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平安貴族の侍従・竹丸の日記  作者: RiePnyoNaro


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独善の彼岸花(どくぜんのひがんばな) その4

鬼の面をはずした秀丸は少し肌が赤みを帯びて乾いた皮膚をしてるが、それ以外は普通の少年だった。


目が細くて少し切れ長で、頬が豊かな、内気そうな少年だった。


若殿(わかとの)が秀丸に


「少し鬼の面を見せてくれるかい?」


秀丸はうんと頷いて面を若殿(わかとの)に渡すと若殿(わかとの)は面の内側の匂いを嗅いだり、指でこすったりしてみて良子に


「何かついていますね?もしかして、あなたは秀丸の顔にいつも何か薬をつけているのではないですか?」


と聞くと良子はハッと息をのむ気配がして


「そうですわ。当たり前でしょう?秀丸は日光に当たると皮膚が焼けただれて()がれ落ち、それはそれはとても痛々しい可哀想な状態になるのですもの!薬師(くすし)に特別な塗り薬を作ってもらって、毎日それを塗ることでようやく普通の状態に保っていられるのですわ!」


甲高(かんだか)い声でヒステリックに話した。


そして続けて


「あぁ・・・可哀想な子!どうしてこんな風に生まれついてしまったのかしら?一生、昼間の太陽の下を歩けないなんて!可哀想で、憐れで仕方がありません。できることなら私が変わってあげたいのに・・・。うっうっ・・・。私が悪いんです。まともな子に産んであげられなかったから。この子の父親にも申し訳ないことをいたしました・・・」


と泣き崩れた気配がした。


秀丸も唇を()んでうつむき


「私がこんな風にうまれなければ、母上は苦しむことはなかった。申し訳ないのは私の方なんです。昼間に外に出られないくらい平気です。」


と言った後


「でも、母上!父上も私を心配して、よく会いに来てくださるので、何もつらくありませんよ!ねぇ母上?父上が優しい方でよかった。私が読んだことのある物語では一度契った女性でも飽きればすぐに男は通わなくなって、そのまま死ぬまで打ち捨てられるということがよくあるらしいですよ!」


と顔を上げて良子に話しかけた。


良子がコクリと頷き若殿(わかとの)に向かって


「えぇ・・・そうね。本当に。この子の父親が、情の深い、優しい、子煩悩なお方で本当によかったですわ。北の方とお子達がいらっしゃるのに、それ以上にわたくしたち母子をいつも気にかけて色々持ってきてくださるのです。」


と微笑みかけた気配がした。


若殿(わかとの)


「心配したり、可哀想に思うとついつい気になって、自分にできる事なら何でもしてあげたくなるものですからね。」


と同意した。


私は秀丸が日光の当たる昼間に外で遊べないという境遇が本当に可哀想だし、もし一緒に遊べたら楽しいだろうと思っていたので残念だった。


もしかして、と思いついて


「夜にしか出歩けないから自分を鬼みたいだと思って、鬼の面をつけてるんですか?」


秀丸は寂しそうに


「そうなの。でも、おじい様が大変腕のいい絵仏師(えぶっし)だから、私も仏師になろうと思って、その練習に鬼の面を彫ってみたんだ!上手でしょう?」


私は同じ年ぐらいの秀丸がこんなにリアルな地獄変にあるのとそっくりな鬼を彫れるという事にすっかり驚いて


「えぇ!自分で!凄いですね~~~!」


と感動していた。


「ホントに昼間に一緒に遊べたら楽しいでしょうに、昼間に外に出ることを試してみたんですか?薬も塗ってることだし、いつの間にか、治ってるかもしれないでしょ?」


秀丸はまた悲しそうに横に首を振り


「ダメなんだ。一昨日も試してみたけど、すぐに顔中が痒くなって赤い水膨れができて、カサカサして大変だったんだ。」


と落ち込んだ。

(その5へつづく)

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