表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/367

落成の雲梯之機(らくせいのうんていのき) その4

若殿(わかとの)が何かを考えこんだが、やっと気づいたというように

「なるほど・・・全てがつながった。利二(としじ)さん、徳一(とくいつ)斎部季長(いんべすえなが)を呼んで集まる場所を用意してくれませんか?」

利二(としじ)

「では東の(たい)に集めましょう」

と言って立ち去った。

私は『えーっ!全てが説明できる答えがあるの?』と思ったが、自分でも考えてみる。

う~~んと考えて、私が見つけた共通点は全て東大寺に関係しているという事ぐらいだった。

だけど、

・大殿が購入した徳一(とくいつ)の作った仏像の首が少しの振動で取れた。

 →もし犯人が三人の中にいるとすると、なぜ犯人は仏像の首を落とす細工をしたのか?

徳一(とくいつ)が出席した追善(ついぜん)法要で徳一(とくいつ)だけが食あたりを(まぬか)れた 

 →黒い粉のせいで大丈夫だったとすると、徳一(とくいつ)の食あたりを防いだ黒い粉は何?

徳一(とくいつ)が行う護摩(ごま)祈祷で、護摩(ごま)壇から有毒煙が発生した。

 →有毒煙がキラキラした銀色の金属せいだとすると、燃えて毒煙を出した匂いのしない金属は何?

・犯人は誰でなぜ三つの事件をおこしたのか?

は謎だった。

 徳一(とくいつ)利二(としじ)斎部季長(いんべすえなが)と我々が東の対に集まり、若殿(わかとの)が話し始めた。

と、その前に斎部季長(いんべすえなが)はどんな人かというと、斎部季長(いんべすえなが)は三十半ばの人で、背が低くがっちりした体格の僧で、物静かな感じだがジロジロ若殿(わかとの)を見る眼付(めつき)は何かを警戒していた。

水干(すいかん)にたすき()けして袖を()めていて、いかにも作業を中断されたという格好でイヤイヤ出てきた感じだった。

若殿(わかとの)

「まず、追善(ついぜん)法要で起きた食あたりですが、あれは徳一(とくいつ)利二(としじ)とおこした毒物混入事件ですね。」

とギロっと徳一(とくいつ)利二(としじ)をにらんだ。

利二(としじ)は慌てたが、徳一(とくいつ)はフフンと鼻で笑い

「何を根拠にそんなことを言うのですか?」

「根拠は、あなたが神通力(じんつうりき)の源と称するその活性炭(かっせいたん)の粉を汁物に入れてから飲み干したということです。利二(としじ)を使って庭木の馬酔木(あせび)を汁物に混入させたんですね。そして自分は活性炭で毒素を吸着させ、毒に当たらないようにし、神通力(じんつうりき)(まぬか)れたように(よそお)った。そうですね利二(としじ)?」

利二(としじ)を問い詰めると、利二(としじ)は焦ってすがるように徳一(とくいつ)の方を見たが、徳一(とくいつ)は憎らし気に若殿(わかとの)を見返していた。

若殿が続けて

利二(としじ)が必死で食あたりの人々を介抱したのも、自分が毒を盛った罪悪感からでしょうし、徳一(とくいつ)にも逆らえず板挟みで苦しんだでしょう。そういう詐術(さじゅつ)をずっとさせられてきたのなら。」

利二(としじ)項垂(うなだ)れ、

「・・・はい。」

とだけ呟いた。

逆に徳一(とくいつ)は開き直って

「だから何ですか?現に東大寺を都で有名にしてもう一度、封戸(ふこ)を増やそうと頑張っているのは私ですよ!私のおかげで大仏建立以来、東大寺は最も注目を集めているじゃないですか!」

封戸(ふこ)とは『俸禄として支給した戸のことで、そこからの調(ちょう)(よう)および田租の半分が支給される』というもので、5000戸という東大寺の封戸(ふこ)では5000戸の税を取り立てることができるという意味だ。

私の知識では平安京遷都後、政治への仏教の影響力を排除しようと桓武天皇が東大寺の封戸(ふこ)を削ったと聞く。

若殿(わかとの)は待ってましたとばかり

「そう!その大仏です。すべてはそこから始まっているのです。我が家の仏像は何の仏だった?竹丸?」

私はう~~んと考えて

大日如来(だいにちにょらい)です。」

若殿(わかとの)がそうと頷き

「東大寺の大仏である毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)は密教の大日如来(だいにちにょらい)とおなじです。その首が取れるという細工は、斉衡(さいこう)二年(855年)の地震で被災し、首が落下した大仏のことを示唆(しさ)しています。」

私は驚いて

「えぇっ!あの奈良の大仏の首が落ちたんですか!何て縁起の悪い!当時は大騒ぎしたでしょう?で、今はどうなってるんですか?全然知りませんでした。」

民衆の心を安らかにするという目的で造立(ぞうりゅう)された大仏の首が落ちたなんて、不幸や災害の暗示かしら?と縁起をかつぐ人々は大騒ぎしたに違いない。

なのにあんまり知られてないという事は噂が遠くまで広がらないように箝口令(かんこうれい)をしいたとか、すばやく何事もなかったように修理したんだろうなと思った。

そうでなくても、災害や飢饉(ききん)は毎年のように起こっているのに、心を安んじるどころか不安にさせる効果しかないなら大仏の意味はないなぁと。

大仏造立の際も『貴族や寺院が富み栄える一方、農民層の負担が激増し、平城京内では浮浪者や餓死者が後を絶たず、租庸調の税制が崩壊寸前になる地方も出た』らしいので、必ずしも人々のためにはなってない気もする。

(その5へつづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ