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獄門の木(ごくもんのき) その3

 翌日、さっそく村長に会うと若殿(わかとの)

「去年の四月ごろ、寄三郎(きさぶろう)という人がこの村の女性に何か贈り物を持ってきませんでしたか?」

というと、村長はきょとんとして

「え?いいえ。昨日あちこち見て回られてわかるように、この村には京の都から贈り物を送られるような、(みやび)女子(おなご)なぞ一人もいませんわい!はっはっは!何をおっしゃるかと思えば」

と笑い飛ばされた。

確かに昨日見て回った小屋はどこも狭くて住んでる人たちも都の人々が持ってる衣装や調度品や宝飾品などにはまったく縁がなさそうな人ばかりだった。

中条千尋(ちゅうじょうちひろ)の贈り物の宛先にこの村があったというのは若殿(わかとの)の勘違いでは?と思っていると若殿(わかとの)が村長に突然

「ところで、この村では腹の虫が流行っているのでしょう?治療はどうしました?」

というので私は『えぇ?!じゃあ昨日の閑所(かんじょ)でみたものは腹の虫(条虫などの寄生虫)の一部か虫卵?』と思ってびっくりした。

村長も驚いたようだが

「あぁ。お気づきでしたか。あれは一年ほど前でしたか、腹痛や吐き気や下痢を訴えて尻から腹の虫がでてくるものがたくさんおりましたので困っておりましたところ、ちょうどよく効く虫下しの薬を商人が京から売りに来てくれまして、助かりました。

今ではすっかり減ったと思っていたのですが、まだ虫をみつけましたか?」

若殿(わかとの)が頷いて

「発狂の原因もその虫のせいだと思われます。」

村長は今度はもっと驚いて

「はぁ?脳の(やまいに)に?腹の虫が脳にまで行くというのですか?」

「そういう事実を過去に何件か聞いたことがあります。とくに、猪を飼育している場所でよく起こるようです。人の糞便とともに排泄された虫卵に汚染された飼料で猪を飼育している場合に。」

「でも確か発狂した彼も虫下しを飲みましたが。」

「脳まで薬が届かないのかもしれません。」

「はぁ~~そんなことが・・・。じゃあどうすればいいんのでしょう?」

と村長は困った顔をしたが、若殿(わかとの)

「糞尿を肥料にする前に、糞尿を入れた壺を土に埋めて蓋をして、よく発酵させてください。熱で虫卵が死滅するように。それと猪の肉を食べる場合は赤い部分がなくなるくらい火を通して食べるようにしてください。肉の中にも虫がいます。」

と言うと『なるほど』と大きくうなずいて村長は納得したようだ。

「ところでその虫下しを売りに来た商人は眉が太く目元の彫りが深い四十半ばの男じゃないですか?」

村長は今度もまたびっくりして、ついには若殿(わかとの)を神通力でもある仙人か何かと思ったかのように拝みだした。

「はぁ~~~!ありがたや!あなた様の言う通り、その男は眉が濃くて太い、彫りの深い四十半ばの男でした!本当に何でもお見通しじゃ!参りました。」

とすっかり心酔した様子で手を合わせて頭を何度も下げた。


 狂人発生の謎が解けたので調査は終了し京に帰ることになった。

帰り道、私は疑問に思って

「それにしても商人がちょうどいいタイミングで京から虫下しを売りに来るなんてこの村はラッキーでしたよねぇ。腹の虫が発生したのは不運でしたが、不幸中の幸いですねぇ。」

私はアレ?と思って

「そういえば、虫下しを売りにきた商人が寄三郎(きさぶろう)ってことですか?贈り物がその薬のことだったんですか?でも猪飼(いのかい)村に虫下しの薬が必要な事が中条千尋(ちゅうじょうちひろ)になぜわかったんですか?いち早く腹の虫の発生を知るための情報網があるってことでしょうか?」

と言った後で私はますます混乱して

「でも、中条千尋(ちゅうじょうちひろ)寄三郎(きさぶろう)に命じた文は数十枚ありましたよねぇ。贈り物は全部、虫下しの薬ですか?それとも別のものですか?なぜ中条千尋(ちゅうじょうちひろ)はそんなことをしたんですか?というか、地方で腹の虫が発生した情報なんて朝廷に届くんですか?」

若殿(わかとの)はニヤリとして

「京に帰るとすぐに中条千尋(ちゅうじょうちひろ)に会って、直接問いただしてみよう。」

(その4へつづく)


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