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独善の彼岸花(どくぜんのひがんばな) その1

【あらすじ:京の都の夜と言えば鬼はつきものだが、悪戯するぐらいの小鬼はよくても、強姦する鬼はダメ。鬼の正体が一体何なのか、時平様は推理を巡らしその正体とそれよりもっと恐ろしい心の闇を暴き出す。】

私の名前は竹丸。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭・藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

歳は十になったばかりだ。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿(わかとの)は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回はたとえ死んでも他人の称賛が欲しい!?というお話。

 ある日、若殿(わかとの)大殿(おおとの)に呼び出され

「太郎、お前、近頃、京の都で夜な夜な鬼が徘徊しているのを知っているか?」

若殿(わかとの)は少し眉を上げ

「いえ。どのようなことがあったのですか?」

私は鬼!と聞いてワクワクして、そういえば!と思い出したのは、大殿(おおとの)絵仏師(えぶっし)良秀(よしひで)に発注して最近、届いた「地獄変(地獄変相図(じごくへんそうず):罪を犯した人間が死後、地獄に()ちて苦しむ姿を図に描いて、民衆に勧善懲悪と正しい信仰を教え諭したもの。)」の屏風のこと。

そこに描いてある閻魔(えんま)様の裁きの様子や、血の池地獄や、かまゆで地獄や、火の車地獄、で罪人がいたぶられている様子と、いたぶっている赤と青の鬼の様子を思い出してゾクっとした。

鬼は目がギョロリとして口が裂け、角が生えた見た目は怖い怪物だが、罪人たちをいたぶる仕事を閻魔(えんま)大王に逆らわず、日々モクモクと、コツコツとこなす労働者というイメージも否めない。

あれだけイカツイ見た目の怪物なら力を合わせて反抗すれば、閻魔(えんま)大王はじめ上位支配者をやっつけ地獄から抜けだせそうなものだが、そういうこともしない。

その鬼が夜の都をウロウロして何をしているのだろう?やっぱり人をいたぶっているのかしら?と興味をひかれた。

大殿(おおとの)が、

「鬼に襲われたという文使(ふみつか)いの少年の話では夜、(あるじ)の恋文を届けるために大路(おおじ)を歩いていると、小さい背丈の鬼が、自分の(あと)をつけているのに気づいて、走って逃げたらしい。」

「直接の被害はなかったのですね?」

「そうだ。止まって振り返るたびに鬼もピタリと止まってこちらの様子をうかがうので、今に追いつかれて襲われるんじゃないかと(おび)えて大急ぎで走って逃げたら無事逃げきれたらしいが。」

「他には?」

「酔っぱらって大路(おおじ)で眠り込んだ貴族が、目を覚ますと、鬼が自分の上にしゃがみ込んで上からジーっと自分を(のぞ)き込んでいたらしい。襲われると思ったその貴族は慌てて起き上がって逃げだすとやっぱり無事に逃げ切れたらしいが。」

若殿(わかとの)はふうんと何か考えていたが

「それだけでは、実際に被害が無いわけですから別に父上が出る幕はないですよね?他に何があったんですか?」

大殿(おおとの)が私の方を見て眉をひそめ、低い声で

「実は、さる貴族の娘が自分の屋敷で鬼に強姦(ごうかん)されたと訴えているのだ。その貴族から真相を明らかにするようにと頼まれてな。」

大殿(おおとの)は私に聞かせたくないと気を使っているようだが、私の強姦(ごうかん)事件遭遇件数は半端じゃない。

それに鬼が人間を強姦(ごうかん)するの?と大いに疑問と詳しく知りたいという好奇心がわいた。

若殿(わかとの)も興味があるという風に

「そもそも襲われた人々はなぜ鬼だと思ったんですか?」

強姦(ごうかん)された姫の方は、暗くてよく見えなかったが、顔が赤く、(つの)が頭頂に生えていて、口が裂けて牙が見えていたらしい。そして最も恐ろしかったのがぎょろりとした目が左右二つずつ縦に並んで四つもあったことらしい。黒い衣に(あか)()(腰のベルトとなる二本の小腰、(はかま)の腰板のような大腰、後ろに引きずる紐のような二本の引腰とプリーツスカートのような裳の本体で構成される)という姿も異様だったとのことだ。」

強姦(ごうかん)されている最中にその観察眼はなかなか凄いが、聞いたことも見たこともない変な姿なのでやっぱり鬼なのかなと思った。

若殿(わかとの)大殿(おおとの)にチラリと目配せして、お互い頷いたかと思ったが続けて

「で、その小さい鬼の方はどんな姿ですか?」

「それは水干(すいかん)(くく)(ばかま)という普通の庶民の姿に、赤い顔、角があり、口が裂けて、目が二つの鬼の顔をしていたらしい。あぁついでに思い出したが、夜中にその小さい鬼が物陰から急に飛び出して大きい声で脅かされ、転んで怪我をした商人もいるらしい。」

「小さい鬼は大したことをしてませんが、まずその四ツ目の鬼の被害者に話を聞いてみましょう。」

若殿(わかとの)が言い、私はお供してその貴族の姫を訪ねることになった。

(その2へつづく)

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