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破天荒の女王(はてんこうのじょおう) その1

【あらすじ:光る竹を見つけたことからはじまる一連の不思議な偶然の一致。時平様はやむにやまれぬ事情で、高価な贈り物を持参し見知らぬ女性に求婚する羽目になった。このまま、あの有名な物語の通りに話が進めば、その女性はいずれ月に帰ってしまうけど?ホントに?!時平様は今日も繊細過ぎる感受性に苦しむ!】

私の名前は竹丸(たけまる)

歳は十になったばかりだ。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本で権勢随一を誇る(いちばんえらいひと)関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭(くろうどのとう)右近衛権中将うこのえごんのちゅうじょう藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従である。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

宇多帝の別宅に訳アリで、隠し育てられている姫を溺愛していて、周囲に気づかれていないと思っているが、使用人はじめ母君・大奥様にもバレバレ。

若殿(わかとの)いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、はたから見てもみっともないくらい動揺する。

従者としては、たかが小さな女の子に振り回されてる姿はいかがなものか。

今回は『破天荒(はてんこう)』の語源って、せいぜい科挙で受かったこと?ウソでしょ?というお話(?)・・・ではないです。

 ある日の爽やかな秋の午後、宇多帝の別邸近くの竹林に差し掛かると、若殿(わかとの)がふと何かに目を奪われたように立ち止まった。

竹林の奥へ続く小径(こみち)の先を、目を細めてジッと見つめている。


「何かあるんですか?」


「いや、奧で何かが光ったように見えた。入ってみよう。」


スタスタと小径(こみち)を、竹林の奥へ歩いていくのでついていく。


青緑色の、一定間隔で節のある真っ直ぐな(みき)が、一斉に空へ向かって真っ直ぐに伸び、上空で細長い葉をこんもりと茂らせている竹林は、どちらをむいても均一な景色に、ふと方向感覚を失うような気がする。


午後の明るい日差しが、葉叢(はむら)の向こうで輝き、竹林内のほの暗い、清々しい黄緑と直線、紡錘形の点描の濃淡の洪水に、一瞬、墨竹(ぼくちく)図の中に迷い込んだような錯覚を覚えた。


若殿(わかとの)が突然、小径(こみち)から()れ竹林の中に入ると、何かに導かれるように一本の竹に近づき、目の高さ辺りの(かん)(幹)を指さした。


「ほら、見てみろ!(かん)刀子(とうす)が刺さってる。刃に光が反射したのがきらめいて見えたんだ。・・・ん?何だこれは?」


よく見ると、竹に一枚の紙が刀子(とうす)で刺しとめられてた。


若殿(わかとの)刀子(とうす)を引き抜き、紙を手に取りサッと目を通した。


何っ?!

何が書いてあるのっ?


気になってソワソワし


「見せてくださいっ!!」


紙の端を摘まんで引っ張ると、血の気が引いた蒼白な顔つきの若殿(わかとの)の、力が抜けた指から、すぐに紙を奪い取れた。

読んでみると


『きょうは、ことのれんしゅうと、いごのべんきょうをしました。へいじ兄さまがきて、れんしゅうしたことをきいてくれるのを、たのしみにまっています。浄見』


という宇多帝の姫のたどたどしい筆跡の次行に


頭中将(とうのちゅうじょう)源礼子(みなもとれいこ)という姫のもとへ一週間以内に、枝が金、根が銀、実が真珠でできた「蓬莱(ほうらい)の玉の枝」を持参し求婚しろ。さもなければ、この童女(どうじょ)の命の保証はない』


ビックリして思わず声を出し


「はぁっ??!!何ですかこれっ?!どういう意味ですか?宇多帝の姫からの文に誰かが脅し文句を書き足したんですか?文使いに渡した文を奪い取って書いたんですか?若殿(わかとの)と姫の関係を知ってる奴の仕業ってことですよねっ!!???」


でも、若殿(わかとの)刀子(とうす)に気づかなかったらどうしたんだろ?

フツー竹林の中の竹に刺さってる刀子(とうす)なんて気づかないよね~~~?

ふと通りがかっただけだしっ!!

気づく人の方が神経質すぎるっていうか繊細すぎるっていうか。


緊張した面持ちでジッと固まって一点を見つめ、考え込んでる若殿(わかとの)


「どーするんですか?源礼子(みなもとれいこ)って知り合いですか?蓬莱(ほうらい)の玉の枝をもって求婚しに行くんですかっ??!!」


気になりすぎて矢継(やつ)(ばや)に質問かつ即決を迫る。


緊張がとけたようにパチパチと瞬きし、ハッ!と顔を上げ


「浄見の様子を見に行こう!」


急いで宇多帝の別邸に着くと姫は何事も無かったかのように琴の練習をしてた。

若殿(わかとの)が脅迫文が書き足されてる文を見せると、姫はまるっこい指でつまみ、サッと目を通し


「そうよ!浄見がさっきかいて、ふみつかいにわたして兄さまへとどけてもらったの!かんじのぶぶんはしらないわ!なんてかいてあるの?」


若殿(わかとの)が姫と目線を合わせてしゃがみ込み


「誰に渡した?文使いはこの屋敷の雑色か?知ってる人だったか?」


姫はう~~んと首をかしげ


「いいえ。さむらいどころにいくと、しらない人がいて、文をとどけてくれるっていうから、その人にわたしたの!」


侍所(さむらいどころ)にいても知らない人には近づかないようにと若殿(わかとの)は警告を与えた。


姫と遊ぶどころではなくなった若殿(わかとの)は早々に宇多帝の別邸を去り、大内裏の内匠寮(ないしょうりょう)を訪れ、『蓬莱(ほうらい)の玉の枝』製作を頼める職人を紹介してもらった。


う~~~ん。

『光る竹』に、『幼い女の子』に、『蓬莱(ほうらい)の玉の枝を持参して求婚』?ってアレだよね?


脅迫文で指定された一週間以内に製作が間に合った品物を、大内裏から持って帰った若殿(わかとの)がボソリと


源礼子(みなもとれいこ)の屋敷へ行くぞ」

(その2へつづく)

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