表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
282/367

暗中飛躍の黒蛇(あんちゅうひやくのくろへび) その4

若殿(わかとの)もニヤッと口の端を上げ


「ええと、雅楽(ががく)の演奏者うちの一人、おそらく(しょう)の奏者が、出番前になって突然、姿を消したのではないですか?」


(くろ)水干(すいかん)(おとこ)は黒姫やほかの舞楽人(ぶがくじん)たちに目配せしウンと頷くと


「ほほう。なぜそう思われました。」


「竜神が死ぬ場面の演奏です。あの曲は(りつ)黄鐘調(おうしきちょう)でしょう?(しょう)を加えた三つの吹き物がなければ聞き心地の悪いものとなります。(しょう)を吹くはずだった奏者がいなくなったとしか思えません。」


えっ???

そうなのっ?!!

全っっっ然っ気にならなかった!

何なら竜神激怒!の背景に嵐まで想像できたけどっっ?!!!


(くろ)水干(すいかん)(おとこ)はウンウンと頷き


「そうです。あなたの言う通り、(しょう)を吹くはずだった水池(みずち)という男が失踪したのです。

我々は六人で全国各地を興行しております。

独楽(こま)を回した四人が龍笛(りゅうてき)篳篥(ひちりき)(しょう)・太鼓の演奏も担当したのです。

そのうちの一人が水池(みずち)ですが・・・・なぁ、一体、水池(みずち)はいつ失踪したんだ?」


最後は舞楽人(ぶがくじん)姿の一人に向かって話しかけた。


話しかけられた下げみづらの舞楽人(ぶがくじん)姿の一人は、緑色の(ほう)を脱いだらしく、白い筒袖の下着の胸元からモジャモジャの胸毛を見せてた。

その(むね)モジャ(おとこ)


「そういえば、水池(みずち)がいないなと思ったのは最後の演奏のときだなぁ。失踪はその直前じゃないか?」


長く一緒にいると仲間の行動に無関心になるのは必定(ひつじょう)

私も若殿(わかとの)が普段何してるのかに興味ない。


他の舞楽人(ぶがくじん)二人も口々に


「そうだなぁ、黒姫が髪の毛を池に投げ入れる場面で水池(みずち)独楽(こま)を回して歩く役だっただろ?そのときにはまだいたってことだから、失踪はその後だろう。」


「じゃあやっぱり最後の竜神が死ぬ場面の直前にどこかに行っちまったってことになるな」


ええっと、水池(みずち)の動きを明らかにするために場面ごとに整理する。

若殿(わかとの)にも聞こえるように声に出してみた。


「ええと、整理するとぉ、


『一』、黒姫が竜神に愛の告白をされるけど断った場面(シーン)。舞台に出てたのは、黒姫、竜神、独楽(こま)回しの舞楽人(ぶがくじん)が四人。


『二』、黒姫が髪の毛を切り、池に投げ込む場面(シーン)。出演は黒姫と独楽(こま)回しの舞楽人(ぶがくじん)が一人。


『三』、竜神が髪の毛と刀子を飲み込み死ぬ場面(シーン)。出演は黒姫と竜神。控室で演奏は独楽(こま)回しの舞楽人(ぶがくじん)のうち三人。


『一』で独楽(こま)を回してた舞楽人(ぶがくじん)四人のうちの水池(みずち)が失踪したせいで、最後の『三』での演奏がお粗末なものになったというワケか。

フムフム。

でも水池(みずち)は『二』で独楽(こま)を回して黒姫の周りを歩いてたってことは、そのときまではいたってことだから、やっぱり『二』と『三』の間で失踪したんですよね?


アッ!!


確かに『一』のうち一人と『二』の舞楽人(ぶがくじん)(かんむり)を被ってました!

つまり(かんむり)被り舞楽人(ぶがくじん)水池(みずち)ってことで!!

ここに疑問はないですよねぇ~~。」


若殿(わかとの)が顎に指を添え、う~~~ん、と唸ると


「いや、そうじゃない。水池(みずち)は『一』の直後に失踪したんだ。」


はぁ?


「なぜですかっ??!!『二』で独楽(こま)を回してた(かんむり)舞楽人(ぶがくじん)水池(みずち)でしょ?仲間がそう言ってたじゃないですか!」


若殿(わかとの)はウウンと首を横に振り


「『二』での独楽(こま)の回す方向が『一』とは違った。『一』では四人とも独楽(こま)を左回りに回転させていたが、『二』では右回りに回転させていた。つまり『一』の四人以外の誰かが『二』で回していたんだ。体で覚える曲芸に関して一度身に染みついた技のやり方を急に変えることはできない。左回りに独楽(こま)を回してた人物が突然右回りに回せるとは思えないからな。」


言われてみると確かに『二』で違和感があったけど、そうなのかぁ!!

独楽(こま)を回す方向が逆?

う~~~ん、思い出してみてもよくわからないなぁ。


「じゃあそれが本当だとしたら、外部の人間がいきなり舞台に乱入して『二』で独楽(こま)を回したんですか?いくら白仮面をつけてたからって仲間が気づかないんですか?まさかぁ~~!」


嘘でしょっ!

の意味を込めて不満を鳴らす。


若殿(わかとの)(くろ)水干(すいかん)(おとこ)に向かって目を細めて微笑み


「違う。『二』で、独楽(こま)回しの舞楽人(ぶがくじん)は、控室の(とばり)から出てくるところを観客に見られていた。

それ以前に外部の人間が控室に潜り込み、舞楽人(ぶがくじん)の衣装に着替えて出演するとなると、さすがに仲間の誰かが気づくはず。

では散楽(さんがく)集団の中で独楽(こま)を回すことが可能だった人物とは?

黒姫は出演中、舞楽人(ぶがくじん)三人は左回りに独楽(こま)を回すから、残る一人は竜神役のあなただけ。

つまり『二』で独楽(こま)を回したのはあなたですね?

だから『三』で竜神が出てくるのが遅れた。

舞楽人(ぶがくじん)の衣装を脱ぎ、袴はそのままでも髪は(もとどり)をほどきザンバラにし、竜神の衣装を身につけるには、ある程度の時間が必要だった。」


確かに!

『二』のあと、黒姫が一人でつないでた変な間があった!

あのとき(くろ)水干(すいかん)(おとこ)が必死で着替えてたのかぁ~~~!!

髪をザンバラにし、緑の(ほう)を脱ぎ、黒水干は少なくとも着ないとダメだし。

袴は舞楽人(ぶがくじん)のそのままだから白にかわってて、急いでたから黒水干は帯もせずダランとしてたのか!

激怒竜神調整(アレンジ)じゃなかったのね!

納得!

でも(くろ)水干(すいかん)(おとこ)は竜神演技だけじゃなく独楽(こま)も回せたのね!

何気(なにげ)にスゴイっっ!


(くろ)水干(すいかん)(おとこ)は満足したようにウンウンと大きくうなずき、ウ~~ンと唸りながら腕を組むと、上から下まで若殿(わかとの)を舐め回すような視線を走らせると


「はい。その通り。なかなかやりますね。

実は、ある目的のために、水池(みずち)の代役を引き受けたんです。しかし、実際は着替えだけでも時間がかかる上に竜神の演技に独楽(こま)回しと、思ったより煩雑でやることが多く、忙しくて大変でした!

では『一』のあと失踪した水池(みずち)は今どこにいると思いますか?」

(その5へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ