供犠の雨乞い(くぎのあまごい) その4~竹丸、夢の世界に恐怖する~
取蕗はキョトンとして
「え?はぁ、それは、東市で購入した物でして・・・・鯨面(*作者注1)の、いくつか分からないぐらいよぼよぼの年寄りから買ったものです。
『遠い異国からきたものだ』
と言ってました。」
さっきからずっと気になってた私は思わず口を挟む
「ねぇ!ちょっと、その笛を吹いてみてくださいよっ!!
どんな音が鳴るんですかっ??!!」
私の想像では、胸というかお腹の丸い部分が空洞なので『ボーーーーーッ』というこもった低い音?
梟の声みたいな??
ワクワクしてると、取蕗は私の子供らしいの好奇心に笑みを浮かべ、尾っぽの穴の開いたところから『ふぅーーーーっ!』と息を吹き込んだ。
・・・・が、スカッーーーと空気が抜けた気配があるが音はならない。
「壊れてるんですかっ??!!鳴りませんねっ?!」
若殿の顔を見ると、驚いたように眉を上げ興味をそそられた表情。
取蕗は「ハハハ」と声を出して笑い、水瓶を持ち上げ、鳥の背中の穴から水を中に注いだ。
えぇぇっっ??!!
何してるのっ?!!
目を丸くして見てると、取蕗は溢れる前に笛に水を注ぐのをやめ、尾っぽの吹き口をくわえて、また息を吹き込んだ。
「ピュロピュロピュロピュロ~~~~」
小鳥がすぐそこでさえずっているかのような、今まで聞いたことのない不思議な音色!!
「わぁっっ!!!
スゴイですっ!!そんな笛があったんですねっ!!
いい音ですね~~~~!
ホントに小鳥が鳴いてるみたいっ!!」
感動してると、取蕗は急に思い出したように悲しげな表情になり
「ですが・・・・ですが、これを買って帰ってから、毎晩、お、怖ろしい夢を見るようになりました・・・」
若殿が険しい顔つきに戻りキラッと目を光らせ
「どんな夢だ?」
取蕗はギュッと目をつぶり眉根を寄せ苦しそうな表情で
「は、はじめは、小高い丘の上に、四角錐状に石段が積み重なった風景が見えるだけでした。
次の日には、その丘にたくさんの粗末な衣をまとった、顔や腕に入れ墨のある人々が集まってる場面を見ました。
みんな石段の頂上を見守っていました。
頂上には背丈よりも大きい長方形の石版があり、そこには彫刻がしてありました。
その絵というのが、三本の虹のようなものがあって、虹の端には化け物のような丸い顔がついていて、虹の下には頭に羽が生えた蛇が口を開けて向かい合っている様子が描かれていました。
また別の日には、石段の頂上の平らな部分に、全身日焼けした肌に、頭に立派な青い羽飾りのついた冠を被った男が立っているのを見ました。
腰には薄い布を巻き付け、頸や腕や足には連玉の飾りをつけてました。
さ、さらに、つ、次の日には、お、怖ろしいことに・・・・・」
ここでグッと口をつぐんで黙り込むので、イラっとして思わず
「何があったんですかっ!?もったい付けないでくださいっ」
口を挟むと若殿にギロっ!とニラまれた。
取蕗はゴクッと息をのみ、
「怖ろしいことに、石段の頂上では、幼い少女と少年が手足を縛られ動きを封じられているように見えました。
そして、頭に立派な青い羽飾りのついた冠を被った男が、手にした石の斧で、素早く子供の頸を切りつけると、血が噴き出しました。
男は碗にその血を受け止めていました。
見守る人々はひと言も言葉を発しませんでした。
そ、それからのことは、知りません・・・・そこでいつも目が覚めてしまうので。」
えっ??!!
ビックリして思わず
「頸を切って血を出すんですかっ??!!
噴き出すほどって、そんなことしたら死にますよねっ?!
何のためにっ?!!
あっ病気の血を抜く、瀉血?ですかっ?」
若殿の顔を見ると、ウウンと首を横にふり
「おそらく、生贄だ。
古代の唐国で祈雨の儀式で夔龍に牛を捧げたように、取蕗の見た異国世界では幼児を生贄として神に捧げるんだ。
それよりっ!
その笛を六歳ぐらいの少女にやった覚えはあるかっ?!」
ギラギラと怒りを滾らせた目つきで取蕗を睨み付ける。
取蕗がオロオロして首をブンブン横にふり
「いいえっ!
ありませんっ!
このひとつを胡散臭いじいさんから買っただけです!
そんな余裕はありませんっ!」
若殿は苛立った口調で
「では少女に声をかけたのはなぜだっ!?」
取蕗はパチパチとせわしなく瞬きし
「夢の中で、石段の上に少女が手を引っぱられて連れていかれるときに、その少女と目が合ったんです。
東市にいた少女がその子にあまりにも似ていたもので、まさかと思いつつも、つい話しかけてしまいました。
全くの別人で怖がられてしまい、それを誰かに見られたんですね。」
う~~~ん。
夢の中で見た人が、もし現実に現れたら、声をかけるかどうか??
悩むけど・・・・・。
気になり過ぎたら声かけるかなぁ~~~?
若殿は腕組みし、ジッと考え込んだけど、すぐにハッ!と顔を上げ
「よし。
じゃ、この部屋を家探しするが、かまわないな!?」
取蕗が『ハイ』と応える前にサッと立ち上がり、櫃や葛籠や床下を調べ始めた。
取蕗が私を見て『何アレ?』と不思議そうな顔をしたので私は肩をすくめ
「恋人の幼女が行方不明になったので、心配しすぎて正常な判断力をなくしてるんです。」
若殿に聞こえないくらいの小声でボソッと呟く。
存分に調べ尽くすと、外に出て長屋の周りをぐるっと一周して見回ったりしてた。
宇多帝の姫の痕跡をどこからも発見できずあきらめた若殿と私は、やっとそこを立ち去ることにした。
(その5へつづく)
(*作者注1:顔面に入れ墨を施すこと、またはその入れ墨をした顔)




