雲隠の追儺(くもいがくりのついな) その2~竹丸、初めて内裏に参入(さんじゅ)す~
はぁ~~~~っっ??!!!
失踪?!!!
誘拐?!!!
邪鬼に連れて行かれた?!!!
陰陽師に呪われて異世界に飛ばされた?!!!
ビックリして
「どーゆーことですか?更衣様なんて周りにお仕えする女房がたくさんいるはずですよね?警備の大舎人もいるだろうし。いつ失踪に気づいたんですか?」
若殿が眉根を寄せ深刻な顔つきで
「そもそも昨夜は、異常事態が次々と起こった追儺の儀式に、宮中の人々が気を取られていて、内裏の一番北にある淑景北舎にお住いの璋那更衣の姿が見えないことに、お付きの女房が気づいたのは元日の朝だったらしい。」
異常事態っっ!!?
怪奇現象っ??!!
鬼を追い払う儀式ってことは鬼?悪霊?が実際に現れたとか?
それとも疫病神?
内裏中の人々が謎の疫病に罹って次々とバタバタ倒れたとか?・・・・はないか。若殿がピンシャンしてるし。
とにかくっ!
何?何が起きたのっ??!!
すっかり興奮し、唾を飛ばして
「何があったんですかっ!!具体的には?!」
若殿が口に手を当ててフワァ~~~と欠伸をし、ムニャムニャ眠そうに
「詳しいことは明日話す。璋那更衣のお付きの女房が失踪発見直後に内侍司に報告したらしいが、私のところへ情報が伝わったのはつい先ほどだった。調べるよう、帝直々にお達しがあった。明日、後宮を訪れ人々に詳しく話を聞くつもりだ。お前も助手として内裏へ入れるよう帝に許可をいただいたから、内裏に参入できるぞ。行くか?」
えぇっっ!!
内裏の中に入って、『後宮』つまり帝の妃嬪たちがいる殿舎が見れるのっ??!!!
こんなチャンスはこの先、一生あり得ないっっっ!!
ウンウンウンウンと首がちぎれるほど頷き
「も、モチロンっ!!お伴しますっっ!!」
「では話は明日だ。今日はもう下がれ。」
は?
お節料理がまだじゃんっ!!
ちっ!話がすんだらサッサと追い払うなんてっ!
自分勝手な人だなぁ!
一方的に言い渡されてムッとしつつ『早く寝なくちゃ!』と自分の雑舎に大人しく戻って寝ることにした。
次の朝、牛車に乗る束帯姿の若殿にお伴して待賢門を抜けて大内裏に入り、いよいよ内裏の南中央にある建礼門に到着した。
若殿が牛車を降り、建礼門と承明門の間で警備する兵衛に私のことを話し、一緒に承明門を通り内裏の中へ入ると、内裏の南庭が広がっていた。
一面に白い砂を敷き詰めた、だだっ広い庭の突き当りには、帝が儀式を行う紫宸殿がそびえたっている。
荘厳な雰囲気に自然と身が引き締まり、緊張で体がカチコチになった。
紫宸殿の正面階段そばに植えてある、西側の右近の橘、東側の左近の桜ですら、『内裏を厳重に守ってます』感があって頼もしい。
内裏の塀に囲まれた中に、パッと見渡しただけでも殿舎の数が半端ない!のが分かって、スゴいなぁ~~!とボンヤリ口を開けて見とれてると、若殿がサッサと紫宸殿に向かって歩き出した。
紫宸殿の正面階段付近まで来ると、地面を指さし
「大晦日の夜は、陰陽師の志茂岳がここで祭文を誦読することから追儺の儀が始まった。ほら、そこに五色薄絁、飯、酒、脯(干し肉)、醢(塩漬け肉)、鰒、堅魚、海藻、塩、柏、食薦(食膳の下に敷く敷物)、匏(ひょうたん)、缶、陶鉢などの供物を並べて。供物や陰陽師の近く、その他いたるところに篝火が焚いてあったから周囲の状況はよく見えたんだ。」
フムフム。
あれ?
「なぜそんなに詳しく説明してくれるんですか?」
若殿が肩をすくめて
「大晦日の出来事を一から順に話してやる。頭の整理もできるし、後でお前が日記に記録してくれるんだろ?」
へ~~~い。
渋々承知。
「まず紫宸殿に帝が出御なされ、公卿たちも南廂や庭に参入したな。私が南廂に控えていると、志茂岳が祭文を読み上げている最中、帝が御簾越しに『あやつが昼間申しておった通り、雨になりそうだな。陰陽頭弓削是雄と違って予言や占いの才は乏しい奴だと思っていたがな。』と呟かれた。以前から度々志茂岳の呪術能力に疑問を呈しておられた。陰陽寮の陰陽師全員の資質を問い直す必要があると仰ることもあった。」
「能力不足の陰陽師はクビってことですか?」
若殿が真面目な顔で頷いた。
「そうだっ!ちょうどそのときに、最初の異変があった。供物の一つである酒の入った甕の中から白蛇が現れたんだ!」
「えぇっっ?蛇ってこの季節は冬眠中ですよね?なぜそんなところから出てきたんですか?不思議ですねぇ~~!」
白蛇?ってことは神の化身?
疫鬼を追い払う最中に?
(その3へつづく)