表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/367

強請りの精霊飛蝗擬(ゆすりのしょうりょうばったもどき) その3

若殿(わかとの)はくだらないという顔で

「内容をよく読みましたか?妹の恋の相手の名をみましたか?そんな男などこの世に存在しません。ばかばかしい。」

と吐き捨てると、藤原清貫(ふじわらきよつら)が焦って、そばに置いていた文箱から紙を取り出し読み返すと

「ええと・・・?どういうことですか?相手の男は殿上人の貴族じゃないんですか?」

「あなたは無官なので、朝廷のことに暗いのでしょう。妹の女官が盗んであなたに売ったその恋文は、妹の書きかけの物語の主人公が、恋文をかく場面の中の恋文の内容です。よく読めばわかるのではないですか?」

藤原清貫(ふじわらきよつら)は驚きすぎて固まっていた。

恐喝するにもリサーチはしっかりして事実確認をちゃんとしないと恥ずかしい失敗をするんだなぁと勉強になった。

「文を盗んだ女官もそそっかしいですが、あなたもよほどの間抜けですね。」

若殿(わかとの)がピシャリと言い放った。

私は温子(よしこ)様が書いたのが恋物語(ラブストーリー)なんて意外だなぁと思った。

あの(たくら)みに満ちた顔から察するに、権謀術数(けんぼうじゅつすう)渦巻く間諜(スパイ)モノとか書きそうな雰囲気なのにと。


 藤原清貫(ふじわらきよつら)を充分、(へこ)ませたのを確認した若殿(わかとの)は真面目な顔になって

「もう一つあるのですが。恐れ多くも帝の姉君の秘密を入手して銭を強請(ゆす)り取ったらしいですね?」

藤原清貫(ふじわらきよつら)はニヤリと含み笑いをして

「あぁ。あの情報は本物でした。銭になりましたから。」

若殿(わかとの)はちらりと私を気にして

「あなたはどこまで知っているんですか?」

藤原清貫(ふじわらきよつら)はまたニヤリとして

「どこまでとは?確か姉君が帝にあてた文には『あの子に一目会わせてほしい』という事が書いてありましたから、姉君と帝が子供を介してつながっていることがわかります。」

若殿(わかとの)が頷くと藤原清貫(ふじわらきよつら)は続けて

「その姉君は確か、かつて賀茂斎院(かもさいいん)であらせられた。生涯未婚であるはずのお方が子を産んでおられてそれが帝の子となれば、大スキャンダルではないですか?」

若殿(わかとの)が真剣な表情になって低い声で

「その子の行方(ゆくえ)は知ってらっしゃいますか?」

藤原清貫(ふじわらきよつら)は探るように若殿(わかとの)の目を見て

「それは・・・・どういう意味ですか?あなたも何か知ってらっしゃるのですか?」

「あなたの答え方次第では、私は汚い仕事をする羽目(はめ)になるのです。」

藤原清貫(ふじわらきよつら)は一気に青ざめて

「いいえ!何も知りません!その御子(おこ)行方(ゆくえ)など、その文には(しる)してありませんでした!誓って何も知りません」

と慌てて(つば)を飛ばしながら焦った。

若殿(わかとの)は少し表情を緩めて

「では、生涯そのことを黙っておいてもらう見返りは何がいいですか?私が(あるじ)に頼んであげましょう。銭ですか?官位ですか?」

藤原清貫(ふじわらきよつら)はここぞとばかりに口早に

「はいっ!じゃあ官職をいただきたい!できれば京に!」

「図々しいですね。(あるじ)に話しておきます。そのかわり・・・わかってますね?このことを少しでも漏らせばあなたがどうなるか?」

若殿(わかとの)(すご)むと藤原清貫(ふじわらきよつら)は縮み上がって何回もウンウンと首を振った。

結果、藤原清貫(ふじわらきよつら)はその年の除目(じもく)讃岐(さぬき)権大掾(ごんのだいじょう)に任じられて、地方だが官職を得て願ったりかなったりだった。

藤原清貫(ふじわらきよつら)若殿(わかとの)のつながりはこの後もずっと続くのだが、この時はまだ知る由もない。)

藤原清貫(ふじわらきよつら)は別のネタがあると付け加えた

「確か、『年料舂米(ねんりょうしょうまい)焼失事件』を調べてらっしゃるんでしょう?」

(その4へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ