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落成の雲梯之機(らくせいのうんていのき) その1

【過去に死んだと思われていた伝説の僧侶を名乗る、現在の都で有名な奇跡の人。この人にまつわる奇跡や事件には一体どんな秘密があるのか?時平様は歴史の暗闇から真実の光を見つけ出す。】

私の名前は竹丸。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭・藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

歳は十になったばかりだ。


 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を若殿(わかとの)は溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は不都合な真実はやっぱり隠される?というお話。

 ある日、若殿(わかとの)は大殿に呼び出され

「太郎、これを見てみろ」

と、一 (しゃく)(30cm)ぐらいの金色の仏像を手渡された。

ただし、その仏像には頭がなく、頭は別に手渡された。

私は驚いて

「わ~~っ!どうしたんですか?いったい誰がこんなことを!」

というと、大殿が

「これは一週間前にやっとうちに届いたばかりの大日如来(だいにちにょらい)の座像で、ついさっき、侍女が掃除しようと持ち上げたら頭がポロリと取れたらしい。」

私も若殿(わかとの)から受け取って見せてもらった。

その仏像は木でできていて、中は空洞だが、表面は金色の粉を混ぜた(うるし)がぬってあるものだった。

顔や衣の細かいところまで繊細な細工がしてあって、どうみても値が張るものだろうなぁと思った。

取れた部分の木は(ふち)がスッパリと切られた感じで、金色の漆部分は薄く、(ふち)がギザギザしていた。

私は若殿(わかとの)

「侍女が手荒(てあら)く扱って取れたんでしょうか?」

と聞くと

「いや、ちょっとした衝撃でとれるようにわざとしてあったようにも見える。父上、これを作ったのは誰ですか?」

大殿は渋い顔をしながら

「最近、都で一番の有名人と話題の徳一(とくいつ)の作品だ。一年前に注文して、順番待ちして一週間前にやっと届いたと思ったらこれだ!」

愚痴(ぐち)った。

徳一(とくいつ)と言えば確か、『東大寺徳一(とうだいじとくいつ)』という東大寺のお坊さんで、今から七十年も前(817年)に最澄(さいちょう)と論争したり、陸奥(むつ)(現在の青森・岩手・宮城・福島の各県と秋田県の一部)南部から常陸(ひたち)(現在の茨城県北東部)にかけて多くの寺院を建立したとされる人物なので、今(888年)、現存しているはずはないが、その名を(かた)った偽物か、自分でつけた芸名みたいなものかしらと思った。

私は噂を聞いていたので

「たしか、今の徳一(とくいつ)は都でいろいろな奇跡を起こして回ってるそうですね?歩けなかった人の足に徳一(とくいつ)が触れると歩けるようになったりとか!」

大殿が頷いて

「そうじゃ。何か優れた神通力(じんつうりき)をもっているらしいな。だから、わしもあやかろうと大枚(たいまい)をはたいて手彫りの仏像を注文したのに!まったく何てざまだ。」

とまた不満そうに口を尖らせた。

これ以上何が欲しいんだろうこの欲深いおっさん・・・と思ったが、口には出さない。

若殿(わかとの)が大殿に向かって

「こうなった原因を突き止めろという事ですか?」

というと大殿は

「いや、それよりも徳一(とくいつ)が先日、起こした奇跡というか事件というか、ある貴族・只野公達(ただのきみたつ)追善(ついぜん)法要を依頼されて出かけた先で、出席者が全員、食あたりを起こしたのに、徳一(とくいつ)だけは同じものを食っても平気だったらしい。」

「それが徳一(とくいつ)神通力(じんつうりき)によるものか、何か他に原因があるのかを調べろということですか?」

大殿は難しい顔をして

「まぁ、そうだな。徳一(とくいつ)は都でもてはやされるような本当の神通力(じんつうりき)の持ち主か、うさんくさい詐欺師かを見分けてきてくれ。」

私は自分で仏像まで注文しながら、完全には(だま)されきらない大殿の慎重さに感心した。

・・・まぁ、注文した仏像がすぐに壊れたことに対する腹いせかもしれないけど。

私は若殿(わかとの)にお供して、さっそく只野公達(ただのきみたつ)の屋敷を訊ねた。


 徳一(とくいつ)法華八講(ほっけはっこう)のような僧侶の間での仏典研究会に出席するよりも、追善(ついぜん)法要に頼まれて出席したり、裕福な庶民を相手にした自分主催の徳一講(とくいつこう)(会合のこと)を作って、そこで奇跡を起こしては銭を集めているらしい。

だから只野公達(ただのきみたつ)も有名人の徳一(とくいつ)を呼んで高額を支払って追善(ついぜん)法要でお経を唱えてもらって、徳一(とくいつ)の奇跡を目の当たりにできたんだから良かったと言えばよかったのでは?と思ったが、自分が食あたりで苦しんでまではうれしくないかも。

只野公達(ただのきみたつ)の屋敷はごく普通で、只野公達(ただのきみたつ)も普通の四十前後のオジサンで、二度目に会っても初対面と間違えそうな特徴のない人だった。

若殿(わかとの)只野公達(ただのきみたつ)と対面して早速、

「食あたりの原因はわかっていて、徳一(とくいつ)がそれを食べたのに平気だったというのは確かなんですね?」

只野公達(ただのきみたつ)は奇跡を目の当たりにしたという感動のせいなのか上ずった声で

「そうなんです!出席者は全員、汁物を食べたあと、腹痛と吐き気と下痢で大変でしたのに、徳一(とくいつ)様だけはシャンとしていて、弟子とともに我々を介抱してくださった。」

徳一(とくいつ)が汁物を食べるところを見たんですね?」

(その2へつづく)

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