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不老の唐衣(ふろうのからごろも) その3

 その日から一週間もたたずに例の連中が現れたので屋敷に来てくれと長岑小名(ながみねすくな)様から連絡があった。

私と若殿(わかとの)は急いで駆けつけると、門の前に二人は座り込み、一人は長岑小名(ながみねすくな)様の雑色二人と罵りあっていた。

若殿(わかとの)が何気ない風に

「少し近くを通りかかったのですが、何か問題ですか?」

と割って入るとガラの悪い連中の一人で雑色と言い争っていた(やから)

「お前には関係ない!去れ!」

と息巻いた。

長岑小名(ながみねすくな)様の雑色は若殿(わかとの)に気づいて話しかけようとするが若殿(わかとの)は首を横に振って何も言わないように制した。

若殿(わかとの)が続けて

「私はこちらの貴族と懇意にしているものです。長岑小名(ながみねすくな)殿から問題の解決を図るように依頼されまして。銭の額についても話し合うよういわれてます。」

(やから)は銭という言葉に反応したらしく

「じゃあお前でいい。銭は毎回あと五百(もん)、多く支払ってもらわないとダメだ。」

長岑小名(ながみねすくな)殿は今まで何回あなた方に支払いましたか?」

「そりゃブツが調達できる度だから月二・三回にはなるだろう。それをかれこれ十年にはなるだろうから・・・テメエで計算しろ!」

「じゃあ値上げはいつからですか?」

「先月分からだから、六回分は差額を払ってもらおう。」

「証文はありますか?」

(やから)は疑いを持ち出したようで若殿(わかとの)を不審な顔でみつめ

「お前は本当に長岑小名(ながみねすくな)に頼まれたのか?」

若殿(わかとの)は焦りを顔に出さないようにして

「ええ。ああ、そういえば証拠になるものは残さないようにという約束でしたね。モノがモノだけにね。」

(やから)は半信半疑で目の端で若殿(わかとの)をみると

「まぁいい。だから三千(もん)だな。早く支払ってくれ」

若殿(わかとの)は少し考えて

「今は持ち合わせが少ないので、今度のブツのときに引き換えに渡します。いつですか?」

(やから)はニヤリと笑って

「いつってお前、そんなものはお天道様のみぞ知るだよ。大体の予想はできるが、いつブツが手に入るかなんてきっちり日付はわからんだろう?」

若殿(わかとの)は眉を上げ

「ああ、そうでしたね。でも銭の都合をつけるために予想でどれくらい先かだけでも教えてくれますか?」

「今、臨月の女が二人ほどいるから、そうだな、あとひと月以内ってことしかいえんな。」

(やから)がそういうと、若殿(わかとの)は納得という顔をして、

「わかりました。ではその時に銭を持ってきます」

「次の差額含め四千(もん)だぞ。忘れるなよ」

といって(やから)たちは帰っていった。


 私は隠れていた門の陰から出て行って驚きすぎたので

若殿(わかとの)!臨月の女ってどういうことですか?!もしかして、不老不死の妙薬って生まれたばかりの赤子?!やっぱり鬼ですよ!赤子を食らうなんて!」

た、確か過去に聞いたことがある・・・

『仕える姫の病を治すために妊婦の胎内の胎児の生き胆を求めていた乳母が安達ヶ原で妊婦を殺害して胎児の生き胆を得たが、殺した妊婦は成長した乳母の実の娘であったことを知り、鬼に変じた。以来、旅人を襲っては生き血と肝をすすり、人肉を喰らう鬼婆と成り果てた。』

という伝説があったはず!そ、そのままじゃん!

私は自分が見た壺に『赤子の喰い残し』が入っていたのかと思うと吐き気を催した。

「月に二・三回って赤子を売る人がそんなにいるんですか!」

私はショックのあまり大きな声を出して若殿(わかとの)に口をふさがれた。

「まて、さすがに赤子を薬として食うとなれば、帝がお許しになるわけない。」

「帝は薬の材料が何かを知らないんじゃないですか?赤子を使ってできた薬だけを買うのでは?」

若殿(わかとの)

「唐では昔から人の胞衣(えな)(胎盤)を紫河車(しかしゃ)という生薬としてきた。それを食べると傷や病が治ったり、若返るらしい。」

えぇ!胞衣(えな)といえばお産の後にでてくる後産の一部!と驚いたが、ふと、あの連中はどうやって胞衣(えな)を手に入れてるんだろうと疑問に思って

「そういえば連中が胞衣(えな)の入手ルートを独占しているなら、値上げの要求にはどうするんですか?従うように長岑小名(ながみねすくな)様に言うんですか?」

「いや、おそらく連中は産婆から入手しているだろうから、長岑小名(ながみねすくな)殿には産婆と直接交渉するように勧めることにする。」

不老の妙薬が腹の中の赤子を包む衣の事だったとは、『不老の唐衣』というわけか。

私は赤子そのものではないにしても、やっぱり・・・と身震いして、

「人の一部を食べるのは本当だったんだ!どっちにしても気持ち悪いです!」

「いや、食べるとは限らない。毎回新鮮なうちに胞衣(えな)を調達していたという事と、肌がやけに若くて白いという事も合わせると、どうやら肌に直接塗っていたんじゃないかな?湯桶(ゆおけ)(浴槽のこと)に入れたりして。」

胞衣(えな)の入った血みどろのお湯ですか!う~~美容のためでも絶対嫌ですっ!若くなくても色白じゃなくてもいいですっ!」

若殿(わかとの)も頷いて


「普通はそう思うが、楊貴妃や秦の始皇帝の例もあるし、美と若さに対する執念は、人間が人外のものより勝っている唯一のものだな」

 

と言った。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

上半身カマキリ、下半身スズメバチの虫はカマキリモドキというアミメカゲロウの仲間だそうです。

胎盤プラセンタは幹細胞が壊れていない新鮮なうちが一番効き目がありそうですね!

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。

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