恋人になりましょう!本当に私でいいんですか?私には財産も身分もありませんが」

「そんなもの、もう必要ないわ!あなたがいてくれればそれでいいの」

とうっとり若殿(わかとの)に身を任せる。


若殿(わかとの)は少し言いにくそうに

「では、さっそく一つお願いがあるのですが」

「何でもおっしゃって」

恭子姫は目をとじて若殿(わかとの)に身を預けていた。

「500文ほど工面していただけませんか?借金がありまして。あなたの調度品の一つでも銭に換えていただければいいのですが。」

恭子姫はすぐさま身を引いて険しい顔で若殿(わかとの)を見たがすぐに、袖で顔を覆い泣き崩れた。

「あぁ・・・お恥ずかしいのですが、ここにある調度品は全て担保にして銭を借りているのです。私のものではありません。何と恥ずかしい、情けないことでしょう!

恥ずかしくて胸が苦しくなってきましたわ!今日のところはお引き取りください・・・。銭の事はまた後日でよろしいですわね?」

「それはそれは!そうですね。あまりにも図々しいお願いでした。では失礼します」

若殿(わかとの)は眠っている私を背負って屋敷を辞した。


私はここまでの話を若殿(わかとの)から聞いて、

「私が気絶したのはなぜですか?」

「食べ物にバイケイソウを煎じて盛ったそうだ。」

「それも、若殿(わかとの)と一夜を過ごしたという既成事実(きせいじじつ)を作るためですか?」

「そうだろうな。」

「でもなぜ姫の使用人の中に暴漢がいると分かったのですか?」

「最初に出会った時のひげ(づら)のならず者と暴漢の手首には、同じような日焼けが焼け残った白い跡があった。二人が同一人物で、姫が仕組んだとすれば、使用人を使うだろうと。確信はなかったがな。」

「そんなに最初から仕組んでるなんて用意周到ですねぇ~~」

と変なところに感心する。

「でも恭子姫は雑色(ぞうしき)の平次を純粋に好きになったんでしょう?で若殿(わかとの)は結局、恭子姫に同情して恋人になると言ったんでしょう?

その後、お金はくれたんですか?本当に恋人になったんですか?あれからもう一週間はたってますよ~!ねぇ~~教えてくださいよ~~!」

とワクワクして肘で若殿(わかとの)をつつくと若殿(わかとの)はニヤリとして


「あれ以後、二度と文はきてないよ」

と言った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ヤマブキの花言葉は、「気品」、「崇高」、「金運」だそうです。

運命に翻弄されつつ、それをも利用し活力にするという人々は凄いなぁと思いますがどうでしょう?

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ