表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
283/367

暗中飛躍の黒蛇(あんちゅうひやくのくろへび) その5

はぁ?

何ソレ?

そんなことわかるわけないでしょっ!

占い師か何かと思ってるのっ??!!


イラっとしつつ若殿(わかとの)を見上げ


「いくら何でも無茶振(むちゃぶ)りですよね?わかるわけないですよね~~?」


ちょうどそのとき(とばり)をめくってさっきの僧侶が入ってきた。


「どうだい?誰か合格したかい?」


僧侶は話しながら入ってきて、若殿(わかとの)と私の存在に気づきハッとしたように


「やぁ!これは先ほどの若君ですね。なぜここにいらっしゃるのですか?」


引きつった笑みを浮かべた。


若殿(わかとの)は僧侶を指し示し、(くろ)水干(すいかん)(おとこ)に向かって


「紹介しましょう。彼が先ほど失踪した水池(みずち)です!」


高らかに宣言した。


はぁっっ?????

なぜっっ??!!!!

独楽(こま)回しがイヤで突然出家??!!

聞いたことも無いっっ!

信じられない気持ちでいっぱいになりながら


若殿(わかとの)っ!いくら何でもこじつけですっ!!偶然控室に帰ってきたからって水池(みずち)とは限らないでしょっ!!しかもなぜ僧侶になったんですかぁ??そしてなぜ戻ってきたんですかっ??全く意味が分かりませんよっ!!」


若殿(わかとの)は面白そうに眉を上げ、『では説明しよう!』というように手をこすり合わせて話し始めた。


「まず、『一』が終わったあと、水池(みずち)は急いで衣装を脱ぎ、下着姿で僧坊へ向かい(もとどり)を切り落としたあと剃髪し、用意していた墨染の裳付(もつけ)(ごろも)に着替え僧侶姿となった。その後、散楽(さんがく)見学にきたあちこちにいる私くらいの年齢の若者に話しかけてまわった。」


ハッ!

気づいた私が


「あのっ!!僧坊の縁側においてあった、黒蛇と見間違えた髪の毛の束ですね!一本に固めてあったのは水池(みずち)(もとどり)だったからですかっ!!へぇ~~~~っっ!!」


感心して納得。


水池(みずち)だと名指しされた僧侶は眉を寄せ真剣な表情で


「では、なぜ、私がそのような行動をとったか分かりますか?」


若殿(わかとの)は肩をすくめ


「さぁ?はっきりと断言はできませんが、『黒蛇衆(くろへびしゅう)』という集団に関係しているんでしょう?

例えば、今回の公演に違和感を感じ、失踪の謎を解明できることが入団の条件だとか。

つまり、あなた方は不特定多数の人々、特に若者を希望していたようですが、人々の中から公演中に示された謎を解明し、それを指摘するだけの好奇心・洞察力と行動力を持つ人間を『黒蛇衆(くろへびしゅう)』に加えようとしていたんじゃないですか?」


はぁ?!!

募集を公表せずに、『黒蛇衆(くろへびしゅう)』の入団試験(テスト)をしてたの?

私が(もとどり)を黒蛇に見間違えて若殿(わかとの)に報告するという妙技(ファインプレー)がなければ若殿(わかとの)水池(みずち)が僧侶になったことに気づかなかったでしょっ!!

ちょっとは褒めてよっ!!


水池(みずち)は剃りたての頭が涼しいのが気になるのか、ツルツルの頭を撫でながら


「今回の合格者はあなた一人のようですね。お名前は?」


(くろ)水干(すいかん)(おとこ)が耳打ちすると水池(みずち)はニヤッと含み笑いし首を横に振った。


「いいえ。偽名はいけません。高梨(たかなし)があなたのことを『とうのちゅう』と呼びかけてやめていましたね?つまりあなたは頭中将(とうのちゅうじょう)どの。関白太政大臣・藤原基経どのの嫡男、藤原時平どのですね?」


若殿(わかとの)水池(みずち)をジッと睨みつけながらウンと頷いた。

水池(みずち)


「さすがに、未来の太政官とも目される若き精鋭(エリート)を『黒蛇衆(くろへびしゅう)』に勧誘するわけにはいきませんね。今日のことはすべて忘れてください。ではもう話すことはありません、お帰りください。」


出口に手を差し伸べして示した。


出口に近づいた若殿(わかとの)は出ていこうと(とばり)に手をかけ、何かを思い出したように振り返った。


「褒美と言っては何ですが、教えてくださいませんか?『黒蛇衆(くろへびしゅう)』の背後にいるのは、ここxx寺と同じ華厳(けごん)宗派の南都の権門(けんもん)で、『黒蛇衆(くろへびしゅう)』は諸国の動静を探るのが主な仕事ですか?」


水池(みずち)は静かに頷き


「そうです。朝廷に危害を加える集団ではありません。誤解なさらぬよう。」


急に立ち止まった若殿(わかとの)の背中に、鼻を(うず)めてた私は、歩き出した若殿(わかとの)について控室から外に出た。


帰り道


華厳(けごん)宗の南都の権門(けんもん)って東大寺のことですか?」


若殿(わかとの)は難しい顔つきで


「そう。黒蝮(くろへび)が竜神になるには千五百年かかる(*作者注:『本草綱目』「蛟龍」)というが、毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)が建立されて(752年)以降、奈良法師たちがお主上(かみ)に肩を並べるほどの権力集団へと成長するのにかかった年月は、たった百五十年足らずだったな。」


呟いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

宗教権力(日本の寺院、ヨーロッパのキリスト教会)と世俗権力(日本の朝廷、ヨーロッパの王国)の対立が中世では洋の東西を問わず共通であることなど、人類の歴史って面白(おもしろ)っ!て思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ